15話 天の剣は勇気と共に The_EX-calibur part2
リリムスがすぐさま扉をぶち破って、廊下へと躍り出る。往人も慌ててそれに続く。
「なっ……!?」
そこにいたのは苦しそうに顔を歪めたアイリスだった。
何者だろうか、後ろ姿で分からないがアイリスの首根っこを鷲掴みにして持ち上げている。
それほど大柄でもないのに信じられない腕力だった。
「やめろぉ!!」
往人はアイリスを助けるために何者かへと拳を振りかざす。
だが、所詮はただの人間の拳。『天族』の長たるアイリスすらも掴み上げる者に届くはずもなかった。
「ふん!」
「……、っ!?」
空いた手による裏拳の一撃で往人は後方へと二、三メートルは軽く吹き飛ばされる。体を思い切り壁に激突させられまともに呼吸も出来なくなってしまう。
「大人しくしていろ。貴様は後だ」
野太い声と共にゆっくりと振り返る。鋭い目つきをした全身を白に包んだ男だった。
「アンタ、天族ねぇ?」
「貴様も処分対象だ、魔王」
冷たく言い放ちアイリスの首を掴む右手に力を込める。
「がっ……はぁっ……」
より一層険しい顔つきのアイリスが何とか逃れようと手の中で暴れるが効果はない。
「土塊の体の貴様ではどうも出来まい。そこで見ていろ、この女の最期を」
冷笑と共に腕の筋肉が膨れ上がる。アイリスの、追い落とされた王の命を摘み取る為に。
「させ、るかっ……!!」
往人の左手が光り輝く。紫色の光が、まるで胎動するかのように。
そのまま光はレーザーのように真っ直ぐな軌跡を描いて、アイリスの首をへし折ろうとする腕へと届く。
音はなかった。ただ静かに光は天族の男の腕を切り落とした。鋭い刃が柔らかい物を斬った時のように何の抵抗もなく。
最初は男も何が起きたか理解できないようだった。自分の腕が床に落ちた鈍い音を聞き、ようやく脳が痛みを認識したようだった。
「――――ッ!?!?!?」
それは声にならない叫びだった。凄まじい量の鮮血を溢れさせる右腕を押さえて男は往人を睨みつける。
「なんだ……? 何をした……?」
息も絶え絶えに憎悪の声を漏らす男。
往人はゆっくりと立ち上がり、そんな男を睨み返す。
「アイリスをそれ以上傷つけさせはしない。大人しく消えろ」
だが男は不敵に笑っていた。未だ夥しい血を流しながらもその口元は笑みで歪んでいた。
「くく、もう勝った気でいるのか……甘いんだよっ!!」
男の姿が往人の視界から消えた。
「ユキトッ!! 後ろだ!」
アイリスの声が往人の耳に届くのと、天族の男の蹴りが脇腹に突き刺さるのはまったく同時だった。
「がぅ……!!」
体をくの字に折り曲げ床を転がる往人。そこに男の追撃の踏みつけが迫る。
「させない!!」
一気に距離を詰めたリリムスが防御魔法で往人を護る。
「言ったはずだ! 今の貴様にこの私の、バルドルの力を止めることなど出来ないと!!」
盾のように展開されている魔法陣が天族の男、バルドルと名乗る男の足によってヒビが入っていく。
リリムスも魔力を込めて対抗しているがヒビが入る速度に追いつかなかった。
「……く、あっ!?」
「ふん!!」
そのままガラスが砕けるような音を響かせ魔法陣が砕ける。その勢いのままバルドルはリリムスを思い切り蹴り飛ばした。
「きゃあ!?」
短い悲鳴と共に壁へと激突するリリムス。意識を失ったのかぐったりと動かなくなってしまった。
「リリムス!!」
「手間取らせる」
吐き捨てながらバルドルは残った腕を、切られた腕へと翳す。
光に包まれた腕はなんと再生していくではないか。
「なんでもアリかよ……」
いくら魔法とはいえメチャクチャだった。これではいくらダメージを与えたところで倒すことが出来ない。それこそ一撃で殺さない限りは。
「大丈夫だ、私がいる」
背中を軽く叩かれた往人が振り返るとアイリスが立っていた。
「そこまで弱った体で何が出来ると?」
バルドルが冷たく笑う。
「不意打ちしかできない弱い男に勝てる」
天を統べる者はニヤリと笑った。