9話 その1歩が意外と重い
遡ること1時間前。
灯とクロは家に帰宅していた。
2階の事務所の奥にある秘密の扉を開け、中に入っていく。
そこは、事務所のように落ち着いた雰囲気のある部屋とは違い、サイエンス色が強めな開発ラボに何か作業をしている璃子さんがいた。
入って目の前に、大学の研究室で使われているらしい黒色の机。左側には上部分が半透明で中が見えている縦長の冷蔵庫のような形の箱が設置されており、後ろには、その箱と直結しているスーパーコンピューターが置いてある。奥で背を向けながらパソコンで何か操作している璃子さん。
「お帰り、2人とも」
キーボードを目にも留まらぬ速さでタイピングしながら作業していた。
「よし、出来た!!」
右側に設置されていた箱が光り出し、光が収まると、電子レンジで温め終わったような音を出しながら、半透明のドアが開いた。寒い時に息を吐くとでてくる白い煙が出ていて天井に向かって昇っていきながら、璃子さんは中に入っていたモノを取り出した。
「お待たせ!! ちゃんと、正常に使えるようにしといたから」
渡されたのは、片方には黄緑色、片面にはNo.59と彫られている弾倉だった。
「前回、採取したソドールは蜥蜴と蔦の複合でちゃんと使えるようになったのは蔦のほうだったよ」
ソドールの成分を回収しアイテムにすると敵が使っていた能力の内、1つが受け継がれる。
ガチャの様なもの。良い性能悪い性能もある。成分が入っているマガジンを装填し、引き金を引くことで入っている能力が活性化し使用できる。しかし、出てくる能力は本来のソドールより劣っている。
例えば、今回出てきた能力【アイヴィー】だとソドール本体は無制限に蔦を排出できる。灯達が使用すると養分がないとすぐ使えない。全力の能力を使用できる人はかなり精神力・忍耐力・感情のコントロールに長けていないとソドールに侵食されて理性的な行動が一切なくなるため本能的な行動を取ってしまう。
No.59 【アイヴィー】
可変式変身銃クィーンズブラスターASKに装填することで使用可能。
トリガーを引くと弾丸の代わりに種が発射され、種が発芽し4本の蔦が出現。
対象者を捕捉し、動きを止める。葉は掌状に浅く裂けるか、完全に分かれて複葉になり、落葉性。巻きひげの先端が吸盤になり、基盤に付着する。
「さっそく、試してみますか」
私はラボの右側に備えられている部屋に行き、広々とした空間に移動した。
この空間は実践場となっており、浄化品となったソドールの能力を試し、実用可能まで練習する場所。かなり頑丈な造りをしているため、多少暴れても外には響かないようになっている。
白いフレームを懐から取り出し、左腰に付けているホルダーには、赤・青・黄、3つのスライドキーが収納されている。赤いスライドキーを持ち、フレームと合体することで高校生、天織灯は怪盗レッドクイーンに変身できる。
『レッド!』
愉快な声が鳴り、私はトリガーを引いた。
黒髪から真っ赤な髪に変更になり、モデル体型のような細い体は烏の羽のような艶のある黒色のワンピース・ドレスに包まれている。ドレスの上に羽織っている深みのある華やかなワインレッドカラーのコート。
今は、身内しかいないためマスクは付けていない。
【アイヴィ―】
No.59の弾倉を装填し、地面に向かってトリガーを引いた。
打ち込んだ場所から4本の蔦が出てきた。通常は、無数に葉が連なっているがこの蔦は4本全ての先端にしか葉は存在せず、表は光沢のある鮮やかな緑色で、裏はギザギザの模様になっており、掌状に浅く裂けている。
どんどん伸びて行って10メートル位出てきてから、すぐに枯れて消失してしまった。
「どうして?」
「エネルギーが足りず10メートルで成長が止まっちゃったみたいね」
「エネルギー?」
「この【アイヴィ―】から出てくる蔦は敵を捕捉するだけじゃなくて敵のエネルギーを奪い、動きを止めることができるの」
「じゃあ、次は実践ね!」
璃子さんが板状の端末を操作し、私の目の前に木製の棒人形を出現した。
もう一度、地面に打ち、蔦を出現させ、目の前の棒人形に向かって伸びて行った。蔦の先端に巻きひげが変化した丸い吸盤があること。始めに吸盤が吸着し、後に巻きひげを出すことで活着を強固になっていた。
「本当は、エネルギーを吸って、相手の動きを止める実践データが欲しかったけど......」
さすがに実際にエネルギーを吸う行為をするためには手っ取り早い話、人を使っての検証だけど、世間一般的にそれは、アウトの部類に入る。それに、もしそれをやるものなら私達はあいつらと同類になってしまう。
「ソドールが出てきたら、実戦で使うしかないね。全部のエネルギーは吸わない様に設定してあるから、その目印は敵のエネルギーが規定値を超えると、先端の葉が赤く染まるから。赤くなるとさらに、吸盤部分が広がり、より絡みつく」
結構、良い性能してない? これなら、安心してソドールから成分を採取できる。少なくとも、致死量のエネルギーが吸われることはないため、対象者が死ぬこともない。無駄な力を消費せず、効率的に怪盗活動ができる。
そんなことを色々、考えていると......
「でも、デメリットもあるから」
「えぇぇぇぇっ!」
その場で私はうめき声を鳴らしながら四つん這いになっていた。
そんな私には目もくれず話を続けた。
「まず、さっきも見たようにエネルギーを吸わないと成長が止み、枯れてしまう。そうなると、隙を作ってしまい、攻撃を受けてしまう。もう1つは、水に弱いこと。 500ml位の容量の水又は、液体なら大丈夫なんだけど、一度に大量の水が掛かると、柔らかくなり、吸盤機能が低下、敵がすり抜けてしまう。その2点のことを頭に入れていたら、結構使えシロモノだね......」
「灯、ターゲットが動いたわ」
クロに言われ、すぐに立ち、気持ちを切り替えて行動を開始した。
「璃子さん、行ってきます」
クロと一緒に屋根伝いで移動しながら......
「ねぇ、灯」
「何?」
「今度の罰ゲームどうする?」
「えぇ、また? やらないよ」
「本当に?」
「本当よ」
......
.........
............
「分かったわよ」
(チョロいわね、やっぱり!!)
「じゃあ、私が今日中に成分を回収出来たら、近而駅に人気のあるクレープ屋があるから、限定のスペシャルジャンボミックスイチゴクレープをおごってね!!」
「えぇ!? あれって、オープン開始3分で完売する限定クレープじゃない」
灯は下を向き、軽く思案した。
「じゃあ、私は、ミニスカでメイド服を着るで......」
「またぁ~~。ねぇ灯、貴方もしかして、メイドスキーなの? もっと、私みたいに限定品のスイーツをねだるみたいな罰ゲームでもいいのに......」
「違うよ! 貴方の恥ずかしい姿を見るのが楽しいからよ!!」
「えぇ。マジですか。で本音は?」
お互い、どこかのビルの屋上で止まり......
「分からないの、何も......」
少し、灯の表情が暗くなっていた。あんな、出来事があったから、なるべく楽しいことをして心のケアをしてきたが、全て終わるまで、その表情は晴れないのかもしれない。
仕方ないな......私は灯の前に立つ。
ベシィ
灯の頭をチョップした。
「痛い。何するの?????」
「それで、いいんじゃない」
「えぇ?」
「何も無いなら、今から見つければいいの」
確かに、復讐すれば、晴れるかもしれない。でも、復讐を終えた後、何が残るのか。
「メリハリが大切なの。復讐するときは一直線に復讐する。でも、それ以外は存分に楽しもよ。人生は何事も楽しんだ者が勝ちなの」
その言葉を聴き、私は口元の口角が上がった。
「いいわよ! やってやろうじゃない!!」
「じゃあ、その楽しみの第一歩としてクロの罰ゲームを変更するわ」
「何にするの?」
「さっきのクレープ屋の近くに誓約書を書くレベルで激辛肉を食べてもらう」
私に向かって指を指し、灯はそう、宣言した。
「良いわよ! さぁ、仕事を始めましょう!」
クロから手を差し出された、私は、それを取った。
「結局、私に嫌なことをして快感を得るーーもしかして、ドS?」
「違いますぅ~」