43話 明無心掴手 Ⅶ 京言葉......良いよね
ブクマありがとうございます
「どこ……ここ??」
茶室だった。竹でできた柵に囲まれており木々が密集していた。
誘導されクロについて行く。木で出来た橋を渡ると一人の幅しかない門——こちらは竹ではなくちゃんと木材を使用されている門があり中に入る。屋根には苔が生えていた。出入り口にデカい石が地面に埋め込まれてあり中に1つしかない茶室に向かって飛び飛びに敷き詰められていた。少しずらして並べてあることで庭園が自然に発生したものだと錯覚を起こしてしまう。石と石の間やその外回りには草か苔か判別できなかったが妙にマッチしている。
中も中で綺麗な庭園になっている。所々、樹木や成長して頭頂部がどこか分からない竹が植えられていたが、石道の邪魔にならないように避けられている構図になっている。
飛石を少し歩くと茶室の近くに灯籠が左右に3個ほど立てられていた。灯籠は自動ドアのように茶室に入る人を感知したのか自動で火が付いた。……キレイッ!!
そして、私達は茶室の入り口に辿り着いた。そこに居たのは私達を待っていたのか着物をきた女性がいる。
「まさか、この場所で貴方と会えるとは思いも寄りませんでした。お久し振りです、先生!」
目の前の女性は新緑色の着物を着ている。スタルジック大人っぽさのあるアンティーク調で大正ロマンに溢れる着物を好んで着ていて所々には花があしらわれており、清涼感ある扇子を持っていた。ここまでなら完璧な着物美人だったが、肩は丸見えの状態で着崩した格好をしていて、ある部分が見えそうで見えないぐらいまで着物をおろしている。
なんてことなの……この人もクロみたいなことを……私の周りは真面に服を着る人はいないのかな〜
私は顔を上にあげ空が白いことが分かった。
「私達がここに来た理由、分かるでしょう……」
「ここでは何ですので、どうぞ。中へ」
和服美人さんが扉に対して手招きしていた。それが合図なのか扉が一人でに開く。
「靴は脱いでください。一応、神聖な場所やので。心配する必要はおまへん。先生達に危害を加えるつもりはおまへん。あたしも話をしたいのでね」
凄い、京言葉。初めて聞いたよ!
「そういうことなら、ちゃんと脱ぎましょうかしら」
クロの真似をして私もいつの間にか履いていた自分の靴を脱ぐ。
和服美人さんが先頭を歩きながら茶室の中を移動する。
中も素敵で全て木材で作られていて新品同然の状態になっている。
続く廊下を歩いていると中庭を見る。中庭は石庭でできており、石だけなのに惹きつけられるものがある。
しかし、結構歩くな。外からこの茶室を見た時は小さい小屋だとイメージしていたのに中は屋敷並の広さがある。ここが精神世界だからなのかな……ここの主の想像の空間。
「あそこでお話いたしましょう」
この屋敷から離れ、離れた場所に私が見た小さい小屋があった。いつの間にか先程、履いていた靴が出口に置かれていた。クロは自然に靴を履き、歩き進む。私も靴を履き屋敷の外に出る。
そこには四季の花々に彩られた華やかな庭が存在していた。近くには小さな池があり鯉が泳いでいた。
「ここでお話します」
中に入ると先程の屋敷に置かれてあった調度品などが1つもない。あるのは茶道に使われる道具のみ。それ以外は何もない空間。無駄なものをどんどんそぎ落とされ、シンプルなのに中は美しく落ち着いた雰囲気を見出していた。
私は2人に倣って正座で座ることにした。
和服美人さんは慣れた手付きでお茶を飲むときに使われる茶器を扱い、2人分のお茶を作り私達の前に差し出した。少し苦かったが美味しいお茶で時間はかかったが全て飲み干した。
しかし、心を落ち着かせながらお茶を点てる姿は上品で美しく一つの洗礼された芸で、振る舞いも完璧なのにどうして終わったら服を着崩しているのかそこだけは腑に落ちなかった。
「相変わらず貴方の淹れるお茶は美味しいわね」
「お褒めいただき嬉しいです」
「長話は要らないわ。貴方には協力して貰うわよ……」
クロと和服美人の悪魔は話あっていた。そういえば、ここに来る前に『交渉は灯ね』にって言われたけど私そっちのけで話している。いくら私に色々、経験させたいとは言ったけど流石にまだ早いと思ったのかな。手持ち無沙汰になったので外の景色を見ることにした。へぇ〜 この茶室に入った時は春中心の景色になっていたけど、今は夏中心。でも、全然暑さは感じない。あくまで夏に咲いている花や樹木があるだけ。あぁ!? 今度は紅葉…… 秋の季節になった。
「……聞いてる?」
「えぇ!?」
「聞いてなかったわね……」
「ご、ごめんなさい」
「ふふん! 気にしなくても良いわよ。先生は相手の悪魔との交渉中はこんな感じなので。限られた時間の中で相手を如何に落とすかを効率的に実行しているのよ」
「そうなんですか……私はここに来たの初めてで」
「初めてが私で悪いわね」
「いえいえ、そんなことは……1つ宜しいですか?」
「何かしら、可愛い子さん?」
「今は貴方のことをなんてお呼びすれば宜しいでしょうか?」
「そうな〜 もし良かったら貴方が名付けして」
「良いんですか。勝手に名前を決めてしまっても。貴方にもちゃんとした名前があるはずですよね? 私は契約者ではないのに」
「景色に夢中で聞いてなかったみたいな。今回の件——魔界から逃げたあたしを除いた6体の悪魔の回収。悪魔因子が入っとる人形、もしくはその力が入っとる媒体の全回収の協力を了承したわ。ほんで、仮のリーダーとして貴方に決まって、あたしは貴方の奴隷となる。奴隷にも名前が必要でしょう。そやし貴方が名付けてよ。あたしも貴方みたいな可愛い子に決めて貰うなら嬉しいし……」
「では、うん〜」
「言っておくけどこの子に期待しない方が良いわよ。必ず呆れるから」
「えぇ!?」
私は暫し考え、目の前にいる緑髪が特徴の和服美人。良しっ!!
「この件が終わるまで貴方の名前は——ミドリ!」
「……貴方の、その名前を安直で考える癖なんとかしてよ……私もクロだし」
「だって、あの特徴がある髪が目に入ったし。てか、クロの名前は……」
「悪いわね。この子のネーミングセンスは……てか、どうしたの?」
クロが不思議そうな顔をしていたので向いている方向に私は顔を向けると、和服美人——ミドリが泣いていた。びっくりしたのが片目だけ一直線に涙が垂れていた。まるで誰かを懐かしむ。そんな顔をしていた。
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『決めました! 貴方はミドリよ!』
『ミドリって……他の契約者はもっと練った名前にしてるのに……変わってるわね、貴方は』
『だって、名前を考えていたら……貴方のその特徴的で綺麗な髪が目に入ったから……ダメかな?』
『まぁ、良いわ! じゃあ私は貴方の願いが叶うまでミドリにするわ! よろしくね、——』
ワタシは目の前にいる巫女装束を着ている笑顔で元気な娘に対して微笑みを見せた。
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「あの……大丈夫ですか?」
私、天織灯は泣いているミドリを心配した。
「ごめんなさいね。昔を思い出して……貴方と同じように『ミドリ』って決めた子がいたので」
「……変更します」
「全然、気にしなくて良いわ! ミドリで大丈夫よ! しかし、先生も隅に置けませんね」
「ん? 何のことよ」
「だって、あたし達がいなくなってからあまり日が経っておらんのにこんな可愛い悪魔の子を部下にするなんて……そやけども、魔王も話がわかる人だな〜 絶対に、先生だけこっちに来るもんだと思っとったし。まぁ、二人体制で捜査すれば別々であたし達に出会しても封印でけるから。已む無く了承したって感じかな……」
「いえ、私は人間で……ここに来たのは私達の強化アイテムに……」
「……何ですって」
私を見て驚愕な顔をして目を見開き、あり得ない顔をしていた。まるで親の仇かのように
「お前が人間だとぉぉおおおおおぉ!!!! ふざけるなあぁぁっぁああああ!!!!!」
クロは私を抱き抱え、茶室から外へジャンプしていた。
「まぁ、今はこれで良しとしますか」
「ねぇ、クロ!? 説明してよ」
着地に成功し茶室を見ると……茶室が変形していく。中庭にあった石庭が一つに集まり大きく天へ向かって盛り上がりピラミッドのようになり胴体があの茶室。茶室の左右から樹木が太く太く伸び巨大な手が出現した。茶室の屋根に1人佇みミドリの姿があった。
「帰れ!! お前達の協力はせん。もう来るなぁぁあぁぁぁあ!!!」
樹木の腕が私達に高速で伸びてきた。勢いよく来る樹木の手が迫る。風圧と圧迫感に苛まれていた。樹木の手が人間でいう所の手首部分で一刀両断され、制御がなくなりその場で落ち、落ちたことで風が舞う。
その風で砂埃が舞ったことで視界がお互い悪く、その隙にクロが走りだしミドリに言い放った。
「貴方は必ず、協力するわ。この子——天織灯が貴方を救う!!」
「人間如きがあたしを救う訳ないわ」
「じゃあね!!」
私とクロはこの精神世界から離脱した。
……目を開けると私の部屋のベットの中だった。
……無事に戻ってきたのか。
……しかし
「クロ……何であんな事したの。お陰で協力が難しくなったじゃん」
「あのまま協力を結べば、必ずあの子——ミドリは気付くわ。灯が人間だってね。だから、早めにあの状態にしたのよ。後は灯に任せるわ!」
「難易度MAXになって無理ゲーになったんだけど……」
「大丈夫! 灯なら出来るから——私が選んだ貴方なら。ミドリの心を救えるのは灯だってね」
「今日はもう遅いから続きは後日にしましょう! お休み」
私のおでこにクロは軽いキスをして部屋を出た。まさか、またやる事を思い出して入ってこないよね。二度あることは三度あるって言うし……
……本当に何も起きなかった。
この精神世界はいわばその人の核......自分が最も好きなもの・嫌いなものが強く心に反映し形を成した世界。
今の自分の現状そのものなので何でも出現してしまう。
緑の悪魔こと【ミドリ】は茶室が好きというより和のテイストが好き。自分が昔、依頼として現世に降り立った時に触れて感じた。自分が生きてきた中で一番感銘を受けたモノ。
この世界では現れる食べ物は本人が了承すれば外から入った物も食すことが可能。
このシステムが構築されてからあまり訪れていない事象。
現実に置き換えすと刑務所の受刑者が差し出した食べ物を面会にきた警察官が食べるのか?
もし......この世界が外に漏れるほどの強力な現象が起こった場合、作ったクロでも対処は不可能。その為に複数人で内で対処する。今までそう対処してきた。なのでこの世界でまともに戦闘ができる者は相当の手練れ出なくてはならない。クロ自身が認めた者。もし、外に漏れてた場合、対処できる者は1人。その者が持つ力で鎮めることが可能だが昔ある事件があり、少々、人間嫌いな面を持ち合わせているため苦労する。




