22話 演技派の灯?
縫江沙町の特徴を表すと町のゆるキャラである【カウ湯〜】と温泉街。
カワウソが起立し、頭に藁の鉢巻きを巻き腰部分にステテコパンツを履いているおっさんスタイルのゆるキャラ。
駅を出てすぐにバス停があり円形になっている。真ん中に【カウ湯〜】の植物造形が聳え立っている。【カウ湯〜】が右手に持っている団扇は植物造形ではなく、電光掲示板仕様となっている。夜には自動的にライトアップする装飾がついてある。
「なんで『カワウソ』と『湯』??」
僕の素朴な疑問に安齋は答えてくれた。
「昔、この街にはカワウソが多く棲んでいて、源泉が垂れ流れているからそこに入っていたと歴史書に記載されていたらしいです」
温泉に浸かったカワウソの影響で当時のこの街は景気が爆上がりになったらしい。
それを参考にしてあのキャラを制作したと……。それは何となく分かったけど、何でおっさんキャラにしたのか分からない……。まぁ、良いっか。
聴いた内容は頭の空間の何処かの部屋に入ったと思うが、開けるかは分からない。
駅から歩いて10分後。特に問題なく安齋の家に着いた。
駅の周りは今時の近代的な作りになっていたが、1歩町の中に足を踏み入れると近代的から木造建築の建物が多い光景になっていった。
今、僕達が歩いていたのは所謂、温泉街に続く道となっている。
「えぇ!? 嘘……」
旅館だった。
外装はかなり年季が入っている造りになっている。創業から数百年以上の歴史をもつ老舗旅館に値していた。旅館は本館と新館になっていた。新館には高齢の方や足が不自由な方も利用しやすい低めの畳ベッドとお風呂が備わる客室も用意がされている建物、本館の方は侘び寂びの美学を感じる茶人が好む数寄屋造りになっている建物という構図になっていた。
「今日は定休日だから表から入っても大丈夫……」
安齋が本館の扉——客が出入り口にしている扉から入った。
建物は老舗旅館だが、所々使われているモノが近代的なモノがある。
こういう老舗だと扉も手動で開けるものかと思ったが、自動ドアになっている。
入ると和の趣が満ちたロビーになっていた。
「月音おかえりなさい」
客がチェックアウトなどの手続きするカウンターから安齋に向かって話しかけたのは……
「お母さん。ただいま」
安齋の母親である安齋美智恵。長年、和服を着こなしているのか和服姿がしっくりきている。
「あらぁ!! 綾ちゃんじゃない。久しぶりね、元気にしてた?」
「元気ですよ!! 美智恵さん!!」
2人は顔見知りの感覚で非常にフランクな会話をしている。
「あら、こちらの方は?」
僕に気付いた安齋美智恵に対して綾が説明してくれた。
「こちら天織灯さん。私の友達兼月音ちゃんのボディーガードです」
「初めまして。天織灯と申します」
毎度、思うが灯はこんな表情を毎回やってるのか……顔の筋肉が攣りそう……
「可愛い子ね!! 初めまして月音の母親の安齋美智恵です」
一分の乱れもなく動きと声を合わせて、僕に頭を下げてくる。
頭を下げた安齋美智恵は安齋に姉の所在を聞いていた。
「ねぇ、月音。萌香はどうしたの?」
「今日はお姉ちゃんが病院に行く日だよ……お母さん」
「そうだったわね……。そうだわ!! あちらのソファに腰掛けて頂けるかしら」
案内されたのはロビーの奥に置かれているソファ付きのテーブルだった。僕達がソファに腰を下す。
(なぁ、綾……さっきでてきた萌香って名前が安齋の姉?)
(そう……安齋萌香さん。1年前まで剣道部の主将していた人で私達の1つ上の学年ね)
(仲悪いのか……もしかして)
(どうだろう……。でも、あの事故が原因で親子の関係は冷めていると思うよ)
(電車の中で話題に出た僕の転入前の事故ってやつか)
(うん。あれは……)
綾が話ししようとした所、安齋美智恵がトレイを持ってやってきた。
「2人ともありがとうね。良かったらこちら食べてね」
安齋美智恵がお茶を持ってきた。湯呑み茶碗には緑鮮やかな抹茶に、彩り豊な和菓子が一緒に添えられて出てきた。
正直、鷲掴みで食べたかったが木製の小さいナイフを使って少しずつ切りながらちまちま食べた。
おぉ!? 意外と美味しいなこれ……。それもそうか、こんな良い旅館が出すモノもそれに合ったモノが提供されるか〜
和菓子を舌鼓しながら、話題は練忍町の爆発事故になった。
「それで天織さんが一緒に帰ってくれたのね、改めてありがとうね」
「いえいえ、こんな状況じゃ仕方ないですよ。ここから近いんですか? 練忍町は」
「えぇ……1駅先にある町よ。心配だわ……2人とも帰りは気を付けてね。何かと物騒な世の中だから」
「ご忠告ありがとうございます」
ソファ後ろにある大時計の針が午後6時に到達し、それを人に伝えるようにロビーに鳴り響いた。
それと同時に自動ドアが開いた。
入ってきたのは僕達と同じ制服を着ている女子生徒。
薄い紫の髪色で肩まで伸びているショートヘアー。安齋と同じ濃い赤紫色のヘアピンを頭に付けていた。もしかして……この人が萌香って人か。
「ただいま……」
発せられた声はどこか無機質で顔も無表情なものになっている。まるで誰とも馴れ合わない雰囲気を漂わせている、そんな感じがした。
「お姉ちゃん……どうだった。足……」
「えぇ……順調よ。でも、剣道は……」
「ごめんなさい、私のせいで……」
「私が選んだ事だから後悔はしてないわ……。そちらは月音の友達……あれ? 綾じゃない。久しぶりね」
「お久しぶりです。萌香さん。こっちは天織灯さんです。月音のボディーガードで一緒に帰りました」
「そう……天織さん。ありがとうね。私はもう自分の部屋に行くから、後はごゆっくりしていってね。それじゃあ」
その言葉を残し、スタッフ専用の扉から中に入っていった安齋姉。
「さぁ、私達も帰りますか。帰ろう、綾ちゃん」
「そうだね……お邪魔しました。月音ちゃん、また明日ね」
「うん!! じゃあね、2人とも……」
外に出て中にいる2人の姿が見えなくなる距離まで歩くと僕は元に戻った。
「はぁ〜 疲れた—色々と」
「お疲れ様。黄華……ふふう」
「おい、いつまで笑っているんだ」
「だって、黄華があんな口調で話しているから灯ちゃんを演じているのはすごかったけど、それ以上に腹筋が限界を越えた」
「はぁ〜 今からシバくか、綾......覚悟は良いか?」
「待って待って、頭は止めてお願い……」
「僕らはこれから練忍町に向かうけど綾はどうする?」
「私は帰るよ……頭が痛い」
「自業自得だ!! 分かった。帰り気をつけろよ」
「分かってるよ。いざって時はこれで撃退するから……」
鞄から取り出したのは璃子印の改造スタンガンの手袋。
綾はそれを嵌める。
駅に着き僕はそのまま練忍町方面の電車へ。綾は学園方面の電車へ。
反対方向の為、途中で別れた。
「じゃあね、黄華!! 2人もね!!」
元気よく手を振っている綾。
「じゃあ!!」
灯:じゃあね、綾ちゃん!!
青奈:あのスタンガンで不埒な敵を激鉄しなさい!!
黄華:お前は相変わらず物騒だな……。それじゃあ、行きますか!!
2人:おぉ!!
僕らは時刻通りきた電車に乗り込み練忍町へ向かった。
表より裏の方が好きかな〜




