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120話 ヒューマン――The_New_Standard part3

 年の頃は、十二か三くらいだろうか。

くすんではいるがとても美しいサファイアブルーの髪、透き通るように白い肌の少女は小さな寝息をすぅすぅと立てていた。

 「捕らえらえているのか……?」

 警戒をしているのか、不用意に近づいたりはせずに少女を観察するアイリス。その言葉が示すように、少女に繋がれた鎖は足首を痛々しく赤色に染めていた。

 「ん……ふぁあ」

 そのとき、少女が小さなあくびを一つしながら目を覚ました。トロンとした瞳を軽くこすりながら、往人たち三人を認識する。

 「あれ? あなたたちはだあれ?」

 甘ったるい声と共にまだ眠気の残る瞳を向ける少女。それだけならば、何処でだって見られる光景だっただろう。

 


 「なっ!?」

 「なんだ……っ!?」

 「体がっ!?」

 そう。あどけない瑠璃色の瞳で見つめられた瞬間に身動きが取れなくなりさえしなければ。

 「貴様、何をした!」

 何とか剣を抜こうとするアイリスだが指の一本すら動かすことは出来ない。まるで見えない糸でがんじがらめにされたようだった。

 「ワタシを知らないってことは、あなたたちは外から来たのね」

 そう言って、少女が少しずつ三人へと近づいてくる。その度に足首の鎖がジャラジャラと少女には不釣り合いな音を立てる。

 「ごめんなさい。ワタシは自分の力をじょうずにつかえないの」

 謝りながら少女は往人へと手を伸ばす。その小さな手が体へと触れたとたんに、糸が切れたように往人の体が軽くなり動けるようになった。

 「うおっ!? どうなっているんだ?」

 驚く往人をよそに少女はアイリス、リリムスにも同様に触れていく。二人も少女の手が触れると同時に戒めは解かれ自由になる。

 「くっ……!!」

 「チッ……!」

 危険を感じたのだろう。赤熱化した剣と雷光迸る杖が少女へと向けられる。

 「な、なに? どうしたの?」

 その光景に怯えたように身を小さくする少女。それが演技なのか否かは往人には分からなかった。

 「ちょっと絵面は悪いけどぉ」

 「ここで斬らなければマズいんでな」

 見た目には完全に悪役のそれだが、それでも二人は躊躇(ためら)うことなく攻撃を加えようとする。

 外見で油断して命を落とすなんて三流以下である。特に人間界に仲間などいない二人には尚更だった。

 


 「ま、待ってくれ!!」

 二人が少女へと攻撃を仕掛ける瞬間、往人が間へ割って入る。

 剣も杖も、あとほんの数ミリ。僅かでもタイミングがずれていれば往人の命がなかっただろう。

 「ダーリン!?」

 「ユキト、何をっ!?」

 二人が驚くのも無理はない。敵かもしれない、むしろその可能性が非常に高い状況で味方の攻撃の目の前に飛び出すなど自殺行為もいいところだった。

 「もう少し状況をハッキリさせてからでもいいだろ?」

 恐怖に竦み、瞳に涙を溜める少女を後ろに庇いながら往人が言う。もちろん、演技かもしれない。それでも黙って見過ごすことはどうしても出来なかった。

 「敵かもしれないわぁ」

 「分かっている」

 「危険な力を持っているんだぞ」

 「それも分かっている。でも、何の話しも聞かずに殺すなんて駄目だ。こんなに怯えているじゃないか!」

 往人に言われ少女を見る、見てしまう二人。その姿を見ては、一旦は振り上げた手を降ろさざるを得なかった。

 「ごめん。きっと甘いことを言っているんだと思う。でも、ここで簡単に殺して片づけるのはきっと違うと思う」

 戦うこと、力を振るうことは必要だとは思う。だが、言葉を介して分かり合えるならばそうしたいと往人は思う。

 だから、怯える少女に優しく宥めるように言う。

 

 「怖がらせてごめん。君の名前を教えてくれないかな?」

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