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11話 勇者の魂は闇と煌めく Possession part6

 契約の強制破棄。

 契約者同士の戦いにおいて、その両者に一方的な力量差がある場合に行える魔法。

 往人ゆきとはリリムスから聞いたそれを少年へと使ったのだった。

 もちろん魔王という絶対的な強者との契約がなければ成し得ない強引な手法だったが、これでいたずらに少年の肉体を傷つけずにすむ。

 往人は倒れている少年を助け起こそうと近づいていった。

 「大丈……」

 「ユキトッ、危ない!!」

 叫んだアイリスが勢いよく往人を突き飛ばす。その勢いのまま往人は地面を転がり鼻をぶつけてしまった。

 だが、突き飛ばされなければ鼻血程度では済まなかっただろう。

 倒れていた少年の体が勢いよくはじけ飛んだ。まるで空気を入れすぎて破裂した風船のように。

 「なっ……!?」

 破裂した肉片が空中に寄り集まって人の形を成す。

 それは綺麗すぎるほどに輝く光の刃を振るいながら喋り出した。

 「まったく……オレにここまでさせるとは」

 それはあの天族の声だった。

 少年を好き勝手に使い潰し、部品とまで呼んだあの天族の声。

 「キサマ……何をしたっ!!!」

 往人は流れ出る鼻血を拭くことも忘れ激昂のままに突っ込んでいく。

 アイリスが何かを叫んでいるがそんなものは耳に入らなかった。

 


 「死ね」

 その一言と共に再び光刃が振るわれる。それだけで往人の体は真っ二つになっているはずだった。

 「間一髪ねぇ」

 だが、すんでの所でリリムスが肉体の主導権を握り光刃をかわした。

 (何をするんだ! オレがヤツを……!!)

 「……そのままでいろよ。魔王」

 「分かっているわよぉ」

 心の中で往人の怒りを聞きながらもリリムスは、体を返すつもりはなかった。

 そうでなければ感情に任せて、往人は確実に死んでしまう。

 「貴様、人の肉体で受肉術式を使うとは……」

 「苦肉の策だがね」

 そう、リリムスが使ったのと同じ、人の体に似せて作った『入れ物』に肉体を移す『受肉術式』。

 それを土塊つちくれでなく、本物の人間を使って行ったのだった。

 当然。

 「自身が助かりたいがために異界人を犠牲にして、それでも天族か!!」

 素材となった少年は完全に死亡する。その事実に怒声を上げながらアイリスは手にした剣を天族へと振り下ろす。

 赤を通り越し、超高温の青い輝きを帯びた剣を。

 「古いんだよ! アンタのその考えは。頂点から引きずり降ろされたアンタに天族がどうだなんて言う資格はないのさ!!」

 光刃で受け止めながら天族は言う。

 「それに、最強だったアンタですら人間界での弱体化は避けられない。名前すら知らないオレに受け止められるなんて、それこそ天の女神の名が泣いているぞ!!」

 


 光刃の出力が増し、アイリスが徐々に押され始める。

 元々、人間界では天族、魔族関わらずにその魔力の出力は大きく制限され、存在すらも長くは持たない。

 それを補う為の『契約』なのだが、それでも大きな弱体化は避けられないのだ。

 『霊衣憑依ポゼッション』をしていない、今のアイリスでは平時の三割が精々だった。

 「だとしてもっ……天族の誇りを失くした貴様に負ける道理は……ないっ!!」

 「アナタだけにイイ恰好かっこさせられないわぁ」

 踏みとどまるアイリスにリリムスも加勢する。

 杖を振りかざして、強烈な風を天族へと叩きつける。

 「おのれ……っ!?」

 その勢いに、一瞬光刃が揺らいだところをアイリスが勢いよく剣を袈裟懸けに振り下ろす。

 「はぁああ!!!!!」

 鋭い叫びとともに肉が灼ける嫌な臭いが立ち込める。

 超高温の剣は一滴の血も流さずに、肉を灼き斬ったのだった。

 そのまま一気に炭化しボロボロと崩れ落ちていく肉体いれものから一筋の光が飛び立とうとする。

 それは受肉した体を捨て天界へと逃げ帰ろうとする天族の魂だった。

 (……くっ、だが天界へ戻れば代わりの部品はいくらでも……)

 空へと昇ろうとする魂だったが、それを掴み取る手があった。

 「……何処へ行くつもりだ?」

 肉体の主導権を返された往人の冷たい声が、魂となった天族の意識を凍らせる。

 「まさか、このまま逃げだせると思ってないよな?」

 (おのれ……人間如きが!!)

 天族の声にならない怒りは届かない。声を届けるための肉体はもうないのだから。

 そして、残された時間すらも。

 「オマエは許さない」

 それだけ呟くと、往人は手の中の輝きを力任せに握り潰した。

 

 哀しいほどに美しい光に照らされた往人の表情は酷く暗かった。

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