6話 不思議の数だけ謎がある訳ですよ!
今まで使っていたノートPCがお釈迦になり急遽、新しいのを買いました。
「それでは、明日から通常通り、授業は開始されます」
今日は始業式だけだったので、午前中に学校が終わった。
とりあえず、クロの所に行って、今朝、貰った資料を一緒に見ようかな。
このサングラスもまだ試していないし、早く家に帰って、昨日回収したソドールがロールアウトできているだろうから性能チェックしないといけないし、組み合わせも考えないと。
やることが多すぎる......人生ってままならないな......
そんなことを考えていると
「天織さん。少し先生と一緒に国語準備室に来てくれるかしら」
三守先生に呼ばれて、先生がいる教卓に視線を向けると鋭い眼がこちらを見ていた。
「大事な話があります」
「わかりました」
「それじゃあ、遅れずに来てください」
それだけを言い残すと、三守先生は教室から出て行った。
学生棟より北にあり、3階にある学生棟と教育棟を行ききする連絡橋を進み、2階奥にある国語準備室に着いた。
「失礼します」
礼儀正しく、教わったマナー通りにノックを3回。
向こうから「どうぞ、お入りください」という声が聞こえたので、私はゆっくりとドアを開けて、中に進んだ。中は、国語に必要な資料や本で一杯の部屋。特に面白みがない部屋だった。
中央に机が4つ、向かい合う様に置かれており、奥に三守先生が座っていた。
「準備室って、初めて来ましたけど、なんかものすごい閑散としてますね。もっと資料や本が山ずみになっていて足の踏み場がないくらい散らかっていると思っていました」
「まぁ、国語の準備室はここ以外にもあるし、そこは割と散らかっているわ。私は、こう見えてキレイ好きだから、掃除は徹底してから。さぁ、本題に入りましょう。天織さん いえ......」
先程の鋭い眼が段々、柔らかくなり、私に向かってハグをしてきた。
「灯ちゃ~~~~ん」
「ちょっと、先生。苦しいです」
「だって、灯ちゃんいつみても可愛いんだもん。日々のストレスも可愛いものを抱くと癒されるし、幸福度も上がるから次の仕事も死ぬ気で働けるわ」
段々、三守先生が早口になり、途中から熱く語ってる。
「それに、妹がいるってやっぱりいいね」
少し低いトーンで話をして、私はビクっとした。
「ごめんなさい、まだ......」
「もう! 何度も言ってるけど、そんなこと気にしなくてもいいわよ」
「あなたが生きているそれだけで、私は幸せなんだから。勿論、仕事の方も大事だけど、折角、高校生になったんだから青春を謳歌しないと損だよ!! 目標や夢に向かって進んで、そして、あなたは幸せになりなさい」
私は、その言葉を聞くなり、三守先生から離れた。
「出来ません」
制服の袖を強く握った。
「私は、一刻も早くみんなの魂を回収しないといけないから......」
「灯ちゃん......」
「じゃないと、三守先生だけじゃなくて他の協力してくれている人達に申し訳がたちません」
「そっか、そうだよね......」
少し罪悪感がありそうな眼でこちらを見ている様子の三守先生を尻目に
「それにこの生活も案外、楽しいですよ」
私は、先程、クラスメイトにしたような作り笑顔ではなく、本心のスマイルな笑顔で三守先生を見た。
「ありがとうね......」
「それで、本題の件ですけど、まさか私とハグするだけじゃないですよね??」
「それだけだけど??」
さも、当たり前のようなすごい、澄んだ眼でこちらを見ていた。
私がジッーーーと三守先生の方を見ていると
「もう!! 7割はホント。残りはこれよ」
そういって、私に携帯端末を見せてきた。
「まさか、この学園の関係者がソドールの対象者だなんて驚いたわよ」
今朝、私が見ることが出来ず、後で、クロと見ようとした資料の中身だった。
<木ッ菩魅烏学園高校 7つ目の処刑人>
木ッ菩魅烏学園高校には、学園7不思議は存在している。
・1つ目 血を吸う壁
・2つ目 鳴りやまない音楽室の魔王
・3つ目 光る銅像
・4つ目 増減する階段
・5つ目 真夜中の授業
・6つ目 開かずの理事長室
・7つ目 鏡の中の処刑人
・1つ目 血を吸う壁
部室棟5階の奥にある壁が放課後までは、なんともないのに次の日、見ると壁一面が赤く塗りつぶされていた。慌てて、警備員や教師を呼びに行き、連れてきてみると、そこにはいつもの、真っ白な壁一面があった。
・2つ目 鳴りやまない音楽室の魔王
夜中、見回りの警備員が巡回中、音楽室で何かが聴こえるのを感じた。不審に思い、音楽室に向かいと、作曲家フランツ・シューベルトが作曲した『魔王』が鳴り響いていた。音楽室の扉を開けるとそこには、誰もいなく、ピタッと鳴りやんでいて、後には静けさしかなかった。音楽室を後にすると、また、鳴り響き始めた。
3つ目 光る銅像
去年、創立100周年記念で現理事長の大文字巌さんの胴体と顔だけの銅像が作られた。
しかし、半年前からこの銅像の眼が光るようになり1回だけではなく、何回も不規則に光り始めている。まるで、なにかと交信しているみたいに
・4つ目 増減する階段
学生棟3階と4階の間の階段を上り下りすると、必ず階段が1つ増えたり、1つ減っていたりしている。どうやら、夜にはこの現象は現れず、なぜか、昼間に現れることが多い
・5つ目 真夜中の授業
真夜中、2年のある教室に入ると机1つ1つに動物のぬいぐるみが置かれている
そして、教卓の上には何かのアニメの教師のフィギュアが置かれている
今の授業はスクリーンに投影される教科内容を使っているので、あまり黒板を使う機会が減ってきてるはずなので綺麗なのだが、その教室の黒板だけ汚れがある。なぜなら、びっしりと何かの記号が黒板一面に書かれていた。
・6つ目 開かずの理事長室
現在、理事長は教育棟最上階(11階)に位置している。
しかし、半年前は10階に理事長室があったが、開けることが出来なくなった。
カギは特注品なので、世界に1つしかない。
時々、中に入ることが出来ないはずの部屋からすすり泣きような声が聴こえる・・・
・7つ目 鏡の中の処刑人
これは、出来立てほやほやの不思議。
前までの7つ目は 保健室の幽霊だったが、半年前からピタッと幽霊の話が無くなり、この半年間、6不思議になっていたが、3日前、部室棟2階と3階の階段の真ん中に大人が全身入るような大きな鏡がある。
そこで、鏡をバックに写真と撮っていた部活で休憩中の学生の背後から人間サイズの蟷螂が現れ、鋭い鎌で襲い掛かってきたそうだ。
2日かけて、情報を集め、正体が分かったため、写真も同封しておく
検討を祈る 近藤一輝より
7つ目だけでも良かったけど、他の6つも知りたくなってきた。
確かに、人間サイズの蟷螂なんて現実にはいない。
恐らく、ソドールの人形を手に入れた誰かが変身し、襲ってるとみて間違いない。
しかし、なぜ、新学期が始まる前に行動を起こしたのか?
襲うという行為をした時点で相手の恐怖に歪めた顔を見て楽しむ愉快犯かもしれないので、多く人がいるであろう新学期後の方がやりやすいだろうし、注目され、一気に話題になり、7つ目の不思議になり、学園中の噂になっているだろうに・・・
今日、学園生活を送っても、この話を噂している人はいなかった。
「今は昔と比べて、こういう怪談を信じている人は少ないわ。私が、小学校の時は学校の怪談は結構、流行っていたけど、科学文明が発展し、幽霊や怪談のような非科学的な物はないと考えたり、誰かの悪戯でしょって済ます人もいるわ」
「ふ~~~ん、そういうものか」
「でも、ソドールのような都市伝説は信じるんだ?? 人間は、自分が信じたものは信じるのを優先しちゃう傾向があるけどね」
人は、繰り返し目や耳にすることを信じてしまう傾向がある。
また、人は『正確であること』よりも『自分が信じたい内容であること』を信じる傾向があるため情報の出どころや根拠を確かめない。
「何はともあれ、対象者が分かっているなら、後は実行だけね」
毎回思うけど、協力者の中で、情報収集のプロの人達はこうも素早く、情報を入手し、さらにはソドールの対象者まで見つけてくるのか本当にわからない。
でも、これで仕事の効率が早まるのもまた事実。
初めは、この情報収集の速さに驚き、疑惑を向けていた。しかし、それは思い過ごしだった。
もしより、自分の家族の形見と呼べるソドールの人形を回収するために嘘や独りよがりな情報で私達を躍らせる必要はなく、むしろ、本業より力を入れている人がほとんどだ。
ただ、問題は......
この写真の生徒に今から会いに行っても、きっとはぐらかされるだろうし、物的証拠がないからし、色々、怪しまれるのは明白だ。
「どうしましょう??」
「おびきだせばいいんじゃない??」
「そうね!! でもどうやって実行するの? あれ?」
「数時間ぶりね、灯!」
灯と三守先生の間にクロが顔だけ出していた。
「えぇ!?!?!?!!!?」
「なんでクロがここにいるの???」
「だって、待てど待てど、一向にあなたが保健室に来ないから探したのよ。ふ~~~ん、今回のターゲットはこの子か。一旦、家に帰って作戦会議しますか」
怪盗活動スタート。
私の通っていた学校は不思議はありませんでした。