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116話 ソルジャー――Plus_Malice part2

 「チィッ……!!」

 アイリスの剣が、急襲する槍による一撃を弾く。本当に紙一重、一瞬視線を向けたそのタイミングだったからこそ防げた一撃だった。

 「なんの敵意もなく攻撃が!?」

 まったく分からなかった。感知能力の低下とかそういう次元の話ではなかった。

攻撃を受けても尚、相手の敵意や殺意と言ったこちらへ向けられるべき意識が一切感じられないのだ。

 それはまるで自然災害が自分だけを狙ってくるかのような不自然さとも言えた。

 「敵意のない攻撃に透明化。相当に厄介だな……」

 透明化だけならば、敵意の無さだけならば、片一方の能力なら対処のしようはいくらでもあった。

しかし、その双方が合わさることで死角は一気に無くなっていく。

 『女神』と『魔王』、その二人にも容易に対策が思いつかないほどに。

 


 「霊衣憑依(ポゼッション)だとしても、人間にここまで高精度な魔法を使えると思うかしらぁ?」 

 「まず無理だろうな。ここ数年で技術が上がったとはいえ、その練度は私たちとは比べるべくもない」

 そうよねぇ、と周囲への警戒は絶対に解くことはせずに会話を繋ぐリリムスとアイリス。

 「でも、じゃあここにいるはずのヤツは……そうか!」

 そう。目の前にいる……のかは不明だが、確かに三人へと狙いを定めている敵は比べるべくもないほどの練度の魔法を、何らかの手段で急激に上昇させられた者。

恐らくは、到底表沙汰に出来ないような手段で。

 「多分、霊衣憑依(ポゼッション)も使っていないと見るのが自然ねぇ」

 「そうだな。あれは我々にとっても切り札のような魔法(もの)だ。人間側に伝わっているとは思えん」

 通常、魔法は一回の発動で一種類しか使えない。

それは『天族』でも『魔族』でも、その王たるリリムスですら例外ではない。

 唯一の例外が『霊衣憑依(ポゼッション)』。魂を同一の肉体に二つ有するが故の特例と言える。

 だが、この敵は恐らくは単一の魂で二種類の魔法を使っている。

 そういう体へと変化をさせられたのだろう。

 「強化人間ってところか」

 「サイッテーの悪意モリモリのねぇ」

 人が持つ『悪意』。

 それによって強化された人間が天と魔、双方の長を脅かすまでに変質する。

 アイリスとリリムスは、その(おぞ)ましいまでの人間の意思というものに、往人へのそれとは別ベクトルで驚嘆していた。いや、戦慄していたといっても過言ではない。



 再び、階段の上方でキラリと光が発せられる。

 往人が剣を振り、弾いたのは槍の一撃。かなりの衝撃で、思わず剣をとり落としそうになるほどに重い一撃。

 しかし、そのときに見た。とても戦っている者とは思えないほどに感情を、それ以上に生気を感じさせない虚ろな瞳を。

 まるで、精巧に作られた人形が襲ってくるかのような違和感を往人は感じた。

 「ヒィ……」

 空虚で光を灯さない瞳に、思わず情けない声をあげてしまう往人。

 その一瞬の隙で、強化人間は再び姿を消してしまう。

 「ふん、同時に使えるのは二種類だけみたいねぇ」

 「いくら強化されているとはいえ、三種類も四種類も使われては私たちの面目もない」

 

 アイリスと往人が受けた攻撃。

 それは身体強化の魔法と判断。そして、攻撃の瞬間には透明化の魔法を解除しなければならない事から、同時に発動出来るのは二種類までと看破をして見せた。

 

 「次の一撃で決めるか、せめて攻勢に回らないとちょっと面倒ねぇ」

 「ああ、だが問題ない。どれだけ強化されようと、魔法というものは万能ではない!」

 アイリスが動く。その剣の振りに合わせたかのように槍の一撃が叩き込まれ、あの人形のような強化人間が姿を見せる。

 「今だっ!!」

 「ハイ、ハイッ!」

 叫びと同時に、リリムスが杖から風の渦を巻き起こす。それはドリルのように螺旋を描き、強化人間の体を貫かんと回転する。

 

 ――ガリガリガリガリ!!!!!


 だが直撃の瞬間、風の螺旋が何かに阻まれた。

 「障壁!?」

 リリムスが言うが、それは違った。防御魔法による障壁を展開したのではなかった。

 強化人間が纏う衣服。暗い緑色の、ギリースーツとでも形容される服から伸びた腕が盾を張ったのだった。

 「なによ……アレ」

 「腕が三本……?」


 ようやく拝むことができたその全身は、背中から腕がもう一本生えた異形のそれだった。

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