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14話 天の剣は勇気と共に The_EX-calibur

 「あぁ~、やっと落ち着いた……」

 到着した宿の一室で往人ゆきとは一人、ようやくといった感じに一息つく。

 相部屋でなかったことに若干の残念さは感じつつも、どちらかといえば安心していた。

 「……一緒の部屋だと緊張して眠れなかっただろうな」

 そう呟いて備え付けのベッドへと仰向けに倒れこむ。

 あまりにも色々な事が起こりすぎた。

 この世界――『ニユギア』に来てから一日ほどしか経過してないとは思えないほどだった。

 「疲れた……」

 本当に疲れた。

 よくぶっ倒れてしまわないと、自分で感心するほどだ。

 肉体的にも精神的にも限界が近かった。

 このまま少しでも気を緩めれば、あっという間に眠りに落ちてしまうだろう。

 (それもアリかも……)

 そう思いながら下がる瞼に逆らえなくなっていった刹那、

 「ダーリン」

 扉の向こうからの声に往人は瞼を持ち上げる。

 「なんだい?」

 「一緒にぃ……お風呂、入りましょぉ?」

 「へっ? あっ!?」



 一発で目が覚めた。

 「あら、嬉しい反応。ダーリンも男ねぇ」

 「そんな訳……」

 嘘である。

 絶世の美女から、たとえからかい目的でもそんな誘いを受ければ嫌でも反応してしまう。

 それがオトコの哀しいさがであった。

 「ワタシは一緒でもいいけど、あの女神サマがねぇ」

 そう言いながらリリムスが部屋へと入ってくる。

 たしか、扉には鍵をかけていたはずだった。

 「なっ!? どうやって……」

 「あの程度カギとは呼べないわぁ」

 驚く往人に、リリムスは一瞬で距離を詰めベッドの横へと腰かける。

 「それでなんの用だ?」

 「ん? イイことをしてあげようと……」

 「それはもういい」

 手を重ねて、顔を近づけてきたリリムスを往人は制する。

 流石にこれ以上醜態を晒すのは情けなさすぎる。

 「む、意地悪ぅ。でも、イイことってのはホントよぉ」

 そう言ってリリムスは握った往人の左手を眼前へと持ってくる。

 その指には輪っかがはめられていた。

 鈍い銀色に輝く細い指輪。中心部には血よりも濃い赤色の宝石が小さく輝く指輪だった。

 


 「……これは?」

 自身の中指にはめられた指輪をしげしげと眺めながら往人は聞く。

 まさか単なるプレゼント、というわけではないだろう。

 「それをはめていればワタシの魔力を霊衣憑依ポゼッションしていなくても共有出来るわぁ」

 マジックアイテム。用はその類の物なのだろう。

 だが。

 「別に、一緒にいるんだからポゼッションすればいいんじゃないか?」

 そう、基本的には行動を共にするのだからわざわざマジックアイテムを使わなくても問題はないはずである。リリムスとしても霊衣憑依ポゼッションした方が自身の力への制限も少なくなるのだから。

 「そうなんだけどねぇ」

 それでもマジックアイテムを用意する理由。

 「霊衣憑依ポゼッションは魂への負担が大きいのよぉ。長時間一緒になっているとダーリンに悪影響を及ぼす恐れがあるのぉ」

 特にワタシは魔王だしねぇ、と付け加えるリリムス。

 霊衣憑依ポゼッションとは二者の魂を一つにする魔法。

 強大な力を得られるのだから、当然そこにはデメリットもある。

 それが『魔王』ともなれば、それはより大きいものになるのは当たり前だった。

 「ポゼッションは切り札、そこまではこれでしのぐって事か……」

 「そ、まぁソレだけで魔法が使い放題ってわけじゃぁないけどねぇ」

 そう言ってリリムスは分厚い書物を何処からか取り出す。

 それはとても古ぼけていてタイトルすらも判別がつかなかった。

 「これは魔界に太古から伝わる『魔導書』よぉ。これで一緒に魔法を覚えましょうねぇ」

 からかっている訳ではなく、リリムスは本気で言っている

 「……マジ?」

 往人は頭が痛くなった。

 元の世界でも往人はお世辞にも勉強が出来たとは言えない。

 だというのに、あんなに分厚い『魔導書』を覚えなくてはならないのか。

 仮想ゲームとは違う現実リアルにまた一つ疲労を重ねる往人だった。

 「……明日からやるよ」

 お決まりの現実逃避を呟いて、再びベッドの誘惑に負けようとする往人。

 

 ガシャン!

 

 扉の向こうから響く音にそれは妨げられた。

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