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152話 闘いが呼ぶモノ Danger_Grimoire. part3

 「やりすぎたんじゃないか?」

 『霊衣憑依(ポゼッション)』を解除し、額に浮かぶ汗を吹く往人にアイリスがそう言った。

 確かにロクサスは強いが、それでも切り札(ポゼッション)を切ってまで闘う相手かと言われると若干の疑問符が浮かぶ。

 


 「いやあ、おめでとう! 強いねぇ、ユキトくん!」

 だが、そんな心配も吹き飛ばすかのような声が控室へと飛び込んできた。

 負けたというのに爽やかな笑顔をしたロクサスが入ってきたのだ。

 急な来客なため、クリスが怯えたように備え付けられたソファーへと身を隠す。まるで小動物のようにそっとロクサスの方へと視線を向けている。

 「ロクサス……」

 「ハハハ、まさかあんなに強いとは思わなかったよ。てっきりその剣を使うものと思い込んでいたからねぇ。アノレベルの魔法を使いこなすとは、流石だよ」

 「そう言われると、若干良心が痛むな……」

 あの力は『魔王』からの借り物。往人本人の力、という訳ではないのでこうも真っ直ぐ賞賛を受けると少し後悔をしてしまう。

 やはり、自分だけの力で闘えばよかったか、と。

 「うん? よく分からないが、カミシロ=ユキトとして闘ったのなら何も恥じることはないだろう? どういった力であれ、それを使うことが出来るのだから」

 「それが誰かからの借り物でもか?」

 「ああ、むしろあれだけの力を貸してくれるってことは、それだけ君の人徳があるってことさ。それも立派な実力だと俺は思うな」

 


 なるほど、と往人は感心した。

 確かに相手から信頼されていなければ力を借りることなど出来はしない。

 『霊衣憑依(ポゼッション)』をしてその力を振るえるということは、それだけリリムス、そしてアイリスに信頼されているということなのだ。

 「そういう考えもあるのか……」

 「まぁ、負けたことは素直に悔しいしあれだけの実力を隠されていたのはちょっと恨めしい気持ちもあるけどね」

 言いながらも、それほど後者のことは気にしていないようにクリスにポケットから飴玉を取り出し差し出している。

 「そっちの人もそろそろ試合だろ? 準備はいいのかい?」

 「うん? ああそうだな、行ってくる」

 二回戦の第二試合はアイリスの出番。

 腰の剣の調子を軽く確かめると控室から出ていった。

 「あの人も強いよねぇ。君たち一体何者なんだい?」

 「え? ああ、いや……なんと言ったらいいのか……」

 まさかクーデターを起こされた『女神』と『魔王』、さらに違う世界からやって来た『異界人』、その上『人造人間』の一行などと言えるわけもないし、言ったところで信じてもらえるはずもないだろう。

 自分で思っていてもウソみたいな話しだとしか思えない。

 「フッ、まぁ詳しくは聞かないよ。いろいろ事情もあるだろうしね」

 察したのか、ロクサスはそれ以上詮索はしないでいてくれた。

 「代わりに、ここで試合を見ていてもいいかい? 負けちゃったから控室が使えないんだよね」

 「ああ、別に構わなよな?」

 往人はロクサスの言葉を快諾し、リリムスとクリスもそれに頷く。

 闘うことが好きなようだから、他者の戦闘も見て糧にしたいのだろう。

 「おっ、君たちの仲間の闘いがはじまるぜ」


 

 言われて三人も窓から舞台を見下ろす。

 対峙する両者の紹介も終わったのか、ちょうど試合開始の銅鑼が大きく鳴らされた所だった。

 早速、アイリスと向き合っていた大柄な女が両の手を大きく開いて掴みかかるように襲い掛かっていく。

 「しっかし、ほとんどのヤツが大柄な人間ばかりねぇ。脳筋の為の大会なのかしらぁ?」

 リリムスがからかうように笑うが、それも当然と言えば当然である。

 人間界にも魔力が在り、魔法が普及しているとは言っても、その量や精度は『魔族』からすれば児戯にも思えるような物。

 ならば、個々人の実力を指し示すために必要となるのはやはり肉体になってくるのだ。

 ロクサスのような爽やか少年が強い、というのは結構な例外と言える。

 


 だが、その人間に於ける指針も『天界』を統べる王には通用しない。

 掴みかかるように広げられた腕を躱すと、一瞬でその背後へと回る。

 慌てて振り向いた大女のその横顔へ向けてアイリスのハイキックが炸裂する。

 白目を向いて後ろに倒れる大女をよそにアイリスは、沸き起こる歓声に疲れたような表情を浮かべていた。

 「こんな見世物の何がいいんだか……」


 これで、アイリスと往人の闘いが決定したのだった。

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