151話 闘いが呼ぶモノ Danger_Grimoire. part2
「さあ、予選と第一回戦を終えて一夜明け、未だ興奮冷めやらぬ中での二回戦目!! 今日も大いに闘ってもらいます!!」
進行役の男が叫ぶと、観客たちも早く闘いを見せろとばかりに声を張り上げる。
もちろん、その様子はサンドロスも眺めていた。
「さぁて、まずはどんな闘いになるかな?」
豪奢で安全な場所から眺める命がけの闘争。サンドロスは見るたびにいつも愉悦を感じていた。
「出来れば死んでくれるとより楽しいんだがね」
そんなことを言われているとはつゆ知らず、往人は舞台へ繋がる扉の前に立っていた。
(オレが勝つためか……)
調子を確かめるように首を軽く捻る。
そのとき扉が開き、往人は足を動かす。
一回戦目と同様、ピンスポットライトのように光が当てられ進行役の男が叫ぶ。
「まずはカミシロ=ユキト選手! 一回戦目では巨漢のフレデリック選手をあっという間に蹴散らして見せたが、今回も一瞬の決着となるのか!? 対戦相手が出てきます!!」
男が手を反対の扉へと向けると、光もそれにつられるように動いていく。
光の中から現れたのは暗い紺色の武闘着に黄色いベルトを巻いたツンツン髪の少年、ロクサスだった。
「対するはロクサス=エルムッド選手! こちらも凄まじい体術で魔法攻撃を物ともせずに決着をつけた強者! これは中々の好カードとなりました!!」
――ォオオオオオ!!!!
観客たちも待ちきれないといった様子で歓声を上げる。
まるで肉を前にした猛獣のような叫びだった。
「ハハハ、まったく呆れるね」
「同感だな」
それだけ交わすと、銅鑼が激しく音を立てる。
両者は走り出し、拳がぶつかり合う。
「いい目だね。闘う者の目をしているよ」
「そうだな。お前のおかげだよ」
往人はぶつかり合った拳をすぐに引き、虚空から杖を取り出した。黒地に赤のラインが入った杖を。
それは『魔王』の杖。莫大な出力にも耐えうる強靭な武器。
すなわち――
(本当に良かったのぉ? ワタシと霊衣憑依してぇ)
往人だけが聞くことのできる声が頭に響く。
それは往人と肉体を共有しているもう一つの魂、『霊衣憑依』により往人へとその莫大な魔力を貸し与えているリリムスの声だった。
(ああ、オレが持ちうる全てを出す。それが闘いに向き合うってことなんだ)
杖を頭上に掲げると、空間にいくつも火球が発生する。
それを驚く顔のロクサスへと向けて降り注がせる。
「悪いな、フェアでないけど」
「いや、君の本気を見れるようで嬉しいさ!」
流星群のような火球の群れをロクサスは拳で、蹴りで、的確に砕いていく。
そして、最後の火球を砕くとそのまま勢いよく地を蹴り往人へと突進していく。
「俺の本気も見てもらいたいな!!」
眼前にロクサスが迫る。
身体強化の魔法を使っていたのか、拳が赤く輝いている。それをまともに喰らえばいくら『霊衣憑依』をしていようと大きなダメージは免れなかった。
そう。まともに喰らえば。
「なっ……!?」
突き出した拳が往人に突き刺さるが手応えはまるでなかった。
それがどういうことなのか、ロクサスが気が付いた時はすべてが遅かった。
「だからフェアじゃないって、言ったのさ」
ロクサスの耳にその言葉が飛び込んで来た時には、体は宙を舞い目の前に杖を構えた往人の姿があった。
左目が薄紫色に怪しく煌めくとロクサスの体が凄まじい水圧を受ける。
杖から放たれた爆裂的な水流に押し流され、ロクサスは地へと転がる。
「くっ……!?」
すぐに体を起こそうとしたが、それは叶わなかった。
周囲を取り囲む金属質の杭が、そのままでは突き刺さるからだった。
その中心に往人が立ち、紫電が纏う杖を突き出している。
勝敗は決していた。
「…………ハハ、負けたよ。まさかここまで強いとはね」
銅鑼が大きく打ち鳴らされる。
そして、その音と観客たちの歓声を聞きながら豪奢な椅子に腰かけた皇帝は興味深げにその光景を眺めていた。
「へぇ、あの人間……面白いじゃないか」