100話 重なりしアドヴァーサリー part6
「ガァアアアア!!!!」
『霊獣の意思』が咆哮をあげ、ドーム状の衝撃波を放つ。
爆発の煙を吹き飛ばし、近づくアイリスとリリムスをもそのまま弾き飛ばそうとするが――
「今度は……」
「効かないわぁ!!」
二人が空高く跳びあがった。通常ではあり得ない高度まで一気に上昇する。
それは、足に貼り付けられた札によるもの。爆発の勢いを利用し、衝撃波が広がるよりも早く空へと逃れる。
「このままっ!!」
重力も加算して、アイリスが剣を『霊獣の意思』へと突き立てる。
「はぁあああああ!!!!」
気合と共に一気に縦一線に振られた剣が、巨躯を支える右前脚を斬り落とす。それに留まらず、地に降りたアイリスはそのまま横一線に剣を振るい、左前脚も肘関節から斬り裂く。
そうなれば、当然前方向への支えを失いバランスを崩して倒れこむ『霊獣の意思』。
地響きと共に、苦悶か怒りかの呻き声をあげる。
「まだまだっ!!」
リリムスが手にして杖へと魔力を込める。杖先からの光が鎖のように伸び、『霊獣の意思』の体を縛り上げる。
「うぉおおお!!!!」
そこに、アイリスの剣が逆袈裟懸けに振り上げられ、左後ろ脚も斬り落とされる。
「これで最後っ!!」
残った一本、右後ろ脚を斬り落とそうと真一文字に剣を振り下ろそうとしたアイリス。
「っ!?」
だが、そのアイリスの体を何かが吹き飛ばした。
まったくの意識外からの一撃。体がバラバラになったかと思うほどの衝撃に、視界も明滅し呼吸も上手くできなかった。
「な……なんだ、一体?」
一拍を置いてようやく開ける視界。そこに移ったのは先ほど斬り落としたはずの右前脚だった。
魔力で形成されたその腕が、猛烈な速度で吹き飛ばしてきたのだった。
「まさか、斬っても操れるとはな……」
他の脚も消えずに残り、本体を戒める鎖へと襲い掛かり容易く斬り裂く。
「きゃあっ!? くっ、ワタシの魔力じゃあ流石にキツいわぁ……」
斬り落とされても、魔力で形成された肉体。すぐさま再生させると、二人に向き直り咆哮を上げる『霊獣の意思』。
表情こそないが、そこには明確な憤怒が感じ取れた。
「グゥアアアアアア!!!!!」
再びドーム状の衝撃波は二人へと襲い掛かる。もう札はない。
防御魔法を全開にして、吹き飛ばされた先へのショックを最小限に抑える二人。
完全に攻め手が逆転してしまった。
爪による一撃をアイリスの剣が受け止めるが、そこへ背中から放たれた魔力の奔流が体を叩く。
リリムスも、口からの大火球を障壁で防いでも、地を走る衝撃波に吹き飛ばされる。
もはや、敵からの攻撃を防いでいるのではなく、攻撃を受けた後のケアに奔走していると言っても過言ではなかった。
背後に回っても、巨木のように太い尾による一撃とそこから放たれる規格外の規模の魔法。
まるで背中にも目があるかのような攻撃に、攻めには転じることが出来なかった。
「くそっ……どうなっている? どんどん強くなってくる……」
「ワタシたちの動きを学習でもしているのかしらぁ……それとも野性のカンってやつかしらねぇ」
改めて、敵対している存在の強大さを思い知る二人。それでも一度燃え上がった闘志は簡単には消えることはない。
それぞれが手にした剣と杖を握り、構えなおす。
「それが本当ならば、時間がない」
「ええ、だからここで決めるわぁ。これがラストチャンスよぉ」
二人が再度走り出す。もう爆発の足止めもない。
すぐさま反応した『霊獣の意思』が爪を振り下ろし、アイリスを叩き潰さんとする。
「はぁっ!」
初撃は躱す。すぐさま来る二撃目、口から放たれる大雷球へは真っ向から剣を向ける。
「はぁああああ!!!」
真っ直ぐに突き出された剣が雷球へと突き刺さる。だが、アイリスの体が雷撃に焼かれることはなかった。
「これが、最後の一枚……」
剣の鍔に貼り付けられた札が迸る雷光をすべて吸収していた。
『霊獣の意思』の莫大な魔力を自身の力に変換し雷速で駆けるアイリス。
光と見紛うその速さで、一気に標的の四肢を斬り裂く。
「今だっ!!」
叫びを合図に、リリムスの杖から光が走る。それは鎖となって、今度は『霊獣の意思』を形作る魔力へと突き刺さっていく。
「これでぇえええ!!!」
リリムスが自身の杖を渾身の力で後方へと引っ張る。鎖の先に繋がれた『あるもの』を魔力の塊から引き抜くために。
「ガァアアアア!!!!」
何かを察した『霊獣の意思』が咆哮をあげ、斬られた四肢を操れる。
「やらせないっ!!」
リリムスを引き裂かんとしたそれらを、雷剣の一撃で霧散させるアイリス。
それと同時に、リリムスが『霊獣の意思』か件の者を引き抜いた。
『霊獣』をその身に宿し、またその中心となっていた少女、クロエを。