8話 蟷螂の手は鋭いよね
そこに、立っていたのは、二足歩行の蟷螂だった。
良く、草むらで見かける蟷螂がそのまま人間サイズになった感じの見た目だった。
しかし、なぜか、蟷螂の特徴ともいえる鋭い鎌が右腕にしかなく、左腕は黄緑色だけど、人間の腕に、ガラスが無数に刺さっている見た目がいた。顔は強面で後頭部に蟷螂の顔が備わっている。
「ワタシ、キレイ?」
「えぇ......」
頭が追い付かない。なんで、こんなことになるかなぁ。なんで、こんな化物が学校にいるんだよ。今日は、いつも以上に早く起きられたし、電車は満員じゃなかったから、憂鬱にならなかったし、始業式だけだったから早く帰れて朋美と遊べて嬉しかったし......
などと、今日一幸運な人間として過ごせていた。
運とは上昇し続けることはない。どこかでピークを迎え、そして、下落していく。
大抵の人間は、些細なことで不運に見舞われることがある。しかし、極一部、何億人分の1の人間はそんな、些細な不運以上の不幸が舞い込んでくる。
「綺麗です。貴方が一番の美貌の持ち主です」
「ソウヨネ!! ワタシガイチバン、イチバン。ソコノオンナヨリ?」
「それは......」
ヤバい、ここで、目の前の怪物に朋美より綺麗と言えば、怪物は満足するかもしれないが、そうなると、朋美の方が機嫌を損ねる可能性がある......
俺は、頭から汗が一滴流れてきてるのが感覚で分かった。
「ソウヨネ......ソコノオンナノホウガキレイトネ......ワタシハミニクイモノ......フフフフフ」
怪物は顔を下に向け、少し笑いながら何かを呟いていたが何を言っていたのかうまく聞き取れなかった。今のうちに後ろに後退しよう。外に出れる道は他にもある。
「朋美、今の内だ。ゆっくり、移動しよう」
小声で彼女に伝え、朋美も頷きながら移動した。
「ワタシハキレイーーキレイ? ーーキレイ?? ワタシイジョウノオンナハイナイーーモシ、イルナラハイジョスルシカナイ」
顔を前に向けると、先ほどまでいたカップルがいない。
プルプル震えながら、ワタシは、激高していた。
「キサマラァァァァッァァァッァァァッァァ」
「ヤバい、はぁはぁーーめっちゃくちゃ怒ってる」
「逃げることには、はぁはぁーー成功したけど」
2人は全力で逃げていた。生まれてから初めてじゃないか位に走っていた。
2人はそのまま、1階の端にある扉に向かっていた。各棟の1階の端には扉が設置されており、そこからすぐに、外に出られる。
「クソォ」
扉の前に到着し、ドアノブをひねってみたが、扉は開かなかった。
「キサマラァァァァァ」
後ろから奇声が飛んできており、まるで、闘牛が赤いものを目にして猛スピードで突進してくるようにあの怪物はこちらに向かってきていた。
俺たちはすぐに、階段を上り、教育棟に向かっていた。もしかしたら、誰か教師が残っているかもしれない。そんな、希望も持ちながら進んでいた。
2階に到着し、3階に上ろうとした時、なぜか、あの怪物が目の前にいた。丁度、2階と3階の中間の部分にそいつはこちらを見下ろしていた。
「ーーミツケタ」
「こっちだ」
朋美の腕を掴み、2階の教室のある廊下を走った。
どうやって、先回りしたんだ......
2年4組の扉が開いてるのが分かった。
一旦あそこに入って隠れよう。
足音がそこまで来ているのが分かった。
「ーーソコカ」
扉を蹴破り中に入ってきた。なんで、分かったんだ......
「ハイジョシマスーーサヨウナラ」
右腕を上にあげこちらに目掛けて一直線に振り下ろした。
軽機関銃の乾いた銃声が部屋に響いた。数発放たれたであろう弾丸が怪物の左顔に当たり、当たった反動で廊下に飛んで行った。
「えぇ?」
2人は銃声の発生源とされている窓際の方を向いみると、そこには、腰まで伸びている真っ赤な髪、モデル体型のような細い体は烏の羽のような艶のある黒色のワンピース・ドレスに包まれている。ドレスの上に羽織っている深みのある華やかなワインレッドカラーのコート。目の周りは、赤色のベネチアン風マスクで覆われており、素顔は分からないようになっている。右手に、白と赤のサブマシンガンのような銃を所持しており、銃口を向けていた。
「見つけたわ、ソドール!!」
「キサマワナニモノダ」
吹っ飛ばされた怪物はすぐに起き上がってきたのかよろめきながら、再び教室の入り口に立っていた
「怪物に名乗る名前はあいにく持ち合わせていないわ」
「あなたの成分頂くわ!!」
急に現れた謎の女と蟷螂もどきの怪物の戦いが始まった。
さぁ、お宝(成分)を頂きます!!