144話 闘技大会 Battle_and_Artifice part2
「さぁ、血が滾って仕方がない観衆諸君!! いよいよ闘いの火蓋が切って落とされようとしているぞ!!」
魔法による拡声なのか、コロッセオ中に響く声で男が叫んでいる。それに連鎖するように、観客たちの割れんばかりの歓声が会場を揺らしている。
「早速登場していただこう! このコロッセオを戦いで彩る勇敢なる闘士たちを!!」
扉が開く。
往人たち同様に参加受付を済ませた出場者たちが光を目指して歩いていく。
「結構な人数がいるな」
その波に合わせて歩きながら往人は呟く。参加人数は自分と、隣を歩くアイリスを入れておおよそ三十人前後。
詳しいルールはこの後聞かされるらしいが、この人数でやるとなるとなかなか時間もかかりそうだった。
――ウォオオオオオオ!!!!
往人が扉を潜り、太陽の当たる闘いの為の舞台へと立つと観衆たちの興奮はすでにマックス。
耳を塞ぎたくなるような歓声が体を叩いてきている。
「選手たちも出揃ったところで、まずは予選からだぁ!!」
進行役の男がそう叫ぶと、往人たちが出てきた扉が閉じられる。これで円形のステージからは出ることは不可能になった。
「参加者は全部で三十七人! ここから本戦へと勝ち残れるのは十二人だけだ!! それを今から決めていく!!」
「おいおい……本気かよ!? この狭さで三十人以上をバトルロワイヤルさせるってか!?」
進行役の男がステージから降り、巨大な銅鑼が有無を言わさず鳴らされた。
ステージの大きさは直径七〇メートルほどで、それなりには大きいが三十七人が闘うには狭すぎると言わざるを得ない。
「はあああ!!」
隙あり、とばかりに戸惑う往人へ向けて屈強な体躯の男が突撃してくる。
肩を怒らせてのショルダータックル。その突進力で、他の参加者もまとめて吹き飛ばしている。
「このっ……!!」
だが、威力は高くとも直線的な攻撃。往人は防御魔法を使いその一撃を防ぐ。
相手は往人が魔法を使うとは考えていなかったのか、勢いよくぶち当たりもんどりうってひっくり返ってしまう。
「さぁ、残り人数は二〇人ほどとなってきたぞ!! 魔法を使う者もチラホラ見えてなかなかに白熱している!!」
――ウァアアアオオオオオオオオ!!!!!!!
見たところ、ステージの外へと弾き出せば脱落らしい。
詳しいルール説明なんてしてないじゃないか、と内心愚痴りながら迫ってくる参加者の攻撃をいなしていく往人。
視界の端にチラリと映るアイリスは危なげなく相手を外へと投げ飛ばしている。
「よそ見かい?」
不意に声をかけられた。
それと同時に鋭い威力の拳が突き出される。
咄嗟に腕を交差させてガードをしたが、それでもビリビリと痺れるような痛みが骨にまで届いてくる。
往人の瞳に映ったのは黒髪をツンツンと尖らせた一〇代後半くらいの少年だった。
武闘着とでも言えばいいか、紺色のそれに身を包み所々を黄色いベルトが巻きつけてある一風変わった恰好をしている。
手には自分の拳を傷めないための指抜きグローブを装着している。
「その剣は使わないのかい?」
自身は徒手空拳を振るいながら、往人の腰から下げられた剣へと言及する。
「フェアじゃないだろ!」
往人も負けじと拳を突き出すが、積み重ねてきた鍛錬の差か、まったくその速度は比較にならない。
まるで自転車とバイクでレースをするかのようである。
「そういう考え、嫌いじゃないけどさ! でも、勝ちに貪欲じゃないのはナンセンスかな!!」
拳が往人の顔面に突き刺さるその直前。
――ガァアアン!!!
けたたましい銅鑼の音でその動きが止まった。
それは本戦への切符を手にした十二人が決定した合図。アイリスはもちろん往人も本戦へと出場を決めた。
そして、目の前の少年も。
「ロクサス=エルムッドだ。本戦で闘えるのを楽しみにしているよ」