表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/317

105話 魂熱きノットマイスター part4

 「馬鹿な……天族であるこの僕が、人間なんかに……」

 そう呟きながら、地に倒れ伏すウートガルザ。往人ゆきとの拳が彼の頬へと叩き込まれ、その意識を奪ったのだった。

 「はぁっ、はぁっ……言ったろ、お前じゃあ何も手に入れられないって」

 呻くように、小さくそれだけ言うと往人の視界は急激に暗くなっていった。

 慣れぬ体で魔力を使い、さらに体力と精神も限界まですり減らした結果、往人に意識を繋ぐ事が出来なくなっていた。

 完全に気を失う直前、視界の端でアイリスとリリムスを見た気がした。

 気のせいだ、と思う間もなくウートガルザ同様に、往人も地に倒れ伏していった。



 「ダーリンッ!!」

 「ユキトッ!」

 往人が見たのは気のせいではなかった。

 合流した二人が、目の前で倒れていく往人へと駆け寄りその体を抱きとめる。

 まだ、『少年』と呼ぶべき幼さの僅かに残る肉体はボロボロに傷つき、死線を潜ったであろうことを容易に想像させる。

 「こんなムチャを……」

 「息があるのが不思議なくらいだ……」

 リリムスはすぐさま回復魔法を往人へと施し、アイリスは意識の戻らぬ内にウートガルザを捕縛する。

 やはり『天族』、すぐさまその意識を取り戻し状況を把握する。

 「……貴女たちがいるということは、僕は完全に負けたのですね」

 「そうだ。貴様の狙いだった霊獣とやらは私たちが倒した」

 「はぁ……クフフ、やはり上手くはいきませんねぇ。女神である貴女を裏切り、古臭い伝承に縋り、そうまでしてよもや人間なんかに阻まれるとは……」

 自嘲するかのように言うウートガルザ。その顔には諦観の色が浮かんでいた。

 「当たり前だ。お前には何をおいても貫き通す信念がない。そんな奴が何をしても上手くいかないのは当然だろ」

 「上からの御高説は結構、どうせ僕はここで死ぬんです。とっととやってください。」

 ごっ!! と鈍い音がアイリスの耳に飛び込む。意外なことに、リリムスがウートガルザの頬を殴りつけたのだった。

 完全に意識の外だったので、ウートガルザも唖然とした顔をしている。



 「情けない事ねぇ。確かにアナタはここで死ぬわぁ。それでも、魔族だったら簡単に死を受け入れることはしないわぁ」

 「……だから? それは単に浅ましいと言うんですよ。死を受け入れる潔さがない」

 「フン、見解の相違ねぇ。そういうの、ワタシたち魔族にとってはザコの言い訳なのよぉ」

 その言葉と共に、リリムスが杖の先から雷撃の光を迸らせる。魂ごと一撃で砕く、漆黒の雷撃を。

 ウートガルザが何かを言いかけていたが、それを聞くことは永遠に叶わなくなった。

 「アナタがやりたかったかしらぁ?」

 「……いや、構わん。……ウートガルザ、現実を見ることが出来れば高みも望めたろうに」

 『天族』の中では異端とされながらも、その学術的な探求心をアイリスは評価もしていた。

その道を、信念をもって邁進していれば大成していても不思議ではなかった。それを考えると、残念でならなかった。

 「自分の可能性を信じられずに、他者を利用するヤツに何かを成すことは不可能よぉ」

 「そうだな……ウートガルザは結局、自分自身を裏切ったということだ。それにしても……」

 アイリスは、柔らかな光に包まれ眠る往人を見つめる。


 人間の身でありながら『天族』を倒した、アイリスですら戦慄するような現実を見せた少年を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ