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111話 ユキト――Growing(and_Over) part3

 「しっかし、この寒さでこの国……チア国だっけ? チア国の人たちは大丈夫なのか?」

 そう疑問を口にする往人ゆきと

 三人がわざわざこの極寒の国、『チア国』へと来た理由。


 騒ぎを起こして、『天族』と『魔族』の同士討ちを発生させ、その混乱に乗じて捜索不能範囲まで逃走を図る。


 しかし、これだけ寒くては人などいるのか。

人がいなければ騒ぎは起こせない。このだだっ広い草原でどれだけ派手に行動しても、誰かがいなければ何の意味もないのだ。

 「それは問題ない。この草原地帯を進めば大きな街へと出る。その近辺ならばすぐに情報も回るだろう」

 「でもぉ、騒ぎって具体的に何をするのぉ? ただワタシたちが好き勝手に暴れても、目論見がバレるだけよぉ?」

 「だろうな」

 「だったらぁ……!」

 


 文句を言いかけたリリムスの眼前に、懐から取り出した幾枚かの紙束を突きつけるアイリス。

 それは、いくつかの写真と大量の文字で埋め尽くされた紙、往人の世界で言うところの『新聞』のようなものだった。

 「これ……?」

 「ノージャ国のものだがな、この国で違法な魔導研究が行われているらしい」

 「まさか、それを叩くってことぉ?」

 思わず頭を抱えるリリムス。

それなりに危ない橋を渡るということは覚悟していたが、ここまでとは思っていなかったのだ。

 

 人間の魔導研究。


 それは近年、『魔界』でも議題が上がることがある事だった。

人間たちが独自に魔法を研究し、自分たちの質、量ともに劣る魔力でも『天族』や『魔族』と同等の魔法へと変えようという活動が活発化していると。

 そして、それを実現するために非合法で非人道的な実験も水面下で行われているという噂も入ってきてもいた。

 「確かに騒ぎを起こすにはうってつけかもだけどぉ……」

 正直、リリムスは気乗りしなかった。

人間の研究を邪魔すること、それ自体は別に構わない。ただ、その結果『魔界』と『天界』だけじゃない、人間たちからも確実に追われることになる。

 命を狙われるならまだマシ、捕まって研究材料にされるなんて考えると、とても正気の沙汰とは思えない策だった。

 「とはいえ、ほかに逃げる為の手段はないぞ。ここでウロウロしているだけでは、追手を一手に集めることは無理だ。それぞれを時間差で相手することになる。そうなれば、こっちの負けだ」

 アイリスの言うことも一理ある。

ここで手をこまねいて、どちらかの追手と戦うことになったらもう片方は様子見に徹する。

 そもそも、どちらもそれぞれの長が死ぬことを目的としているのだ。

それを相手方がやってくれるのなら、それに越したことはない。

 「うーん……」



 「行こう」

 口火を切ったのは往人だった。

 「もしもこの内容が本当なら、人体実験が行われているかもしれないんだろ?」

 それは青臭い正義感からくる言葉だった。

三人が置かれている状況も、その行動を選択した事でどうなるかもよくわかっていない言葉だった。

 しかし、それ故に真っ直ぐで偽りのない言葉でもあった。

 苦しんでいる人がいるならば助けたい。どんな時でも、手を差し伸べられるなら差し伸べたい。

 「きっと、ここで行かなきゃ後悔する」

 賞賛でも見返りでもない、自分自身が『良かった』と思うことの為。

 それはまさしく――


 「勇者ってことなのねぇ」

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