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133話 トール――Angel(and_Extend) part8

 「あれは、魔導書の……」

 「まどうしょ?」

 往人の纏う『気』が不気味に揺らめき、漆黒の炎を燃え上がらせる。その姿に、リリムスは見覚えがあった。

古代書院でのマルバスとの戦い。そこで彼が手にした三冊目の『魔導書』。

 彼はその黒炎の力を使い、マルバスを打ち倒したのだった。

 (でも、霊衣憑依(ポゼッション)が解除されていない……?)

 あの時とは違うことがあった。強制的に解除されていたアイリスとの『霊衣憑依(ポゼッション)』。

 今回はそれも維持したまま黒炎の秘法を使っていた。

 


 「人間だと侮っていたのは間違いだったようだね! ユキト……だったか? いくぞ!!」

 雷斧(ミョルニル)を構え、駆けるトール。雷の力が自身の肉体をも強化し、人の反応速度では追いきれないほどの速さを実現する。

 「喰らえっ!!」

 「ふんっ!!」

 またも掴む。何億ボルトもの電流が流れ、さらには分厚い鋼鉄をも容易く切断出来る斧の一撃を人間の身でありながら簡単に。

 「なにっ!?」

 慌ててミョルニルを手放すトール。受け止められただけではない。往人が掴んだ箇所からなんと黒炎が発生したのだ。

 雷の魔力そのものなミョルニルが、手放され霧散する僅かな時間に一瞬で黒き炎に包まれ消えゆく。

 トールには分からないが、それが黒炎の秘法の力。物質だけでなく、魔力やそれで形成されたものすらも灼き尽くす絶対の炎。

 「異界の人間は規格外だな……!!」

 だが、それでもトールは嬉しかった。自分の知らないことが起きている。どう対応するべきか選択を迫られている。

 それは久しく忘れていた感覚。

 闘争への渇望が、勝利という絶対が生み出す退屈という泥濘(でいねい)に埋もれていた恐怖が湧き上がってくる。

 しかし、それすらも今のトールにとっては充足感へのスパイス。

 体にこびりついた汚泥を洗い流す清流のような新鮮さが彼に笑みを齎す。野生動物のような凶暴な笑みを。

 


 「これなら!!」

 往人は背から『気』を噴出させる。それはウートガルザとの戦いで使用した往人の翼。

 噴出する魔力の推進力で舞う『ブースター翼』。今は黒い『気』を使っているが原理は同じ。

 凄まじい加速力が往人の体を宙へと押し上げる。

 「むっ……!?」

 横薙ぎに振るわれたミョルニルが空を虚しく斬る。

 そこへ剣を抜いた往人が上段に振り下ろす。

 「甘いっ!!」

 その一撃はミョルニルで受ける。今度は燃えることなく受け止める。

 さらに、そのままトールは往人の体へと蹴りを一撃見舞う。

 「がっ……!!」

 ブースター翼を噴射し、蹴りのダメージを最小限に抑えたがそれでもかなりの衝撃だった。

 「……まだ切り替えのラグが遅いか……」 

 そう。本当なら剣へと黒炎を纏わせようとしていたが、ブースター翼との切り替えが往人の技量では間に合わなかったのだ。

 

 一度に使用できる魔法は一つだけ。

  

 その制約(ルール)はたとえ『秘法』であっても、魔力とは違う『気』であっても変わりはない。

 ブースター翼を展開していては剣へと黒炎を纏うことは不可能。

 その上、そのルールを無視できる『霊衣憑依(ポゼッション)』もアイリスが『気』を使えないせいで、自ら封印してしまっていた。

 「やっぱり一人でやろうとするのは駄目だよな……」

 そう言った往人は禍々しい『気』を噴出させるブースター翼を収め、煌めく三対六枚の白翼を展開する。

 それは『天族』の翼。アイリスが与える『霊衣憑依(ポゼッション)』による恩恵。

 「いくぞっ!!」

 白翼がはためき、往人が再び宙を駆ける。最高速度は敵わなくとも、アイリスの補佐による柔軟な機動性では勝る白翼。

 縦横無尽に飛ぶ往人へとトールも吼える。

 


 「だとしてもっ!!」

 反応はできる。トールはミョルニルの一撃を往人の動きに合わせて振るう。雷が轟音を上げながら往人へと迫る。

 しかし、はためくは白翼。

 それはアイリスによる魔法。すなわち、往人はあと一つ魔法を使えるということ。それが『秘法』であっても。

 「はあああっ!!!」

 黒く燃え盛る剣が迫るミョルニルを灼き斬る。両断されるよりも早く灼き尽くされた雷斧を翼で霧散さながら、拳に『気』を纏わせる往人。

 (対応が完全に間に合わない……っ!?)

 それは『最強』が崩れ去る音。叩き込まれる拳がトールの体をくの字に曲げながら吹き飛ばす。


 「俺の勝ちだ……!!」

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