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123話 ヒューマン――The_New_Standard part6

 「はああっ!!」

 自由を得たアイリスが一気にクオーツへと距離を詰める。身体強化の魔法による速度がクオーツの反応速度を超える。

 「くっ!?」

 燃え盛る一閃が走り、クオーツが纏う淡い青色のギリースーツを焦がす。

 「躱したはず……!」

 「悔しがっている暇があると?」

 高速の斬撃がさらに叩き込まれる。新人類と豪語されるだけはあり、紙一重で躱してはいるが徐々にそのダメージも蓄積されていく。

 「むぅ……クオーツ! 距離を取りなさい!」

 「お前がしゃしゃるな!!」

 往人の怒りの拳が博士(プロフェッサー)の顔目掛けて叩き込まれる。血で滲む傷口がシクシクと痛みを訴えるが、それでも構わず往人は拳を振り抜く。

 


 「かはっ……!!」

 やはり研究職だからか、まともに喰らった博士(プロフェッサー)は体を半ば回転させるようにして床へと倒れこむ。

 這いつくばって往人を睨むその顔には口元から一筋赤い線が走っていた。

 「貴様……!!」

 「ダーリン、危ない!!」


 ――ガギギギギギギ!!!!!!


 咄嗟に抜いた剣と、一瞬のうちに迫ってきたクオーツのナイフが激しく打ち合い火花を散らす。

 「なっ!?」

 クオーツと、何より博士(プロフェッサー)の顔が驚愕で凍り付く。

なぜなら、あの速度で迫る新人類(クオーツ)に古い人間が反応出来るはずはなかったのだ。

 「いいのか?」

 「なに? ハッ!?」

 気が付いた時には遅かった。クオーツは横から襲来する烈風の螺旋に吹き飛ばされ壁へと強く叩きつけられる。

 ギリースーツはボロボロに敗れ去り、中に着用していたボディスーツが露わになる。

 「やってくれる……」

 「終わりだと思ってぇ?」

 杖先が光り、雷撃が降り注ぐ。轟音が鳴り響くたびに部屋の中を激しく照らし出していく。

 「おのれぇ……!!」

 「クオーツ、落ち着きなさい! 対処できない相手ではありません」

 博士(プロフェッサー)の諫める声に、クオーツは躱すのではなく障壁で受ける方向へとシフトした。

 魔王の一撃とは言っても、弱体化した火力では遺伝子改造され超強化された防御魔法を貫くことはできない。

 「まだ調整が必要か」

 「申し訳ありません、プロフェッサー」

 冷静さを取り戻し、すぐさま博士(プロフェッサー)の元へと立つクオーツ。落ち着いていながらも、その瞳は怒りに燃えていた。

 「プロフェッサーに傷を負わせたことすぐに後悔させていただこう」

 「あの少年を最優先で排除なさい。彼は危険だ」



 進化させた人類であるクオーツに反応して見せた往人。

 博士(プロフェッサー)は往人のその順応性を危険視していた。

 (あの少年、このまま戦っていては不利にもなり得る)

 数多の実験の中で、人間が反応できない限界点を博士(プロフェッサー)は見つけていた。

 それは過酷な訓練や修行といったもので克服できるものではない、遺伝子に刻まれた限界値。

 そして、それをさらに夥しい実験の果てに超越したのがクオーツなのだ。

 幾多の形にすらならなかった実験体を経て、まともに動くことのなかった者たち、魔力を宿さなかった個体、不完全ながらようやく形になったクリス、そしてそれだけの失敗作から生まれたのが待望のクオーツなのだ。

 (天族や魔族と行動を共にしている様子。故のイレギュラーかもしれない。データを採取して最速で排除する……!)

 「フンッ!!」

 クオーツのナイフが凍り付き、細身の剣へと形を変えていく。

 サーベル状となった氷剣が閃き、アイリスの炎剣と激しくぶつかり合う。

 「どけ。先に殺すべきはその少年だ。貴様たちはその後だ」

 「それを許容すると思うのか?」

 炎剣が青へと色を変える。灼熱の炎が陽炎を生み出し、段々とアイリスの姿も揺らいでいく。

 「はあっ!!」

 クオーツの一瞬の隙を見逃さず、背後から逆袈裟に炎が斬り上がる。 

 「合わせるっ!!」

 リリムスの雷撃も挟撃の形でクオーツへと突き進んでいく。

 「……はぁっ!!!」

 クオーツの咆哮。それと共に周囲を覆うように展開された障壁が雷撃を弾き、その弾かれた雷が背後から迫るアイリスへと命中する。

 「ぐあっ!?」

 「ええ!?」


 

 「もらった!!」

 クオーツが一気に駆ける。最優先事項である往人の抹殺。

 氷剣がギラリと不気味に輝き、往人の喉元目掛けて真っ直ぐ突き出される。

 「やられてたまるか!」

 当然、往人は剣を燃え上がらせ受け止めようとする。速度的にも十分間に合うはずだった。

 「なにっ!?」

 だが、クオーツの握るサーベルを形成しているのは氷。すなわち、魔力を込めなおすことで形状はいくらでも変化させられるということ。

 往人の眼前で勢いよくカーブを描いたかと思うと、炎剣を避けるように形状を変え真横から往人の脳天を貫かんと伸びていく。

 (やられる!!)

 咄嗟に剣を後方へと向けようとするが到底間に合わない。

 「ゆきとおにいちゃん!!」


 悲痛な叫びを上げるクリスの澄んだ瑠璃色の瞳が溜まった涙で煌めいていた。

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