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107話 繋がりしデイブレイク

 「何処に行くんだ?」

 夜明けの空を駆ける往人ゆきとが、隣を同じように飛ぶアイリスへと聞く。

 傷を、リリムスの強力な魔法(往人は極力考えないようにしていた)で癒し、リリムスとの『霊衣憑依ポゼッション』で漆黒の翼により『コウヤミの島』を離れている。

 今頃は、各国の『魔法調査機関』や下手をすると『天族』や『魔族』が島を訪れているかもしれない。

 こうして空を飛んでいる今も、もしかしたらそんな連中と鉢合わせになっても不思議ではない。

なるべく早く地上に降りて、遭遇の危険性を減らしたいところではある。

 三人とも、正直戦える状況ではない。今、戦いとなれば敗北を視野に入れなければならないのだ。

 「そうだな……今はこの国を離れた方がいいかもしれない」

 「この国?」

 そう言われても、往人にはいまいちピンとこなかった。

今の往人にとって『ニユギア』は異世界、どこの国にいようと変わりはない。

 「ん? リリムスがどの国に行くのかって」

 それでも、二人にとっては違いがあるのだろう。魂となっているリリムスが往人を通じ疑問を投げかける。

 「そうだな……残りの魔力もあまりないし、近場の国に降りるのがいいが……」

 


 アイリスは自分たちに残された魔力も加味し、降り立つべき国を思案する。

人間界を『天族』と『魔族』の争いに巻き込む事を禁じてはいるが、それでも情勢を調べてこなかったわけではない。

 今の人間界の世界情勢は、かなり不安定と言える。

大きな戦争こそ起きてはいないものの、それに繋がる小さな火種はどの国にも一つは必ずあると言っても過言ではなかった。

 そこへきて今回のクーデター騒動。

各国、かなりの衝撃があり、火種がいつ劫火へと変じてもおかしくない状況になってしまっている。

 マルバスやウートガルザの件も、それに油を注いだのは間違いないだろう。

 その中で、『安全』を求めるのは相当に厳しい事だった。

 「……あまりいいとは言えないが、今は仕方ないだろう」

 


 そう前置いて、アイリスはその口を開いた。

 「まずは隣国、と言ってもノージャは島国、海を渡ってチア国に降りる」

 「本気ぃ?」

 思わず、往人から肉体の主導権を借りたリリムスがその言葉に反応する。

 「あの国って、今は相当治安が悪いはずよぉ? 国家元首の突然の病死とやらで、跡目争いでバタバタしてるらしいしぃ」

 それを聞いて往人も分からないながらも、あまり進んで行こうとは思えなかった。

そんな不安定な情勢の国では、何があっても不思議ではない。それこそ、また狙われるかもしれないのだ。

 「だからさ」

 だが、アイリスはその反応も織り込み済みであったらしい。

 「あの国の情勢はかなり不安定、私たちのような者が侵入しても誤魔化す余地もある。そして、それを察知した者との騒ぎもな」

 「なぁるほど。フフ、アナタ意外と悪いオンナね」

 「お前ほどではない」

 二人で納得しているアイリスとリリムスに、往人は尋ねる。

 


 「なぁ、一体どういうことなんだ? また戦いになったら困るんじゃあ……」

 「私たちは、天族、魔族双方から狙われている。しかし、その二種族は連携はとれていない」

 分かるな? とでも言うように言葉を切って往人を見るアイリス。

その二種族の状況は何となく理解はできているので頷く。

 「そこで、私たちがチア国で騒ぎを起こすとどうなる?」

 「……あ」

 往人にもようやく理解できた。

 つまりは、アイリスとリリムスを追ってきた二種族、連携が取れていないため鉢合わせすれば互いに戦い合うことは必至。

 そのより大きな争いに乗じて、三人は逃げてしまおうという訳だった。

 「チア国は大きな大陸国で他国とも隣接している。国境近くなら逃げおおせるだろう」

 そう言って、アイリスは前を向いた。

 この作戦は、正直選びたくなかったというのがアイリスの本音だった。

人間界を戦いの場として使うことは最大限避けたかった。少なくとも、自分からその選択をすることはしたくなかったのだ。

 だが、状況はそれを許さなかった。

今、その選択をしなければ三人とも死が待っている。自分や『魔王』たる彼女はそれも仕方ない。

 だが、巻き込まれただけの往人にはそれを押し付けるわけにはいかなかった。

 「ありがとうな、色々考えてくれて」

 「あ、あぁ……」

 そんなアイリスの事を知ってか知らずか、往人が優しい表情でねぎらいの言葉をかける。

 それだけでも幾分か救われた気がしたアイリスは改めて、『チア国』へ続く空を駆ける。


 今は、この穏やかな夜明けが三人の心を明るく照らし出していた。

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