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147話 闘技大会 Battle_and_Artifice part5

 「ユキトは勝ったか……」

 薄暗い通路を歩きながら一人呟くアイリス。

 特段心配もしていなかったから、そうだろうな、というのが正直な感想だった。

 


 『異界人』とは言え、神代往人は普通の人間。それも魔法を使うことはおろか魔力さえ有していなかったというのに、この短期間で異様ともいえる成長速度で強くなっていき、引き出せていなかった『魔導書』の力を使いこなし始めるところまで来ている。

 その加速度的な成長速度を考えれば大抵の相手では歯牙にもかけないのは明白だった。

 「私もさっさと終わらせなくては……とは言え油断は禁物だが」

 扉の前に立ち、運営スタッフから規定書(ルールブック)を手渡されるがもう読んだ、と適当にあしらって目を瞑る。

 本戦出場者ということでそれなりに戦えるものもいるが、やはり人間。

 『天界』の、それも頂点たる『女神』にとっては弱体化をしている身であってもそれこそ歯牙にもかけない相手であることは疑いようもない。

 アイリスにとって、この大会は通過点に過ぎない。

 世界に三冊しかないはずの『魔導書』。その四冊目かもしれない物があるとなれば状況も大きく変わってくる。

 それを確かめるものでしかないのだ。

 だから、自分か往人がとっとと優勝して『魔導書』を押さえる。

 その為にも油断などして足元を掬われるようなことは避けなければならない。



 アイリスが精神を集中させていると、鈍い金属音を小さく立てて扉が開く。

 目を開き扉をくぐる。

 対戦相手はすでに中央の舞台に立ち、こちらを値踏みするように視線を向けていた。

 しっかりと鍛えられた筋肉に、それを包む鎧。両の手には両刃の大剣と盾が握られ、まさにステレオタイプの戦士といった風体の大男だった。

 (ユキトならげぇむ? とやら出てきそうとか言うのかな?)

 やはりアイリスの敵ではない。共に旅する少年の(いだ)きそうな感想を想像する余裕がそれを証明している。

 「ダインズ選手と相対するは今大会でも数少ない女性での出場選手! その美貌に強さまで兼ね備えたアイリス選手だあ!!」

 

 ――オォオオオオオオオ!!!!!


 アイリスが舞台へ上がると歓声が響く。主に野太い声が。

 やはりこういった大会では女性の参加者は少なくなるし、本選出場ともなると輪をかけて少なくなる。

 それに大会を観戦するのもやはり男が多い。その中にアイリスのように非常に美しい女性が出るとなるとその興奮もさらに高まるのだろう。

 「ふん、血を見たいだけのくせに」

 どうせ聞こえないのだからと叫ぶ群衆へ向けて小さく毒づく。

 実際それは間違ってはいなかった。

 


 観客たちの多くは『メロウ帝国』の富裕層。

 大会参加者が血みどろの闘いをするのを安全圏から眺めて楽しもう、という歪んだ嗜好に動かされる好事家だった。

 それでなければ大会規定に殺人を肯定する文言が入るはずがない。

 「両者が出揃いました!! どういった闘いを見せてくれるのでしょうか、会場の興奮も最大限となっています!! いよいよ第四戦目開始です!!!」

 鳴り響く銅鑼を合図にダインズ、と呼ばれていた大男が走る。

 鎧がその動きに合わせて大きな音を立てる。まるで金属塊が猛スピードで突進するような様だった。

 「はははは! 怖気づいて動けないか?」

 大剣が振られ、ただ静かに立つアイリスへと迫る。

 だが、ダインズは勘違いをしていた。

 アイリスは決して動けないわけではない。動く必要がないから動かないのだ。

 「一つ言っておこう。無駄が多すぎるぞ、お前」

 ダインズの目から光が消え、その意識が完全に消失する。

 そして、遅れて音が響いた。

 鎧を砕き、ダインズの体を叩く強烈な拳の音が。

 大剣はアイリスに届くことなく地へと落ち、気を失ったダインズが反射的に零した涙が一滴アイリスの服を濡らした。

 「ん? やはり油断があったか? 汚れてしまったな」

 

 『女神』の語る油断とは、そのレベルなのであった。

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