12話 勇者の魂は闇と煌めく Possession part7
当然、あれだけの戦いを町なかで起こしたのだからそれが終われば人々が集まってくる。
興味と不安の喧騒を遠巻きに眺めながら、往人たち三人は日も傾き始め薄暗くなった路地で体を休めていた。
「……どういうことだ」
そのつもりがなくとも、つい攻めるような言い方になってしまう。
往人は未だ内なる怒りが押さえられずにいた。
「私も天界を追われてからのことは把握していないんだ。まさか異界人を確保していたなんて……」
悔しそうに歯噛みしながらアイリスが言う。
彼女の性格からして、あのような行動は許すはずがないだろうことは短い時間ながらも往人も理解していた。
だが、『天族』があのような事をするとなるともう一つ懸念事項がある。
「当然、魔界でも同じ事が言える……わよねぇ」
霊衣憑依を解き、再び土塊の肉体に戻ったリリムスがげんなりしたように呟く。
そうだった。
『魔族』も同様に異界人を確保し、部品として利用していても不思議ではないのだ。
「そもそも、あの低級魔族はダーリン確保に動いていたんでしょうしねぇ」
「あれが……」
初めてこの世界に来た時に襲われた魔族。偶然だと思ったがどうやら事実は違っていたようだ。
「となると、少なくとも魔族には異界人を探す手段があると?」
「ワタシが王を務めていた時には出来ない魔法だわぁ」
アイリスの質問に歯切れの悪い返事を返すリリムス。
「出来ない……?」
往人はリリムスの言葉に引っかかるものを感じた。
そこには明言を避け、何かを誤魔化そうとする雰囲気があった。
ダン!!
リリムスに掴みかかったアイリスが壁へと押し付ける。
「痛いわねぇ……なにするのよぉ」
「存在は知っていたのか……?」
静かだったがそこには明確な怒りが見て取れる。往人がいなければこのまま殴りかかっていただろう。
「……管轄外だったけどねぇ」
リリムスはポツリ、ポツリと語りだす。
「……来訪した異界人を探す魔法、太古の伝承を下地に作ろうとする動きがあったのは知っていたわぁ」
「勇者を確保するためにか?」
「詳しいことは知らないわぁ。アナタたちと違って魔界は一枚岩ではないんですもの」
アイリスとリリムスは互いに睨み合う。
もはや一触即発だった。
「それに……」
リリムスはそこで少しだけ言葉を切る。
「勇者を戦力として利用しようと考えたのはソッチが最初ではなくてぇ?」
「そこまでだっ!!」
往人の叫びが響く。
幸いに、表通りの喧騒に飲み込まれその叫びは三人だけの耳に入るだけだった。
群衆の中に仰々しい恰好の人物たちが数人来ている。
この世界における警察か軍人だろうか。
「もういいっ!! 異界人がどうだの、勇者の利用だのたくさんだ!!」
怒りとも悲しみともつかない、ただただ悲痛な叫びだった。
「ユキト……」
「ダーリン……」
流石の二人もこれ以上の言い争いはしないようだった。
「誰がなんの目的で動いているかなんて俺には分からない。だけど……」
震える声で、だが確かな決意を込めて往人は言う。
「だけど俺は命を道具みたいに扱う奴は許さない。ここからは俺の意思で戦う。その為にも力を貸してくれ」
往人が二人に改めて手を差し出す。
「それが俺から二人に求める契約だ」
アイリスとリリムスは互いに顔を見合わせて力強く、差し出された手を握った。