40話 明無心掴手 Ⅳ 笑顔は時として残酷だ
乙女心は複雑ですね〜
クロは椅子を回転させこちらを見て挨拶してくれた。
「あら! いらっしゃい。鈴木さん、天織さん」
「少し相談したいことがあります! 黒咲先生……いえ、クロさん!」
「良いわよ。迷える子羊の面倒を見るのが私の役目ですもの。灯も同じ理由?」
「いや……ち、違う……私は……」
まただ。クロの顔が見れない……こう何度も変な態度取ってると流石にクロでも機嫌悪くなるよね。どうしたら良いのかな……綾ちゃんと楽しそうに笑うクロを気付いたらジッと見ており、そんな2人の様子を見て、こっそり睨んでいた。なんだろう? このモヤモヤだったり、ドス黒い感情は……
綾ちゃんはクロが持ってきたコーヒーを一気飲みしていた。熱くないのかな……
心配する私とクロに目もくれず、一気に飲み干し机に空のコップを置く。
「もう、一杯っ!」
「綾……ここは飲み屋じゃないわよ。それに口の中、大丈夫?」
「これが飲まずにいられない状況なんです。あぁ、口は問題ないです」
「はいはい、新しいの持ってくるから待ってて……」
クロは一旦、その場から離れる。
私は綾ちゃんに絡まれた。まるで酔っぱらいに絡まれ、私の首の後ろに綾ちゃんの腕が置かれた。
……あぁ〜どうしようかな……こうなると隙を突いて逃げ出せない。
「……さっき、月音ちゃんに何話そうとしたのかな〜灯さん????」
「いや、ここではちょっと……」
「はっは〜んんん。ここでは言えない大事な話か〜 なるほどね〜 」
私の首にあった腕がなくなる。今度は私の顎を少し上げた綾ちゃん。顎を上げたと同時に綾ちゃんは親指だけ私の唇に軽く触れる。予想外のことで驚く私。目を開き、頬を少し赤らめていた。
綾ちゃんの顔が私に近づく。あと数センチで唇と唇が重なる。
「ここはそのようなサービスは行なっておりません、お客さま」
綾ちゃんはクロに制服の襟を掴まれ後退していた。
「一体何があったのよ、貴方達??」
「何でもないよ、クロ。ただ、私は安齋さんに相談に乗ってもらおうと思って話しかけただけなのに今ここに連行されているの……」
「相談なら私がいるじゃん。それとも、私に言えないこと?」
「そ、その……」
私はモジモジしていた。クロには言えない事だし何より恥ずかしい……
灯:ヘルプミー!! 青奈ちゃん、こうちゃん
黄華:灯、こいつが動かない……
灯:何で???
青奈ちゃんは三角座りしており、顔を伏せていた。
灯:あの〜 青奈ちゃん?
青奈:私しは運のない子……私しは運のない子……私しは運のない子……
黄華:さっきから『私しは運のない子』って呪文のように言っててうるさいんだよ
灯:こうちゃん、助けて。お願いっ!!
黄華:もうさぁ〜 いっそのことぶちまければ良いんじゃないか
灯:それができれば苦労しないよ。だから困ってるのに……
黄華:右も左も面倒い奴ばかりだな〜 はぁ〜 また、ため息が増える……
私はこうちゃんの背中を摩り労う。そんなに苦労させていたなんて。
灯:ごめんね、こうちゃん……私達のために心労が……
黄華:じゃあ、とりあえず膝枕して。灯!
灯:膝枕? 別に良いけど。珍しいね、こうちゃんが膝枕なんて所望するの
私はその場に座り、膝を手で叩きながらこうちゃんを膝枕へご招待することにした。
黄華:偶には癒しがないとやっていけない
灯:何か言動が働き詰めの人みたいだよ
黄華:ある意味、僕はそうかもな〜 そこに振れ幅が激しい奴いるし、ここにはキスで心情がおかしくなる奴。やることが一杯だよ
青奈:キキキキキキキキ、キスッ!!! ガハァッ!!!
青奈ちゃんが吐血し、横向きに倒れる。私たちはその様子を見たがそっとしておいた。
灯:仕方ないじゃん……こんな状況は習ってないし……
黄華:習うってお前な〜 そんなものどうだって良いんだよ。それに、何事も初めは足取りは重いものだ。そこから前に進めば自ずと足も軽くなる
灯:その言葉、絶対この場面じゃないと思いけど……
黄華:じゃあ、当たって砕けろっ!
灯:砕けちゃダメじゃない?
綾ちゃんが2杯目のコーヒーを飲み干しコップを机に置いてクロに話しかけていた。
「聞いてください! クロさん、灯ちゃんがさっき月音ちゃんの教室に行って『大事な話があります』って言ったんですよ! しかも恥ずかしそうな顔で! どう思いますか」
「綾、人には友達にだって中々言えない事だってあるものよ。灯にとっては深刻な問題で綾やすずにあまり聞かれたくない事だと思うわ。灯は今までエリートぼっちの頂点にいた子よ。昔に比べれば人を頼ることを覚えて嬉しいけど同時に悲しいわ。相談事はいつも私が担当だったのに……」
クロ……会話の中にさりげなく私をディスったわね。別に2人聞かれたくない話じゃなくて2人に話すと後で何されるか分からないから相談候補から外したの……先日も光の速さでホテルに来て危うく貞操の危機だった。あれ?? 結局、現在進行形で刑が執行されている? もしかして、どのルートを選んでも私は詰んでいるのではないか……
「まぁ、灯の悩みは大方予想はつくけどそれをここで話すのは可哀想だからお口チャックするわ」
「教えてください、クロさん……いや、クロ様!!」
「ダメよ、代わりに綾……貴方に一つアドバイスよ」
「アドバイスですか?」
「女は度胸よ。自分が決めたのなら突き進みなさい!」
私と綾ちゃんは保健室から退室した。
教室に戻る過程で綾ちゃんは腕を組みながら難しい顔をしている。
すると、私のポケットから携帯端末が振動していた。取り出すとクロから通知が来ていた。
クロ:貴方も大変ね!
灯:誰のせいよ!? 綾ちゃんに何吹き込んでいるの
クロ:それより、貴方の悩みは……
私はクロの次の言葉を見ようとしたら綾ちゃんの背中が当たり、尻もちを突いてしまった。
「綾ちゃん……急に止まらないでよ」
「ごめんごめん、ちょっと行ってくる!」
そう言って綾ちゃんは近くの教室に入り、中にいる生徒達と言い争っていた。
安齋さんに大きな声で話している女子生徒。金髪をアップでしてまとめており、美しい美貌を持ち人を見下す目をしていた。彼女の両端に見たような女子生徒が2人いる状態。
「貴方、今度は男だけじゃ飽き足らず女まで手駒にするつもりかしら」
「私は……そんなんじゃないです……」
「ちょっと深見様が折角、貴方に話かけているのにちゃんと目を見て話しなさい」
「そうよ。安齋さん、あろうことか天織さんを口説くなんて……」
「貴方達、良い加減にしなさいっ!! 月音ちゃんに何してるのよ」
「これは安齋さんの騎士様が来たわね」
「月音ちゃんを悪く言うのは辞めてくれるかしら」
今尚、口論は続いていた。
どうしよう……私のせいだよね。安齋さんにはちゃんと謝罪しないと。
しかし、あの3人と見ているとイライラしてしまう。寄ってたかって安齋さんに暴言を撒き散らして良い度胸ね……あの3人には少しお灸を据えないといけないわね……
深見何某が綾ちゃんを叩こうと手を上げていた。
2人の間にまるで初めからそこにいたとばかりに天織灯はいた。
私は速攻で2人と間に入り、振り上げられた手を静止させた。
変身しなくても意識すればいけるんだ……今の所、周りの生徒には気付かれていない様だがバレない様に過ごさないといけないね……
深見何某の手首を掴み私は口を開く。
「私の友達に何しているのですか?」
「あ、天織様!? いえ、天織さん。これは……」
「鈴木さんも安齋さんも私にとって大事な……かけがえのない存在です。2人に何かあれば許しません。ご承知おき下さい……」
私は赤い瞳を閉じ、目を細めニッコリと笑う。しかし、身体に纏っているオーラが恐怖そのものだった。
手を離され取り巻きと一緒に教室を後にする深見何某。
「今日はこれ位にしてあげるわ。では、ご機嫌よ」
なんて捨て台詞は吐くのかしら……
「2人とも大丈夫?」
「ありがとう、灯ちゃん」
あぁ〜来ちゃった。知〜らない




