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129話 トール――Angel(and_Extend) part4

 それは最強の男。

 蒼雷を纏いし白き少年。細身の体に透き通るように白い肌。対照的に焼き焦がしたように赤黒い髪が目を引く。

 「やっと追いついた」

 何の気なしに、少年は本当にただそう思ったから呟いた。

それだけだというのに、この場を一瞬で支配するほどに圧倒的な威圧感。



 「お前……」

 「……まさかアナタが出張って来るなんてねぇ」

 炎に包まれる部屋の中にいながらも、体の奥底から震えが止まらなくなるアイリスとリリムス。

彼の強さを知っているから。だからこそ、この場にいるはずがないとそう思っていた。いや、思いたかったのかもしれない。

 「誰だ? こいつ」

 往人は知らない。だが、見た目の印象からして『天族』だろうと推測をつける。

 薄灰色の民族衣装のような恰好をした少年は薄く笑っている。それを見ていると、彼を知らないはずの往人ですら根源的な恐怖を感じずにはいられない。

 まるで凶暴な野生動物と丸腰で遭遇したかのような、太古からの記憶に由来するプリミティブな恐怖。

 クリスもその小さな体を震わせながら往人の体へとしがみついている。

 「やぁ、我が女神様。出来ればもう少し上にいてもらいたかったよ、俺は」

 「……トール」

 アイリスが少年の名を呟く。

 「なぜお前がここに?」

 「ロキの奴に言われたからさ。あんたと、そこの魔王を殺せってさ」

 何がおかしいのか、クスクスと笑いながら言うトール。それだけでその言葉が偽りのものだと分かる。

 「いやホントだって、言われたのはさ。でも、俺はアンタと戦えさえすればどうでもいい。ロキが何を考えているかは俺には関係ない」

 アイリスに睨まれ、おどけながら喋るトール。その姿はまさに少年だった。無邪気で純粋、それ故に残酷な少年の笑顔。

 本当に、彼はただアイリスと戦いたいが故に人間界にまで来ていたのだ。

 「その為にわざわざ異界人と契約までしたんだ。アンタも戦ってくれるよな?」

 軽く髪をかきあげるたびに、毛先から雷光が小さく迸る。

 


 「また俺みたいな奴が……」

 往人は拳を握りしめる。自分と同じ『異界人』がまた犠牲になった。それを思うと、少しだけ恐怖が薄れる。

痺れたような全身がちょっと動くようになる。

 「人間はお前たちの道具じゃないんだぞ! アイリスと戦いたいだけで人を勝手に使うな!!」

 体が動く。剣を抜き、内から湧き上がる魔力を刀身に込める。鋼鉄をも容易く斬り裂く刃がトールの顔目掛けて横薙ぎに振るわれた。

 「あん?」

 

 ――ガァン!!


 激しい激突音がラボに響く。それは往人が弾き飛ばされ壁へと叩きつけられた音だった。

 往人には何が起きたかまるで分らなかった。ただ気が付いたら吹き飛ばされ壁に叩きつけられていた。

 燃え盛る小部屋の方に行かなかったのは単なる幸運だろう。

 「おっと、お前が噂の異界人か。危うく殺すところだった」

 ついうっかりといった具合にトールが漏らす。それは今の瞬間で往人を殺すことも出来たと言うことである。それも本当にうっかりで。

 「アナタ……ッ!!」

 怒りの色を滲ませながらリリムスが言う。それと同時に杖を掲げ、先から火球を放つ。連弾で放たれた火球は部屋を焼く炎を吸収して威力を高めながらトールへと襲い掛かる。

 「はぁ……」

 しかし、トールはそれを見てつまらなそうに右手を軽く振った。それだけだというのに、凄まじい雷撃が迸り迫る火球を全て破壊した。そして纏う雷光に、残りカスの火の粉が喰われていく。

 「今はお前には用ないんだけど?」

 「ダーリンを傷つけて、ソレは通らないわぁ」

 絶望的な力の差を見ながら、なおも杖を構えるリリムスの前にアイリスが立つ。

 「待て。お前はあの子を守ってくれ」

 そう言って、恐怖に震えながらも往人のそばへと駆け寄り必至に助けようとするクリスを指す。

 「いいの? 霊衣憑依(ポゼッション)は切り札なんでしょ?」

 「どうせ、他の追手は奴に殺されているさ。魔族も含めてな」

 そう。ここまでずっと静かだったのは、追手が来ていなかったからではない。

 施設に着くよりも前に、全てこのトールによって殺害されていたのだ。無論、同胞である天族も。

 「しかたないだろ? 俺の邪魔をするからそうなるんだ。大人しく帰っていれば生きてられたのにさ」

 「なんてヤツ……」



 「ユキト、大丈夫か?」

 アイリスが往人を助け起こし、その傷を確かめる。幸い大きな怪我はしておらず往人自身もすぐに戦う意思を持った。

 「ポゼッション、するんだな」

 「ああ、だがかなり……いや絶望的に危険な相手だ。私が前に出る」

 二人は右手を重ね合わせ、呪文を唱える。白き光に包まれ、輝く白翼が場を支配していた重い空気を吹き飛ばす。

 「はは、イイね」


 「いくぞ、トール!」

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