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10話 勇者の魂は闇と煌めく Possession part5

 少年の体がビクン! と大きく跳ねる。

 その動きに思わずアイリスは掴んでいた手を離してしまった。

 「ふぅん!!」

 少年の腕が不自然な挙動で振り回される。まるで人形の腕を無理やり振るかのように。

 ギュオ! という不気味な音と共に空気が歪む。今までにない規模の歪みに、アイリスも往人ゆきとも思わず体制を崩してしまう。

 「やめろ!!」

 剣を支えにしたアイリスが張り裂けんばかりに叫ぶ。

 その表情は怒りではなく、焦りだった。

 「その肉体でそこまでの魔力を解放すれば、その異界人は死ぬぞ!!」

 「なっ……!? どういうことだ!」

 往人はアイリスの肩を掴む。

 「憑依する魂によって、魔力の出力を調整しなくては肉体が傷ついてしまうんだ」

 それは、往人も考えなしに魔法を使えば死んでしまう、ということだった。

 (魔力の調整はコッチがやるからダーリンはあまり気にしなくてもいいわぁ。でも……)

 「とりあえずはアイツか……」

 往人は肉体の損傷などまるで気にしていない天族を睨みつける。

 


 「ふん、どうせ使い捨ての部品だ。壊れてしまえば次を使えばいい」

 ギリ、と往人は奥歯を噛みしめる。

 「ふざけるなよ……」

 許せなかった。

 人間を、命をなんだと思っているのか。

 「ソイツだって生きているんだ! それを使い捨てだと! ふざけんな!」

 「魔王と霊衣憑依ポゼッションしたからっていい気になるなよ、ガキが!!」

 天族は歪んだ空気を一気に圧縮し往人へと放つ。

 決して早いとは言えない速度の風の球は真っ直ぐ往人へと進んでいく。

 「そんなもの!!」

 往人は杖からの一撃で消滅させようと火球を放つ。

 圧倒的な速度の差で、火球は風の球を捉え燃え上がらせていく。

 「だからガキなんだよ」

 「――――――っ!?」

 

 音が消えた。

 もはや何が起きたのかも分からなかった。唯一、往人の分かったのは自身の体が空中へと大きく吹き飛ばされた、ということだけだった。

 「ははっ、魔王と契約をしていても所詮は何も知らぬ異界人。これで終わりだな」

 再び無理やりな挙動をさせながら天族が空気を圧縮させていく。今度は球ではなく刃にして放つ。

 「首を跳ねて確実な死をくれてやるさ!」

 「はあっ!!」

 往人の頭と胴体が離れ離れになる刹那、一つの影が往人の体を攫う。

 「むっ!?」

 「ユキトをやらせはしない」

 抱きかかえられた往人が見たものは翼だった。真っ白で一点の曇りもない美しい翼。

 それはアイリスがはためかせた二対四枚の翼だった。

 「アイ……リス?」

 「大丈夫か? 魔法の正体が分からない内に、むやみに攻撃を仕掛けるのはいただけないな」

 そっと地に降ろしながら放ったセリフはやはり説教だった。

 「ゴメン……」

 (はぁ……なんてお堅いヒトなのかしらぁ)

 呆れたようにため息をつくリリムスだったが、往人の顔は嬉しそうだった。

 自分を思い、これからにつながる言葉をかけてくれることに感謝していた。

 だからこそ。

 「コイツはオレが倒す」

 


 「まだ分からないのか? いくら魔王の力を得ようと、貴様とでは技量が違うんだよ!」

 怒りと共に天族は腕を振るう。無理やりな出力に依代よりしろである少年の腕のあちこちから血が噴き出していたし、怒りの言葉を叫ぶその顔も蒼白で今にも倒れそうだった。

 「オマエ、本当にそのまま戦うのか?」

 「だったらなんだ!」

 流れ出る血も意に介さず、天族は風のドリルをいくつも放つ。

 複雑な軌道を描くそれらは往人をグチャグチャの肉塊に変えようと四方から襲い掛かる。

 「ふんっ!!」

 だが、全方位からのドリルは往人が一息と共に展開した魔法障壁に阻まれ虚しく空転してしまう。

 ガリガリ!! と轟音を上げながら火花を散らせていたがそれもすぐに霧散していく。

 「なっ……に!?」

 『魔王』と契約をしたとはいえただの人間。『部品いかいびと』の限界を考えなければ簡単に砕けるはずの一撃を防がれた。

 その衝撃は、天族の思考に一瞬の空白を生んだ。

 戦いの中で生むには致命的な空白を。

 「なるほど」

 憑依した魔王から何か聞いたのか、ポツリと呟くと天族へ向けて杖を構える往人。

 その瞳には一切のためらいはなかった。

 「同じ異界人を貴様に殺せるか!!」

 悪あがきの叫びを吠えながらも天族は部品しょうねんの腕を振るった。

 それでも、ほんの僅かの動揺もなく往人はこう言った。

 「第三者でも契約は『破棄』させられるのか」

 

 紫色に輝く奔流がパーカーの少年の体を飲み込んでいった。

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