10話 川の字って親子がやるものだよね
私達は隣の実践場にいた。
すずちゃんと綾ちゃんは自分達の前にいるロボット相手に渡されたアイテムの動作確認していた。
「はぁっ!! 綾それ強すぎ!! もっと弱めで良いよ」
「そういうすずちゃんだって焦がしてどうするの!!??? こっちにグローブ向けないで危ないから!!」
あれ? 本来の護身用のスタンガンって相手を威嚇したり、相手に電撃を与えることで瞬時に無力化されるのが目的の代物だったはず……。人間を含む動物は、電気の火花や感電のショックを本能的に恐れている。スタンガンは通常、相手を威嚇するための護身用品。スタンガンによって体に電流が流されている相手は、全身の神経に激しい痛みを感じ、叫ぶができない状態になる。そして体中の神経と筋肉がこわばり、動く事が困難になる。今はロボット相手なので動物のように神経がない。(ロボットの場合、ショートするかもしれない)いくら電圧の強弱が可能になっているからってなんでロボットが焦げて煙が立ち込めているのか灯は2人の現状を見て不思議に思っている……。
この実験場内で大炎上が起きない限り火災報知器は発生しないようになっているから多少、煙の量が多くても作動しないが、あれはどうなのか……。
自分がいかに璃子さん印の武器やアイテムに毒されていて感覚が麻痺しているのかが今わかった気がする。あれは普通の女子高校生が持っていい代物ではないね……。
きっと璃子さんのことだからもしもの時の安全装置が付いていると思う。
そう考えた灯は横目で2人と見つつカードで投げて遊んでいた。
ちょっと語弊があるかもしれないが、決して遊んでいるわけではない。歴とした訓練中である。
カード投げなんて生まれて初めてのことだから狙った場所に向かって投げることは簡単だが、コントロールが上手くいかなかった。
取り敢えず、トランプ投げをしている人の動画を見つつ、5m先にある的に向かって投げている最中。このカード投げは上手く出来るかで今度のソドールとの戦いが変わる。
今までは私達位しかソドールを関わって来なかったが、最近になって警察も特殊な装備を着てソドールと戦う場面が多くなった。先日のネコ型のソドールとの戦いも私達がくる前に居場所が掴めていたのか先に戦っていた。あそこで私が【太義の蛮輪】を使い警察を無力化出来ていなかったらネコ型のソドールは倒されていたと思うと身体から変な汗が出てきた。
このカードを上手く活用できれば、ソドールに逃げられても警察より必ず先回りが可能になる。
カードを持つときは軽く肘を曲げて、右手の人差し指と中指でカードの右上の角を挟みながら、カードの右下部分を親指の付け根に押し付けた。そのまま投げてみたが的に当たることなくカーブしながらあらぬ方向に行ってしまった。
(次は手首を上手く使うしかないか……)
私達は渡されたアイテムの実施テストを終え、就寝している。
灯の中ーーーー。
灯:あれ、何で私……こうちゃんに両手を後ろに回され動けないよに拘束されているの?
黄華:許せ……灯……僕はもう駄目だ……1回身代わりになってくれ……。
灯:えぇ!? 意味が分からないんだけど……。
黄華:暴走したあいつを止められるのは灯だけだ!!
灯:あいつって……まさか……。
青奈:待ってたわよ。灯ちゃん!!
黄華:灯の拘束に手伝ったことだからもう僕にやるなよ……。
青奈:えぇ!! これで契約完了ね!!
灯:こうちゃんーーまさか私を売ったのね……何でよ……。
青奈:さぁ、灯ちゃん……!! 覚悟は良いかしら!!
灯:待ってよ。この前のだって私関係なくない??? こうちゃんが勝手にやったことで私は強要されただけじゃん。
青奈:灯ちゃん。連帯責任って言葉知ってるかしら?
灯:お願い。早まらないでよ。てか、手を滑らかに蛇の様に動かすの止めてくれない。段々、私の横腹に自分の手を標準させないでくれないかな……。
「はぁっ!!」
勢い良く目を開けた灯。
灯は自分の中で行われた青奈の苛烈な行為に耐えきれず急いで外に戻ってきた。
外を見ると夜だったが、灯がいる部屋は夜をかき消すほどの光の空間に包まれていた。
さっきまで、ある意味貞操に危機に瀕していた己の身体を守りながら回避した灯は喉が乾いたので水を飲もうとした身体を起こそうとしたが、動けなかった。金縛りではない。何者かによって身体の自由が利かなかった。
「何で……??」
あまりの衝撃的な光景に思わず発してしまった。
自分の身体を上から覆う布団が大きく膨らんでいるのが分かる……。
その膨らみが下から上へ……。つまり、灯の顔の方に徐々に向かって来ていた。
灯の鎖骨部分の布団から出てきた2つ……。すずちゃんと綾ちゃんの頭だった。
そして、灯のクロや璃子さん位は無いがそこそこある豊かなものの上に顔が乗っけている。
「……おはよう、2人とも。どうして2人は私の布団の中にいるの……?? 水飲みたいから開放してくれるとありがたいんだけど……」
右にすずちゃん、左に綾ちゃんの頭があり、灯の腕に自身を密着させている状態になっていて身動くが取れない。段々、ピッタリと抱きついてきて更に自由が利かなくなる。腕だけではなく足も同様に灯と2人の足が絡められた状態になっていた。
2人は灯の上半身だけ起こしたが開放されなかった。
「はい!! お水……」
あらかじめ、用意していたのか綾ちゃんにコップにストローが入っている水を貰う灯。
手が使えないので、コップに入っているストローを使って飲んだ。
「ありがとう……綾ちゃん」
「良し! 飲んだな……さぁ、寝ようか灯」
すずちゃんの言葉でまた寝かされたが未だに身動きが取れない状態は続いている。
「ねぇ……2人ともどう……っ!?」
いい加減2人に事情を聞こうとした灯だったが、口をつぐんだ。
灯の腕から伝わってくる2人の震え……。
大きな振動ではなく、小刻みに身体が震え出していた。
(そっか……普段通りに振る舞っていたけどやっぱり……)
「2人とも怖い思いさせてごめん……」
灯のその言葉に2人は顔を上げた。
「灯は悪くないよ……あの時、青奈に成分を取られてラッキーだったって安心と、もしあのまま自分が暴走していたらキツネのソドールと同じ道を辿る未来もあったって考えちゃって身体が震えたの……灯にしがみついたのは安心出来たからだよ……」
「私は見ることしか出来なかった……何度も灯ちゃんが戦っているのを……そうだよね。あんなおかしい人に人形が渡る可能性もあるんだよね……だから、灯ちゃんがちゃんと私達の所に戻ってきて良かった。もしこのまま会えないって考えちゃってしがみついたの……」
灯を見つめる4つの眼には心配と安堵の眼をしていた。
(そっか……私はこんなに良い友達を持ったんだ……)
灯は2人にどこか優しい、慈愛を帯びた眼差しを向け、口角も少しあげる。
「さて、と……寝ましょう!! 2人とも……」
さっきまでの身体と身体の密着からは開放された。今は3人、川の字に寝ている状態になった。当然、私は2人に挟まれている。
2人は緊張が解けたようでものの数分でスヤスヤと寝息を立てながら寝ている。
お互いの手も何故か絡んだ状態になっている……。
寝ているから離せると思ったが緩み気配が起きなかった。
灯はため息を1つ零したが、煩わしさは欠片もなかった。
灯もまた天井を見つめていること数分で自分の瞼が落ちてくるのが分かり、争うことなく眼を閉じた……。




