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146話 闘技大会 Battle_and_Artifice part4

 ――メロウ帝国闘技大会本戦規定――


 一、予選突破者十二人によるトーナメント方式で優勝者を決定とする。

 なお、最終戦は出場者三人による総当たり戦とし、勝ち数の多い者を優勝者とする。


 二、勝敗の決定は相手の意識を完全に奪う、または戦意の喪失をさせることにより決定とする。

 予選で判定された舞台場外による敗北はない。

 また、戦闘の際に対戦相手を殺害した場合でも罰則等は発生せず勝者とする。 


 三、対戦時間は無制限、途中休憩もない。勝敗が決するまで継続される。


 四、出場者の持ち込める装備に制限はない。

 ただし、手に持つか身に着けていなければならず、荷台やその類の物による牽引での持ち込みは不可能とする。


 五、使用可能魔法は観客席まで届き得る広域魔法の使用に制限が課せられる。

 また、次試合まで効果が継続するような魔法にも制限が課せられる。

 

 以上の規定に従わない者は出場資格を剝奪し失格とする。

 また、試合中に規定違反が発覚した場合も同様に失格とし、そこまでの結果を取り消し退場処分とする。

 それにも従わない場合はメロウ帝国正規軍による武力排除を行使する。



 「やっとか……」

 一回戦の第三試合。遂に往人の出番となり、運営スタッフから手渡された規定書(ルールブック)に目を通しながら呟く。

 自身が戦う直前で渡すのもどうかとは思ったが、今更文句を言っても始まらない。

 それに、規定も多くはないしある一点を除けばそれほど苦慮するような物でもなかった。

 

 対戦相手を殺害しても問題ない。

 

 それだけが往人には引っかかった。

 (まぁ、そんなに殺したがりの奴もいないだろう)

 そう考え、往人は開かれた舞台への扉へと進む。


 ――ウォオオオオオオ!!


 扉をくぐる前より聞こえていた歓声がより大きな響きとなって往人の全身を包む。

 ビリビリと痺れるような感触に往人も、嫌が応にも力が入る。

 「さぁ、試合も中盤第三試合! どの試合も我々を興奮の坩堝(るつぼ)へと落としてくれるが次はどうなる!?」

 なかなか煽るなぁ、と往人は進行役の男の声を適当に聞き流す。

 「ただいま出てきましたのはカミシロ=ユキト選手!! 予選ではあわやという場面もありましたが今回はどうだ!?」

 どういう技術を使っているのか、まるでピンスポットライトのように光が往人へと集中し、その眩しさに思わず手で顔を遮る。しかし、それもすぐに収まりもう片方の扉へと光は集中していった。

 「さぁ、対するはフレデリック=ボガート選手! 四肢に装着された装甲による一撃で予選ではかなりの勝ち数を上げていたファイターだ!! その巨躯から繰り出される威力を楽しんでいこう!!」

 二メートルを超す体躯、それをさらに大きく見せていく筋肉、そして四肢には紹介の通りガンメタリックの装甲が装着されている。

 素材は何か不明だがかなりの重量がありそうなそれを軽く振るいながら、観客の声に答えている。

 


 両選手が出揃ったところで観客たちの声はさらに大きく、爆発的に広がっていく。

 その中心にあっても、往人は相手のフレデリックの声がハッキリと聞こえていた。

 「まだ子供(ガキ)じゃないか。殺すのに若干気が引けるぜ」

 ニヤニヤと嘲笑うこのように告げる目の前の男に、往人は顔をしかめる。

 (殺したがりで出場したのかよ……)

 やっぱり『霊衣憑依ポゼッション』はしておく方が良かったかも、と内心思いながらも往人は構えを取る。

 まだ剣は抜かない。相手が殺したがりのヤバイ奴だとしても、自分が殺すことにはまだ忌避感情がある。

 何とか身体強化魔法で乗り切れないかと往人は考える。

 「おいおい、その剣は飾りかよ。なんだかしらけるぜ」

 無視する。

 相手のペースに乗せられてもいいことはない。ここはあくまでも冷静に勝ちを取りにいく。

 

 銅鑼の音が響き渡り、両者が駆ける。

 近づく両者でまずはフレデリックが動く。装甲が鈍く輝き舞台を殴りつける。

 往人の眼前に振り下ろされたことで、足を止められる。

 「まずはあばらの二、三本いっとくか!!」

 そこへフレデリックの足が飛び込んでくる。

 回し蹴りが胴体へと突き刺さるが、往人の体にはダメージがなかった。

 「なに……っ!?」

 むしろ蹴りを放ったフレデリックの方が逆に痛みに呻くことになった。

 「悪いな。あらかじめ障壁を張っていたんだよ」

 それは本来は寒さや暑さから身を守るための魔法。

 だが、往人はまだそれを完璧には扱えず周囲に壁のようにしか展開できない。

 今回はそれを逆利用して相手への防御に利用したのだ。

 


 そのまま往人はバランスを崩したフレデリックへと拳を叩き込む。装甲を身に纏っていない無防備な上半身へと。

 筋肉という名の装甲が阻むが、それで防げるダメージではない。

 こみ上げる不快感を押さえながらフレデリックは後ずさる。

 「この……クソガキっ!!」

 喉が灼けるような不快感を無視しながら叫び、拳を突き出す。

 フレデリックも魔法を使うことができる。自身の筋力を爆発的に増大できる身体強化の魔法を。

 それを使えば、いくら防御魔法で防がれようとも試合続行不能のダメージを与えることは出来るはず。

 「殺せないかもだが、まあ仕方ないか!!」

 猛烈な速度で往人の顔面に拳が迫る。少しでもダメージが大きくなるように、少しでも自分に傷を負わせた目の前の子供(ガキ)に恐怖を与えるように。

 「クソガキに行動を読まれるようじゃダメ何じゃないか?」

 フレデリックの視界から往人が消えた。

 そう認識した瞬間、意識が一気に明滅し前後すらわかならなくなる。

 「なに……が?」

 


 往人も身体強化魔法を使っていた。フレデリックのそれとは比べ物にならないほどに強力な身体強化魔法を。

 拳を躱し、背後へと回った往人はフレデリック後頭部目掛けてハイキックを叩き込んだのだ。

 一撃でフレデリックの意識は奪い去られ、舞台へと倒れこむ。

 その瞬間、銅鑼が大きく打ち鳴らされ観客たちの歓声が響き渡った。


 それは往人が二回戦へと駒を進めた合図だった。

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