104話 魂熱きノットマイスター part3
「がぁああ!?!?」
直撃を受けたのか、防ぐことができたのか、それすらも分からないほどにめちゃくちゃに吹き飛ばされ、地面を派手に転がる往人。
よく、体がバラバラにならなかったと驚くほどの衝撃に、視界もほとんど効かなくなってしまう。
「マズイ……!」
とにかく移動するために、前なのか上なのかも分からないままブースター翼を展開して飛翔する。
地面に体が削られるような痛みが全身を襲うがそれも無視。
あのまま痛みに悶えていたら、確実に死んでいた。
「その体でよく動けますね」
何とか明滅していた視界から戻ると、不敵に笑うウートガルザが再び風の拳を振りかざし襲い掛かる。
「その翼もどきで、この風に対抗できますか!!」
まだ距離があるというのに、ウートガルザは拳を突き出す。
当然、それは届かないが纏った烈風は轟々と不気味な音をあげながら渦を巻き始める。
「竜巻!?」
横向きに発生する竜巻など、往人は初めて見た。
しかし、そんな事を考えている余裕などない。
竜巻は中心に向かって巻き込む形で渦を巻いている。つまり、その速度よりも早く離脱しなければ巻き込まれて、ミキサーにかけられた生肉になってしまうということだった。
「冗談じゃない! ミンチ肉より悲惨なことになってたまるか!」
ブースター翼を展開して竜巻の危険域から距離を取ろうとする往人。だが、ここへきてブースター翼の出力が上がっていかない。
ぶすぶすと燻るような音を立てて、何とか宙に浮いているというだけの有様だった。
「どうしたんですか? 遊んでいるつもりですか!」
轟!! と竜巻の速度が跳ね上がる。無論、燻るブースター翼で対抗出来るはずもない。ズルズルと渦へと引っ張りこまれる往人。
このままではB級スプラッターよりもグロテスクな肉塊になってしまうのは明白だった。
「うぅおおおおお!!!!」
往人は叫んで、手にした剣へと魔力を注ぎ込む。炎の出力が上昇し、その色を青白く染め上げる。
「なんだ……!? これは、まさか!?」
「はああああ!!!!!」
引き込まれる速度を逆に利用し、青く燃える炎剣を竜巻へと振りかざす。
横一文字に振られた炎剣は、大気ごと竜巻を灼き斬る。
「魔力の塊であるあれを斬った……?」
目に映る光景に、ウートガルザは愕然と凍り付く。
信じられなかった。人間の魔法が、自身の魔法を破壊するなど考えられなかったのだ。
別に、魔法が打ち破られることはいい。それは日常茶飯事だし、そうするのが魔法を扱う者同士の戦いでもある。
だが、それを人間が行うのが問題なのだ。魔力の量も、質も劣る人間が『天族』である自分の魔法を打ち破るなどあってはならない。
「しぃねえええええ!!!」
事実を受け入れることが出来ないウートガルザは、半ば錯乱したように連続で風の拳を突き出す。
その度に、荒れ狂う竜巻が渦を巻き往人へと襲い掛かる。
「貴方のような人間は存在してはいけない! ここで死ななくてはならないんですよ!!」
そう言いながら、何度も拳を突き出す。しかし、そのすべてが青き炎に斬り裂かれ燃え落ちていく。
当然ではあった。先ほどの竜巻と違い、ほとんどヤケクソで乱射した魔法、そんなものに普段通りの力など宿るはずもない。
「あ……あり得ない……こんな、こと」
だが、今のウートガルザにはそれも分からない。ただ、自身の魔法が人間に打ち破られるという現実に、自身のプライドが崩れ去る、その音しか聞こえていなかった。
「くっ、炎が……!」
すべての竜巻を灼き斬ったところで、剣に纏わせていた炎が急に、その勢いを失っていく。
ブースター翼に、高出力の青き炎。今の往人が扱うには魔力の消費が多すぎたのだ。
「だとしてもっ! うぉおおおおお!!!!」
剣を投げ捨て、ウートガルザへ向けて走り出す往人。全身が限界を痛みと言いう形で訴えるが、今は無視する。
僅かに掴んだチャンス、これを逃せば勝ちの目はもうない。
残った力を、右手にすべて込め拳を握る。
肉と骨を叩く鈍い感触が、往人の拳から全身を伝っていった。