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127話 トール――Angel(and_Extend) part2

 「はぁ……寿命が縮むわぁ。そんなこと二度としないでもらいたいものねぇ」

 口を尖らせたリリムスが、エクスカリバーを収めるアイリスへと不平をこぼす。

 彼女の振り下ろした剣は往人を斬るためではなかった。その覚悟を確かめるものだった。

後ろには護ると誓ったクリスがいる。その状況でもしも、往人が剣を躱そうと動けばそれだけの覚悟だったこと。

 アイリスはそのままクリスを斬り伏せるつもりだった。

 「気が付いていたのか?」

 「え?」

 「私がユキトを本気で斬ろうとしてないって」

 その言葉に往人は力なく首を振る。

 本当はアイリスの斬撃を受け止めようとしたのだ。構えから上段に一閃を振るうと分かっていた。

だとしても、彼女の圧倒的な技量、そして覇気に負けてしまい、剣を抜くのが間に合わなかったのだ。

 「まだまだ情けない俺だけどさ」

 そう言いながら、往人は驚きで固まっているクリスの頭を優しくなでる。

 ハッとして、気恥ずかしそうにはにかむクリス。

 「俺、頑張るから。クリスも、そして二人も護れるように頑張るから」

 


 「うれしい! ワタシ、お外に出られるのね?」

 そこでようやく実感が沸いたのだろう。キラキラ輝く大粒の涙を流しながら、嬉しそうにはしゃぐクリス。

 三人の手を順繰りに取りながらにこやかに抱きつきもしている。

 「リリムスおねえちゃんよろしくね! アイリスおねえちゃんもよろしく!」

 そのはち切れそうな笑顔を見て、アイリスもリリムスも安易に命を奪う決断を下さなくて良かったと考えを改めた。

 「ふふ、カワイイこと。でも……これから頑張りなさいよぉ、この色男ぉ!」

 リリムスが往人へと後ろから覆いかぶさり、髪をワシャワシャと乱しながらからかう。

 「おい、やめろよ。髪がぐしゃぐしゃになっちまう!」

 そう言いながらも往人も笑っていた。やはり、一つの命を護ることができて嬉しいのだろう。

 もちろん、楽な道ではない。これからもっと強くならなければならないのだ。

霊衣憑依(ポゼッション)』無しでも、問題なく戦うことができるほどにも。

 


 「取りあえず」

 はしゃぐ三人へとアイリスが言う。まだ終わったわけではないのだ。むしろ目的はここからが正念場とも言える。

 「最深部まで降りてみよう。そろそろ追手も来ているかもしれない。退路の確保も考えると使える時間はそう多くはない」

 そう。三人はこの施設へクリスと出逢うために訪れたのではない。あくまで追手を巻くための一つの手段として施設を襲撃したのだ。

 相当派手に戦った現状、すでに近くまで来ていてもおかしくはない。

 こんな小さな小部屋では囲まれて逃げることは出来ない。何とか時間を稼ぎつつも、全員で逃げおおせるルートを確保しなければならないのだ。

 「そうだな。じゃあ、とっととここを離れるとしよう」

 そう言いながら、往人は剣を抜きクリスも前に立つ。この部屋を離れるにはあと一つやらなければならないことがあった。

 「ジッとしててくれよ……ふんっ!!」

 ガチン! と鈍い金属音を響かせクリスの足首に嵌められていた鎖が切断される。

 これで本当に自由の身となったクリスは、意外なことに血に沈んだ博士(プロフェッサー)の前に跪き、手を重ね合わせて瞳を閉じた。

 「ハカセ、ワタシを造りだしてくれてありがとうございます。ハカセはいけないことをしていた人だったけど、それでもワタシを造ってくれたから、おにいちゃんたちとあうことが出来ました。……いってきます」

 それはクリスなりのけじめだったのだろう。

 造られた理由や、その扱いがどうあれ自分が生きていることを感謝する。そうすることで博士(プロフェッサー)からも、真に自由となったのだった。



 「じゃあ行こうか」

 扉を開け、小部屋を出るクリスと三人。まだ、無機質な階段しか映らない景色ではあるが、それでもクリスにとっては大きな一歩だった。

 「わぁ……ワタシ、ホントに部屋から出たんだね」

 嬉しさと不安がない交ぜになった声音で言うクリス。階段も恐る恐るといった風に降りている。

 「ねぇ、ワタシたちがここに攻め入ってどれくらいたったかしらぁ?」

 下り階段を進みながらリリムスが誰ともなしに聞く。

 「うん? そうだな……大体一時間ほどじゃないか?」

 往人の体感もそのくらいだった。スマホはナルに奪われ、時間を計る物も持たない往人には正確な時刻は不明だが。

 「そう……」

 何かを考えこむように俯くリリムス。彼女の中にある不安、それはこの施設があまりにも静かだということだった。

 「一時間も経っているなら天界にしろ魔界にしろ何かしらの動きがあるんじゃなぁい?」

 そう。すでに一時間。それだけの時が流れているならば、人間界とは言え部隊を派遣することは可能である。

 ましてや、侵入する際にかなり派手に暴れているのである。それを掴んでいないはずはないのだ。

 「でも、外の兵隊連中とやり合っているのかも」

 「ないわねぇ。ワタシたちと違って、殺さずに収める理由がないわぁ」

 往人たちが侵入の際に手をこまねいていたのは、兵たちを殺さないで鎮圧しなければならなかったからである。

 しかし、『天界』も『魔界』もそれをする必要はない。単純な力押しで攻め入ることが出来るのだ。

 「今は考えても仕方あるまい。ちょうど最深部のようだ、ここで退路の確認などもしておこう」

 そう言って、アイリスは『ラボ』と書かれた部屋のドアノブへと手をかける。


 何の抵抗もなく扉はスウッと開き、口を開けたように暗がりを広げていた。

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