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115話 ソルジャー――Plus_Malice

 「中は思ったよりも静かだな……」

 往人(ゆきと)は周囲を警戒しながらも、誰かが現れる気配のない廊下を歩いていく。

三人の足音だけが響く廊下は、薄暗さも相まって冷たさだけが充満していた。

 「でぇ? ワタシたちは何をすればいいのかしらぁ?」

 「取りあえずはここの制圧、恐らくはその途中で追手もくるだろう」

 「なぁんか行き当たりばったり感があるわねぇ」

 いまいちハッキリとした返答をしないアイリスに、少々不満のある様子のリリムス。

 元々、ここへ来ることに賛成していなかったので当然と言えばそうではあるが。



 「相手方の動きが分かれば対処できるんだがな。先手を打とうとすると、どうしても難しいところはある」

 しおらしくするアイリスだが、往人から見ればとてもよくやってくれていると感じる。

 『天族』からも『魔族』からも狙われ、その上『異界人』である往人まで抱えながらの行動は相当に大変なものだろう。

 その中での戦いや、これからの行動を考えるとなると、とてもマネできるものではない。

 「それにしても、本当に誰も来ないわねぇ。外に全部人員を裂いたのかしらぁ?」

 地下へと続く階段まで足を進め、リリムスがぼやくように言った。

 ここまではなんの迎撃もなく、外での戦いが嘘のように静まり返っていた。それが逆に不安を掻き立て、暗い階段を本当に降りて大丈夫なのかと思わせてもくる。

 「行こう」

 口火を切ったのは往人だった。

 「敵が誰もいないのは罠かもしれない。でも、この先で本当に非道な実験が行われているならそれを止めなくちゃ」

 そう言いながら、階段へと足をかけたそのときだった。


 ――ギィン!!


 何かが往人の体を叩き、その衝撃で思い切り階段を転げ落ちる。

 「痛っ……!?」

 何が起こったか分からなかった。

 もしも、寒さから身を守る魔法を纏っていなかったら、恐らく死んでいただろう。それを思うと、痛みと同時に恐怖で声も出なかった。

 「ユキトッ!」

 「ダーリン、大丈夫!?」

 すぐさま二人が駆け寄り、周囲へと意識を集中させる。だが、往人を攻撃してきた主は影どころか、気配さえ感じることはできなかった。

 「なんだ? 敵は何処だ?」

 「分からないわぁ……敵意どころか何の気配も……」

 周りには、自動で侵入者を攻撃するようなトラップも見受けられない。

 攻撃して、すぐさまどこかへ逃げたのか。だとしても、アイリスとリリムスの二人になんの察知もされずに攻撃を仕掛けるのはほぼ不可能だった。

 確かに感知能力も大きく低下している。

それでも、触れることができる距離まで近づかれても分からない、なんてことはあり得ない。

 だとするのなら。


 

 「姿を消している?」

 透明化して、この場で攻撃の機会を窺っている。そう考えるのが普通だった。

 (マンガやアニメなんかでもお決まりのヤツだな……)

 往人も剣を抜き、周囲へと警戒を強める。

 無機質な壁や天井、何処に潜んでいるか分からない敵を見つけようと神経を研ぎ澄ませる。

 「チッ……狭所だと範囲魔法で殲滅も出来ないのがツラいところねぇ」

 舌打ち交じりにリリムスが吐き捨てる。

 姿が見えない敵に対する、選択で最も簡単な対処法。それは、範囲攻撃で一気に倒すことである。

 見えない敵をピンポイントで撃退するのは、困難を究める。

 だが、自分の周りにいることが確定しているならそこへまとめて攻撃を叩き込めば、姿が見えようと見えまいと関係はない。

 今回も敵がこの場にいることは分かる。しかし、場所が悪すぎた。こんな狭い階段で範囲魔法を撃てば、こっちまでやられてしまう。

 「それを分かってここまで待っていたのか……?」

 「全員、それぞれを背にするんだ。それでゆっくりと進むぞ」

 アイリスの言葉に、二人が背中合わせに動こうとした時だった。


 天井のスミで、一瞬キラリと何かが光った。

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