149話 闘技大会 Battle_and_Artifice part7
「…………」
「……不機嫌そうだね」
お祭り騒ぎに浮かれる街では食事を取るのも一苦労である。
どこもかしこも人でごった返し、見知らぬ人同士での相席も当たり前。それが顔見知りならば尚更という状態となる。
往人たち四人がようやく確保できた座席に、相席でやって来たのはロクサス=エルムッドだった。
相変わらずの爽やかな笑顔を向けて無遠慮に往人の正面へと腰を下ろす。
「二回戦へと進んだんだ。もっと楽しまなきゃ」
「お前と一緒に楽しむ気は無い」
別に往人はこの男が嫌いという訳ではない。
しかし、この先闘うかもしれない者と楽しく食事を囲もうとはとても思えない。
アイリスとリリムス、クリスもそんなことを気にせずに運ばれてきた食事を口に頬張るロクサスをひきつった顔で見つめている。
「まぁいいじゃないか。敵の情報を事前に仕入れられると考えれば悪くはないだろう?」
「それが目的か……」
どこもあまり変わらないとはいえ、わざわざ混み合う店へとロクサスが足を運んだのはそれが理由だった。
本戦出場者の中でも一際異彩を放つ二人、往人とアイリス。
ロクサスでなくとも、その情報を欲するのは当然とも言えた。
「だとするのなら、こちらとしては尚更去って欲しいものだがな」
運ばれてきた骨付きの肉を豪快に頬張りながらアイリスが言う。リリムスも同調するように頷きながら同じ皿の肉へと手を伸ばしている。
「こっちとしてはアンタのことなんて別に知りたくもないしねぇ。なんであれ、ようは勝てばいいわけだしぃ」
「ふっ、強者の理屈だね。だったら、そうだな……この国で噂されているとある実験の情報はどうだい?」
その言葉に、食べ物を口に運ぶ手が止まった。
そして往人たち三人は、目の前に置かれた肉塊をどうすればいいか分からず、ナイフとフォークを握ったままオロオロしているクリスへと視線を向ける。
彼女も実験により造り出された『人造人間』。近しい記憶なだけに、どうしてもそれが脳裏をよぎる。
「それが闘技大会と何の関係がある?」
あのとき、博士のラボの奥で見た光景。
直感で深入りすべきでないと感じたあの容器に浮かんだ胎児の群れ。
『実験』とやらの詳細は分からないが、闘技大会と関係があるような事とも思えない。
それなのになぜ、目の前のツンツン頭の少年はそんなことを言い出したのだろうか。
「これはあくまで噂だよ? その実験成果をこの闘技大会で披露しようってつもりらしいよ。皇帝サマがさ」
「なるほど……闘技大会なら強い奴が集まる。それを利用出来るってことか」
そう納得しかけた往人をリリムスが制する。そのまま、指先に小さく雷光を纏わせロクサスへと突きつける。
「なっ!? リリムス、何を……?」
見ると、アイリスも腰の剣へと手をかけいつでも抜けるようにしていた。
周囲は喧騒で気が付いていないのが幸いだった。
「実験の内容も分からないのに、闘技大会を利用していると決めつけるのは危険よぉ?」
「そうだな。一方的に開示された情報はまずは疑うのが筋だ」
「信じようと信じまいと俺には関係ないけどね。でも、多分その噂を知らないのは君たちだけだよ?」
二人の敵意を一身に受けながらも、特段気にせずにロクサスはクリスの目の前の肉塊を切ってあげて食べやすくしている。ついでに一切れ口に運びながら。
「うん、美味い。……だからさ、教えてあげようとわざわざ来たってわけ」
「なんでそんなことを……俺たちがそれで何かを話すかは分からないだろうに」
往人が口にした当然の疑問に、ロクサスは小さく笑いながら答えた。
「君が言ったんだろ? フェアじゃないって。なぜか君とはイーブンな条件で闘いたくなってね。大会の裏の噂も共有するのもフェア精神ってやつさ」