103話 魂熱きノットマイスター part2
「躱せるか? この一撃!」
再度ブースター翼を噴射させて往人がウートガルザへと突撃していく。それはまるで地上の流星だった。
輝く翼で大気を焼きながら剣を振るう。だがやはり、その速度に往人自身がついていくことは困難を極める。
(間に合えっ!!)
ほとんど置きに行く感覚で振るった剣は、やはりウートガルザに防がれてしまう。辺りには鈍い金属音だけが響き渡る。
「くぅっ……防ぐだけで精一杯か……」
ウートガルザの方も、ブースター翼の速度には反応しきれないため戦斧でのガードもギリギリになる。その上、速度を上乗せした一撃はウートガルザの考える以上の衝撃を持ってぶつかってくるため、姿勢すら崩されてしまう。
「そこぉ!!」
その隙を狙わぬ往人ではない。ブースター翼の速度がなくとも、大きな隙ならば届かせることができる。
地を力強く蹴り、振るった剣はウートガルザの左手に血を流させることに成功する。
「な!? おのれぇ……!!」
滴り落ちる血が瞳に映り、ウートガルザの怒りはさらに高まる。
傷が痛むのではないし、初めてケガを負ったという訳でもない。人間が、下位種である人間が上位種である『天族』に傷を負わせたという事実が、ウートガルザに抑えられぬ怒りを湧き上がらせる。
「貴方だけはこの手でっ!!」
手にしていた戦斧すら投げうち、両の手に魔力を纏わせる。それは渦巻く烈風となり、大気を斬り裂いていく。
「はあっ!!」
繰り出された拳は往人が咄嗟に張った防御魔法で止められる。
「甘い」
「っ!?」
防御魔法は確かに拳を止めた、そのはずだった。
だというのに、往人の体は宙へと飛ばされ制御を失っていた。
(何がっ!? ……っ!)
考える余裕もなく、往人はブースター翼を噴射させて無理やりその場から距離を取る。
目の前に現れたのはウートガルザ。矢継ぎ早に突き出された拳が、今まで往人がいた場所を幾度も殴りつけていた。
「痛つっ……」
緊急の回避には、やはりブースター翼はまったく使えなかった。背中を大木に強く叩きつけられ、悲鳴を上げている。
冷静さを欠いているとはいえ、相手は『天族』でも指折りの実力者。まだ往人が挑むには相当に危険な相手であることに違いなどなかった。
(……それでも)
ゆっくりと立ち上がる往人。
「やっぱり一筋縄ではいかないって事か」
剣に炎を纏わせ、烈火のチェーンソーとさせる。
立ち向かうことを、勝つことを望んだ以上アイリスとリリムスの二人の助けを待つことはできない。
「その風の拳でも、俺の加速にはまだ届かないようだな」
「子供が……!!」
とにかく今は、ウートガルザに冷静になる隙を与えないことが肝心となる。
アイリスと見せたあの剣戟、あれについていくのは今の往人では到底不可能である。運がよくて二手持たせられれば御の字と言ったところか。
正直、今も絶望的な状況には変わりはない。それでも、介入の余地なく殺されるよりはマシである。ならば、往人はそれに全力で食らいつくまで。
「ふんっ!!」
「はあっ!」
迫る拳を、高速回転する炎で無理やり受け止める。大きく後退させられるが、先ほどのように宙に飛ばされることだけは回避する。
「まだまだ!!」
拳が烈風に包まれる。高速で突き出される風は周囲を巻き込みながら、往人へと襲い掛かっていく。
「もう一度っ!!」
燃え盛るチェーンソーの回転が一層激しさを増す。
「だから、貴方は甘い」
だが、ハッとしたときには往人の体はすでに宙へと飛ばされ、目の前には渦を巻く風の塊が迫っていた。