130話 トール――Angel(and_Extend) part5
三対六枚の白翼がはためき、エクスカリバーを構えたアイリスが飛翔する。
聖なる光を携えた『聖剣』は雷光纏うかつての同胞を斬り裂く光刃となる
「はぁあああ!!!!」
気合と共に横薙ぎに振るわれた光刃は不敵に笑うトールを一太刀に斬り伏せる。
「おっとっと。危ない、危ない」
しかし、それは残像。高速で躱したトールの纏っていた雷光の残滓が像を象っていたのだった。
「じゃあ、今度はこっちだな」
そう言うとトールは床を殴りつけた。先ほどアイリスが思い切り棚を引き倒し、薬品の容器が転がっている床を。
そうするとどうなるか。答えは簡単で残酷だった。
一瞬で粉々に砕け散った容器がまるで散弾銃のように器である往人の肉体を叩く。さらに、中身の薬品までもが纏う雷光を起爆剤に、爆弾となって襲い掛かる。
「ぐぁあああ!?!?」
防御魔法を展開し、ダメージは最小限に抑えるがさらに追撃が迫る。
「っ!?」
雷の矢が四方八方から襲い、さらにその後ろからも巨大な雷撃のドリルが迫って来る。
「うぉおおお!!」
全力で白翼を羽ばたかせ矢を躱す。ドリルはエクスカリバーを振るって真一文字に斬り裂き霧散させる。
「はああああ!!!」
そのまま真っ直ぐトールへと羽ばたき、上段から縦一線にエクスカリバーを振り下ろす。
「ふふ、そうこなくちゃ」
それでもトールは笑っている。眼前まで迫ったエクスカリバーを見ながらもそれを崩さない。
――バヂヂヂヂヂヂ!!!
エクスカリバーが止まる。あと数ミリでトールを斬り裂く、というところで激しい雷光を迸らせながらその進みを止められてしまった。
「残念」
そう言ったトールが手にしていたのは斧。柄に対して刃の部分が長い、特異な形状の斧だった。
普通なら片手では到底振れるようなサイズではないが、それでも彼は特に苦にすることもなく支えている。
なぜならそれは普通ではなかったから。形状やサイズも目を引くが、それよりなによりも物質ではなかった。
トールが纏っていた雷光、それが手に集中して斧の形状を成したのだ。つまりは純粋な魔法で形成された雷斧。長さも重さも関係ない、破壊も出来ない武器だった。
「ミョルニルまで使うか……」
(なあ、そもそもあいつは誰なんだ?)
ミョルニル、そう呼ぶ雷斧を捌きながら宙を翔けるアイリスにもう一つの魂となっている往人が聞く。
あの男が『天族』でトールという名だということは分かった。そして『女神』と『魔王』、その双方すらも恐れ慄く相手だということも。
「あいつはトール。天族で一番強い男だ」
(一番? それはアイリスじゃないのか?)
「強い奴が長を務める訳……っく!? じゃない」
ミョルニルによる一撃をエクスカリバーで受け、光刃を迸らせ斬り裂く。
「ふっ、器と会話とは随分と余裕があるね」
「悪いなユキト、お勉強会はまた後でだ」
それほどまでに厄介な相手。絶望的に危険な相手だというのは、何も伊達や酔狂で言ったわけではないのだ。
今までだったら、内心で会話をしながらでもアイリスは敵と戦うことが出来た。
それほどまでに『霊衣憑依』は圧倒的な力だったのだ。そして、その契約者たるアイリス自身も。
しかし、目の前の少年はそれをも上回るほどの強者。まさに桁違い。
「やっとアンタと戦えるんだから、もっと俺を楽しませてくれよな!!」
ミョルニルを再生させ、一層激しく雷が迸る。その蒼き閃光は斧だったミョルニルの形状を変化させていく。
(ハンマー?)
その形状は巨大な鎚。斬撃に特化した斧から打撃に特化した鎚へと変化したのだった。
「器の坊やに教えてやるよ。こっちの鎚形態が本来のミョルニルさ」
そのサイズからは想像もつかないほどに軽々と得物を振り回すトール。無論形状が変わったからといって質量を伴うわけではないのだから当然ではあるが。
「さて、第二ラウンドといこうか」