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119話 ヒューマン――The_New_Standard part2

 「悪かったな」

 階段を降り進みながら、アイリスが唐突に発した言葉にリリムスは目を丸くする。

 「なんだ?」

 「いえ、まさかアナタがそんな風に謝るなんて……」

 「お前に憎まれ役を押し付けてしまったからな」

 気にしてないわぁ、と軽く流して往人の手を取って、からかうようにその豊満な体を押し付けるリリムス。

 以前なら、まさか『魔王』に頭を下げようなどと考えもしなかった。それも往人と出会い、変化したからだろうか。

 (それがいいのか悪いのかは分からないがな)

 

 『天族』と『魔族』は戦い合う存在。


 それはアイリスが幼き頃、それよりも遥か以前から連綿と続いてきた歴史。

 それを、『異界人』である往人との出会いで変えていって、変わっていっていいのか。

それは、今のアイリスには分からない。その答えはきっと、クーデターから始まった一連の戦いが終わった後で明らかになるだろう。



 「ん? アイリス、どうしたんだ?」

 くっつこうとするリリムスを引き剥がしながら、往人がだんまりだったアイリスへと声をかける。

 「ああ、いやなんでもないんだ。それよりも、また敵が潜んでいるかもしれない、注意しなくては」

 造られた兵士が先ほどの一体だけとは限らない。むしろ、この国の人口規模から考えるともっといなくてはおかしいとさえ言える。

 「透明になるだけじゃない。気配すらも失くしている兵隊なんて厄介極まるわぁ」

 往人にはあまりなじみがないが、達人級の実力を有するアイリスとリリムスにとって、敵の気配を察知できないというのは致命的と言える危機だった。

 ある一定のレベル以上の力量を持つ者の戦いでは、姿が見えたらそれはもう決着がついていると言っても過言ではない。

 互いに姿が見えない状態から僅かな気配、殺気を感知して攻めや守りに転じる。

 それが常識として染みついている二人は分かっていても、敵の気配を追おうとしてしまう。

だから、敵の行動に対して刹那の一瞬遅れが生じる。人間相手だから何とかなってはいるが、これが互いの種族との戦いだったら即、死に繋がる。

 「気配とか殺気とか、俺にはまだよくわからないな……」

 「ずっと戦いの中にいるから身についたものだ。ないならその方がいい」

 「そうねぇ、それだけ平和だってことだものねぇ」

 


 そんなことを話していると、アイリスが不意に踊り場で立ち止まった。

 「ん? この踊り場おかしくないか?」

 「え?」

 「うん? あぁ……そうねぇ」

 言われて、リリムスは今降りてきた階段を見上げ納得したように頷く。

 往人には何のことかは分からなかった。だから聞く。

 「何か変か? 普通の踊り場だけど……?」

 「いや、このタイミングに踊り場があるのはおかしい」

 そう言って、アイリスが上を指差す。その先には階段、そして他の踊り場もうっすらと見える。

 「……?」

 「この踊り場までは五十段に一回だったのが、三十段で出てきた。つまり……」

 「ああ! ここに何かあると?」

 往人にもようやく合点がいった。中途半端に造られた踊り場、目の前には大きな壁もある。

 「なぁるほど。この壁、かなり薄いわねぇ」

 「そうか。よし、二人とも離れてくれ」

 そう言って、アイリスが腰に下げられた剣を抜く。炎を纏わせ、一気に壁を灼き斬る。 

 「はあっ!!」

 あっけないほど簡単に壁は崩れ、その奥からは扉が現れた。

 「へぇ……こんなところに隠し扉が……」

 「でも、見つけてもらうことを前提に造ってあるわねぇ」

 そう。隠すにしてはあまりにも雑過ぎる。規則的に存在する踊り場を敢えて中途半端に造り、非情に薄い壁で覆う。それは、いかにも見つけて下さいと言っているようなものである。

 まるでクリアしてもらうことを目的に作られた謎解きゲームのように。

 だが、これはゲームではない。

 「じゃあ、罠って事か?」

 「そうかもな。どうする? ここは無視して先を行くか?」

 それももちろんアリだろう。罠と分かっていて進むのは愚かなのかもしれない。

 それでも――

 「いや、この扉を行こう。なぜかは分からないけど、こっちの方がいい気がする」

 確証なんかない、ただの直感だった。

 「分かった。ユキトのその感覚を信じよう。お前も、それでいいか?」

 「ええ、もちろん」

 二人の賛成で、往人は隠されていた扉へと手をかける。鍵がかかっているということもなく、扉はいとも簡単に開いていく。


 ぼんやりと明かりが灯る小部屋の中、そこには鎖で繋がれた少女が横たわっていた。 

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