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113話 ユキト――Growing(and_Over) part5

 「何をするつもりだ?」

 アイリスが聞く。

 『霊衣憑依ポゼッション』は使えない。かといって、このままではジリ貧で負けるのは濃厚。

その状況を打破するための秘策があるというのか。

 「ダーリン、というよりも持っている魔導書の力を借りたいっていうのが本音ねぇ」

 「魔導書を?」

 往人の中に潜む魔導の叡智を記した書、『魔導書』。自在に操ることは、今の往人にはまだ出来ないが内に在る莫大な魔力は大きな助けとなっている。

 しかし、

 「魔導書ならリリムスも持っていいるんじゃ?」

 そう。『ニユギア』に在る三冊の『魔導書』の内の一冊はリリムスが所有している。

もちろん、使い手としても幾段も先を行っている。

 


 「今のままじゃあ力を使いたくてもダメなのよぉ。魔導書の力にワタシが耐えられないわぁ」

 『魔導書』は大いなる力を秘めている。逆に言えば、それは弱い者ではその力を扱えないということ。

 記された叡智を究めようとしない者、力だけを求め叡智を死蔵させる者、もちろん単純に実力のない者にも『魔導書』は力を与えることはなく、牙を剥き命を奪ってさえいく。

 それは『魔王』とて例外ではない。弱体化著しい今のリリムスが『魔導書』を使おうとしても、逆に命を奪われてしまう。

 「だから、ダーリンを通して魔導書の魔力を借りようってこと」

 「分かった。あ、でもどうしよう? 今はこの殻が邪魔に……」

 往人を寒さから守ってくれている殻。実力が足らず、遮断する対象をほとんど選択できないこの殻ではリリムスが魔力を使うことが出来ないかもしれなかった。

 仕方ない、と往人は一層厳しさを増した寒空の下に己が身を晒すことを覚悟しかけた時だった。

 「フフン、このワタシがダーリンに寒い思いをさせると思ってぇ?」

 そう言ってリリムスは懐から小さな何かを取り出した。

 それは指輪。中心に美しい紫色の宝石が嵌めこまれた指輪だった。

 「それ……」

 似た物を見たことがあると、往人は自身の左手へと視線を落とす。

そこには鈍い銀色に輝き、中心に血よりも濃い赤色の宝石が嵌めこまれた指輪があった。

 以前に、リリムスの魔力を共有し『霊衣憑依ポゼッション』せずとも戦えるようにと渡された物だった。

 「コレは共有ではなく吸収。ダーリンから魔力を吸ってワタシの物にするって感じかしらぁ?」


 

 往人と魔力を共有しても、流れ込んでくるのは『魔導書』の力。それでは肉体にかかる負荷は変わらない。

 だが一度、往人という一種のフィルターを挟むことで今のリリムスでも扱える魔力に変換することが出来る。

 それを吸収することでこの現状を打破しようと言うのだった。

 「ダーリンは気乗りしないかしらぁ?」

 そう言ってリリムスは往人の顔色をうかがう。

言ってみればこれは往人を単なるエネルギー源、電池のような扱いなのだ。使われるだけの往人からしてみれば面白くないと感じても不思議ではないだろう。

 「いいや? なんにしても助けになるのなら不満なんかありはしないさ。すぐに始めよう」

 そう即答して、すぐに意識を集中し始める往人。

 その姿に、自分恥ずかしくなるリリムス。

勝手に、往人が扱いが悪いと腹を立てるような器の小さい男などと決めつけた事を自戒する。

 (やっぱりダーリンってイイ男だわぁ)

 そんなことを考えられるのも、余裕が出てきた証拠。左手に煌めく指輪が熱いほどの魔力を与えてくれる。

 「流石ダーリン、いいカンジ。そっちもすぐに動いてもらうわよぉ?」

 杖を握る手に力を込めながら、アイリスへと言うリリムス。

 「無論だ。準備はできている」

 剣を構えるアイリスの姿に、満足そうにニヤリと笑うリリムス。


 杖が輝き、反撃の烈風が吹き荒れた。

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