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レッド・クイーンズ ~天織灯のあくまな怪盗生活~  作者: 麻莉
2章 6月 涙の暴雨、天舞う朱は侵界を祓う
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25話 激痛引換券で治る身体

 璃子は現在、自分の研究室に篭っていた。自分で改良した6画面のマルチモニターで作業していた。と言ってもモニターの真ん中と右側を主に作業用で使用しており、灯たちの怪盗道具を正常に起動させるためのプログラムが羅列されており、素人が見ると目が痛くなるほど膨大な電子データがあった。因みに左側2画面は株の投資画面になっており自分の資金源となっている。

 クイーンズブラスターASKやソドールの能力が入っているマガジンなどをこまめにメンテナンスしている。それだけならそう時間はかからないが今は【太義の蛮輪】(ブロ・ウォーガー)の改修案を考えていた。


 ため息まじりで画面と睨めっこしていた。試しに先日回収した悪魔2体の成分を【太義の蛮輪】(ブロ・ウォーガー)に入れ、能力を引き上げる折衷案が頭にあったが、それぞれの悪魔は共存できないのか分からないが強く反発してしまい製造装置が連続で爆発した。


 【義心の大剣】(ヘルズ・ギドリ)の圧倒的パワーが大きく減少した。敵の攻撃を吸収し放出する能力しか残っていない。

 それだけでも十分いけると思う。大剣である【義心の大剣】(ヘルズ・ギドリ)による攻撃をしながら刀身の幅が広いため敵からの防御にも役に立ち堅実な立ち回りが可能になっていた。

 防御すれば100%敵からの攻撃を吸収できるのも利点となっている。


「うぅぅぅうぅううんんんん……。どうしましょうか」

 1つ案があるがそれをやると後が怖い……。



 【太義の蛮輪】(ブロ・ウォーガー)を変形して出来るライフル銃は問題ない。取り付けられているスコープにより撃つと対象の敵に向かって自動で正確な軌道を算出してくれる。

 割り出したルートで対象の敵にほぼ確実に着弾してくれる。



「た、ただいま……」

 壁にもたれ掛かりながらぐったりしている灯が研究室の入り口にいた。


「お、おかえりさない……。大丈夫、灯??」


「ソドールとの戦闘が原因です……」


「そ、そう……。メディカルルームに行きましょうか」


「肩貸して……」


 実践場の奥、シャワールームの隣の部屋にあるメディカルルーム。私は服を脱ぎ、下着姿になり中央に置かれている手術台のようなベットに寝た。柔軟性と効率性、安全性を兼ね備えたベット。

 ソドールとの戦闘で負った傷などを治すために様々な術式がプログラムされておる柔軟性。ベットの上下に置かれてある精密機器を容易に脱着ができる効率性。誤作動を防ぐために完璧な安全性が付けられている。


 今回は無茶な動きをしたための単なる筋肉痛のため、短時間で治るマッサージコースを選択した。

「じゃあ、動かないでね。暴れると最初からになるからね」


「……はい。そういえば、クロは?」


 真っ先に私の元に現れる確率100%のクロがどこにもいない。

 夜の8時を過ぎているので学園の仕事はとっくに終わっているはず……。


「あぁ……。クロには別件を頼んでるの」


「別件?」


「はい!! 行くよ!!」


「待って……。まだ心の準備が」

 マッサージコースは確実に治すが術中はその……死ぬほど痛い。

 肉体を高速で治療できるから良いけど激痛が……。


「スイッチ・オン!」


 メディカルルームは完全防音になっており外からは何も聞こえない。なので中に何があっても誰も気づかない。



 警察専用の病院。1人用病室のベット。ずっと昏睡状態になっていた男が目を覚ました。

 まだ完全に動くことが出来ず、車椅子生活を余儀なくされた。

 辿り着いたのは病院の屋上。夜遅いため誰もいない。1人だけの空間。鉄扉を開け放つ。

 漆黒の空の下、まばらに星が散りばっているのをただ見つめていた。


 いっぱいに息を吸い込む。久しぶりに自分の力で空気を取り込んだ。ゆっくりタイヤを回りながらフェンス近くまで到達した。奥にあるフェンスにもたれかかりたかったが、今の身体の状態ではそれも出来ない。


「何やってるんだろうな……俺は」

 俺——緋山燐兎ひやま れんと。ここに来るまで意識を失う前のことがフラッシュバックしていた。

 自分が頑張っていたことが全て空回りしていること。その結果、市民を殺してしまうこと。様々な出来事が一瞬のうちに頭に駆け巡り、罪悪感の中に投獄されていた。


「男が1人、何黄昏ているですか?」


「——ッ!」

 虚な目のまま、車椅子をゆっくり動かし後ろを振り向いた。

 ドアを背にもたれ掛かっている男性が立っていた。

 素顔はよく見えなかったが整った黒髪、真っ赤な服の長身の男。あんな姿の人間は警察内には存在せず、ましてや病院内もいない。


「誰だ……お前は」


 長身の男は懐から物を取り出し、床のコンクリートに置いた。

「これを返しに来ましたよ! お巡りさん」

 床に置かれたのは俺が先日、怪盗に持っていかれた【アヒェントランサー】と【Pパス】だった。


「メンテナンスはしてありますのですぐに実践に使えますよ」


「何故だ……。俺に渡して貸しでも作る気なのか」


「『貸し』ですか。それも良いですね。しかし、私の弟子が迷惑をかけたお詫びです。ただ、それだけですよ」


「『弟子』……? あの怪盗が……」


「あの子もまだ未熟なもので貴方に多大なるご迷惑をおかけしましたね。早く身体が治ることを願っていますよ」


「生憎だが、俺はもう戦わない……。正義を冒涜した」


「あぁ〜。まぁ、悩んでください。貴方のやったことは確かに眼に余ることでしたが、人を助けたいって意思は見られました。それは無くさないでください。それでは失礼」

 男は持っていた銃を空に撃つ。放たれたのは銃弾ではなく細い糸のようなもの。引っ張られるかのように男は空中に移動し、そのまま消えた。


 男が完全に消えたのを確認した俺はドア付近に置かれていた自分の武器2つを見つめていた。



「璃子。終わったわよ。でも、良かったの返しちゃって」

 男の声から鈴のような澄み通った声で携帯端末の向こうにいる女性と会話していた。


「問題ないわ。警察の武器もあらかた解析してデータは奪ったし、貴方たちの武器をアンチウェポンに改良したから、再度戦うことになっても以前のように苦戦しないわ」


「流石ッ!! 璃子大先生ですね。見直しました」


「はいはい……」


「そういえば、灯は? ちゃんと家に着いた?」


「あの子はもう高校生だよ。小さい子どもじゃないんだから」


「いやいや、まだまだ幼い子どもです——灯は」


「今、メディカルルームで絶賛絶叫中よ」


「えぇ!? 何面白いことしてるのよ。今から光よりも早く帰るわ」


「それより、お腹空いたからご飯よろしくね」


「ねぇ〜 偶には貴方も……。ごめん。貴方も灯と同類だったわね。しかし、良く私達と会うまで生きていたわね」


「最近の携帯食料は優秀ですから。なんとか生きられるのよ」


「それだけで、良くあのスタイルを維持できるわね。不思議だ〜」


「貴方にスタイルの事を言われても、説得力ないけど」


「ほら!! 私の場合、好き勝手弄れるしね——容姿も意のまま」


「早く帰ってきてね!」


 通話がそこで切れ、真っ赤な服を着たクロは急いで家に帰る。

「さぁ、灯の姿を拝見しますか!!」

お読み頂き、ありがとうございます

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