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125話 ヒューマン――The_New_Standard part8

 「これが……改造人間」

 往人(ゆきと)の胸中には恐怖と悲嘆の感情が渦巻いていた。

 自らの死が迫っているとしても、それを意に介すことなく遺伝子に刻み込まれた使命の為に行動する。

 それはもはやロボットと同じである。命令を壊れるまで実行し続けるだけの。

 「生きていたのに……!」

 それでも、クオーツは確かに生きていた。自らの意思も持ち、思考し行動していた。

 「起きろっ!!」

 未だ意識を失ったままの博士(プロフェッサー)の胸ぐらを掴み上げ、怒声を浴びせる往人。

 人間の尊厳を奪いつくすような行為を許せるはずがなかった。

 「うぅ……」

 「この……クソ野郎がっ!!」

 僅かに呻いた博士(プロフェッサー)目掛けて、力強く握られた拳が叩き込まれる。

 「やめるんだ! 落ち着け!」

 顔を押さえてうずくまる博士(プロフェッサー)へ、なおも殴りかかろうとする往人をアイリスが制止する。

 このままだと殴り殺そうな勢いだった。

 


 「おのれ……よくも私の顔を……」

 意識を取り戻して早速、怨嗟の呻きを上げながら周囲を見やる博士(プロフェッサー)

 そこで異変に気が付いたのだろう。

 小部屋を真っ赤に染める鮮血の海。そして、その赤は何処から流れ出ているのかを。

 「クオーツ!? まさか……私の最高傑作が……こんなところで破壊されるなど……」

 血に沈んだクオーツ亡骸を抱き上げ声を震わす。だが、その口から漏れ出るのは、クオーツを心配するものではなく、あくまで自身の被造物が求める結果を齎さなかったことに対する嘆きだった。

 「貴様ら……! コイツを造り上げるのにどれだけの時間と費用を要したと思っている!! クオーツはこれからの世に於いて中心となるべき作品だったのだぞ!!」

 「てめぇ……!」

 頭が真っ白になった。脳の血管も何本かは切れたんじゃないかと思うほどに往人は怒りを覚えた。

 人間であっても剣を振るうことを躊躇うことはなかったであろう。アイリスがその行動を止めてくれなければ。

 「なんで止めるんだっ!!」

 怒号。怒りの矛先すら何処へ向けていいかも分からなくなって往人は叫ぶ。

 「こんな奴、生かしておく価値なんかないだろ!」

 「だろうな」

 アイリスは往人の言葉を否定しなかった。当然、彼女も博士(プロフェッサー)の所業にははらわたが煮えくり返るほどに怒っていた。

 しかし――

 「だからこそ、こんな男を斬ったところで自身の価値が下がるだけだ」

 そう。生きる価値もないと断じた者を斬り捨てても、それは意味のない殺戮にしかならない。

 そんなことをしても、自分自身の魂や心に後味の悪いものを残すだけである。

 


 「何を勝手なことを……生きる価値がない? それは貴様らの方だ!! 私の言葉を理解しようとせずに喚きちらして! 造り物、ましてや敵に何を……っ!?」

 最後まで言い終わることなく、博士(プロフェッサー)の喉元に雷光が突き刺さる

 「こういう時、ワタシは躊躇したりはしないわぁ」

 杖先に雷撃の残滓を迸らせながら、つまらなそうに吐き捨てるリリムス。

 探求の徒でもある『魔族』、その王たるリリムスも目の前でこと切れる男の言動にはほとほと嫌気がさしていた。

 だからこそ感情のままに動く。言葉で心を抑えても苛立ちや悲しみを残すだけだと知っているから。

 「お前……!」

 「アナタの流儀に付き合う気は無いってだけよぉ。別に、ダーリンにもワタシの考えを押し付ける気はないわぁ。これはワタシの気分の問題」

 「やめよう。こんな男のことでこれ以上言い争いはつまらない。先のことを考えよう」

 アイリスの言葉、リリムスの行動で少し落ち着きを取り戻した往人は言う。

 そして、これから先に於いて最も大きいであろう問題へと視線を移す。

 「……あぁ」


 幸か不幸かその問題、クリスが小さな呻き声を上げながら目を覚ましていた

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