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150話 闘いが呼ぶモノ Danger_Grimoire.

 「何を考えているか当ててみようか?」

 一夜明け、闘技大会の二回戦目が始まろうとしている。

 その中で往人(ゆきと)が難しい顔をしていると、アイリスがそんなことを言った。

 「昨日の実験のことを考えていたんだろう?」

 「そりゃあな……」

 ロクサスの言っていたこと。


 『メロウ帝国』は闘技大会を実験に利用している。


 そんなことを聞かされてはどうしても意識はしてしまう。

 「アイリスはどう思う?」

 横に立つ『女神』へと往人は聞く。リリムスもそうだったが、アイリスもあまりその事を強く意識しているような印象は受けなかった。

 「所詮は噂だしな。それに実験の詳細も分からない以上、気にしても仕方ない」

 「そっか……そうだな、実験って言葉だけでクリスのことを考えてネガティブなバイアスがかかっていたかもだしな」

 往人は記憶の片隅にこびりつく胎児の入った容器、そこに書かれた『勇者再現実験体』の文字を追い出すように頭を振る。

 「とにかく今は優勝することを考えよう。このまま二人とも勝てば、次はユキトとも闘わなければならないしな」

 「え……?」

 不意に言われた言葉に、往人の思考が一瞬停止する。

 だが、すぐにその言葉の意味を理解し顔を手で覆った。

 そう。二回戦では六人から三人になる。そして、その三人で総当たりによる優勝争いをするのだ。

 それはすなわち、往人とアイリスの両者が勝ち残れば必然的に闘い合うことを意味していた。

 


 「どうしよう……」

 「私としては闘ってみたいな」

 言われて往人は目を見開く。

 そういったことには絶対反対すると思っていた者から、まさかの言葉が飛び出したのだ。

 驚くな、という方が無理があるが。

 「そんなに驚くなよ。女神という立場に就いてはいたが、別に私自身は品行方正という訳ではない。強者との闘いに心を踊らせるような奴さ」

 照れくさいのか頬を軽く指でかきながら僅かに視線を逸らす。

 その言葉にも驚きを隠せず目をパチクリさせる往人。彼女もどちらかと言えばトールに近い性格だとは思わなかった。

 「あんまり気乗りはしないなぁ……」

 共に旅をする仲間と拳を交える。それも当然気乗りしない原因ではあるが、それよりも往人がアイリスと闘うことを良しとしないのは彼女自身にあった。

 (アイリスみたいな超美人に拳を向けるなんて出来ないよなぁ……)

 リリムスもそうだが、アイリスは今まで往人が出逢ってきた女性のなかで誰よりも凛々しく美しかった。

 それに向けて拳を振るう、もしかしたら剣すら抜くかもしれないことを考えると、男として何か超えてはいけないラインを超えてしまうような気がするのだ。

 別にアイリスの容姿が芳しくなかったとして、進んで闘うかと聞かれればそれもノーなのだが。



 「やあ、昨晩はどうも」

 その時、後ろから声をかけられた。

 振り返ると爽やかな笑顔を浮かべた黒いツンツン髪の少年、ロクサスが立っていた。

 昨晩とは違い、暗い紺色の武闘着を黄色いベルトで締め付けるように巻いている。

 それが彼の戦闘服なのだろう。手に着けられた厚手の指抜きグローブの調子を確かめるように閉じたり開いたりしている。

 「お前か……」

 「おや? 浮かない顔だね。そんなんじゃ二回戦を勝ち抜くのは難しいんじゃないか?」

 往人の悩みに気が付くはずのないロクサスが言う。

 お互いに頑張ろう、とコロッセオへ向かう人の波の中に消えるロクサスの背中を少しうらやましく思う往人。

 「勝つことに貪欲か……」

 恐らくロクサスは仲間と闘うことになっても、悩んだりはしないだろうなと考える。

 それは単純、という意味ではない。それだけ闘いに真摯であるということだ。

 それはアイリスも同じだろう。

 闘うということに正面から向き合い、自身の糧とする。

 そこに何者の思惑も、仲間だからという言い訳もない。

 「ユキト?」

 「いや、なんでもないよ。そうだな、もしも闘うことになったら互いに全力でやりあおう」


 吹っ切れたのか、往人はアイリスへ向けて闘う覚悟を告げた。

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