3話 悪魔の罰はメイド奉仕?
朝 6時30分。
少し空が明るくなっており、後1時間位で日が完全に昇り、人々が活動を開始してしまう。
ベージュ色のトレンチコートに身を包み、中折れ帽をかぶり如何にも男らしさ溢れるハードボイルド風
の男がとある雑居ビルに入っていった。
この雑居ビルは上3階建てで地下2階建ての少し、特殊な建物となっておる。
1階は車庫代わりとなっており、シャッターが閉じていた。2階3階はこの雑居ビルの持ち主達の生活空間
となっており、俺が用事あるのは2階にある会議室
(段々、階段昇るのにも少しきつくなってきたな......これは、本格的に運動やるべきか.......)
そんなことを思いながら、俺は、ドアをノックして入っていった。
「入るよ!先生!! 姫いるか?」
「これは、零冶様。いらっしゃいませ」
俺に話しかけたのはここでメイドをしている女性。名前はクロ。ロング丈のクラシカルなメイド服を着ている。
年齢不詳。今日はロングストレートの銀髪に、170cmと女性の中ではかなり高身長で全ての人間を魅了してしまう程の翠の眼、モデル顔負けのプロモーション。100人いえば100人が彼女のことを美人と表現すること間違いない。人間では到底、追いつけないであろう美貌を有していた。彼女の美しさには誰もが目を奪われても仕方がないと感じてしまう。俺も初めて会った時は最愛の妻が霞んで見えてしまった。まぁ、速攻でバレて修羅場になったことは言うまでもない。
「やぁ! クロ。 おはよう!! 2人は?」
「璃子先生はまた、研究室で作業しております。灯お嬢様は昨夜までお仕事をしておりましたので、まだ寝ておられます」
俺、坂本零冶は壁一面本棚に設置されており、白を基調とした内装に、ナチュラルな木目調と
透明なガラスが合わさって清楚さが印象になっている部屋を見渡していた。
家具もダークブラウンで統一させており、
シックで落ち着いた雰囲気のある。社長室を連想される上質な空間になっている。
(相変わらず、この部屋はすごいなーーさすが、先生ってところか)
数分が経ち、部屋の右奥の本棚が開き、そこから、ヒールをカツンカツンカツンと音を立てながら、
白衣を羽織った女性が俺を通り過ぎて椅子に座り、クロが持ってきた紅茶を一口飲んだ。
この白衣を着ている女性は天織璃子。
自称天才科学者である。俺は『先生』と呼んでいるが本人はあまり言われたくないらしい。
こっちもクロに負けず劣らずのプロモーションを持っている女性。クロと同じくらいの身長。髪色は黒色に見えるが目を凝らすと極めて黒に近い深い赤紫色となっている。
「これ、ア―ルグレイね! いい香りだわ!」
「はい! 遅くまで作業されており、寝不足と考えましたので、頭も気分もスッキリできる紅茶を選びました」
「ありがとう! 今日は、英国式のメイド服なのね?」
170㎝で腰まで伸びている銀髪に服の上からでもわかる胸、クラシカルなロング丈・長袖、王道の黒と白カラーのメイド服を着こなしており、よく似合っている。
「昨夜、灯お嬢様との賭けに負けましたので.......」
『灯』と言うのは俺が『姫』と呼んでいる女の子でもある天織灯。今年で高校2年生になる。俺がここにきた目的はその灯にある物を渡すようにと頼まれたのだ。
「あぁ......たしか、敵が出してきた蔦の攻撃を全部、回避できるかだっけ??」
「なるほどね——あなたが勝ったら、灯に何しようとしたの?」
「1週間、日常で『ですわ』の高飛車お嬢様口調で話すです」
「うわぁ.....あの子が日常で絶対にやらないことをやられるなんて......それで、灯は?」
「まだ、寝ております」
「灯は朝が弱いからね。怪盗活動関係なしで......悪いんだけど、起こしてきてくれる」
「かしこまりました」
「お願いね」
クロが一礼し、部屋から退出した。
「姫様は朝、弱いから仕方ないんじゃないか?」
「今日から新学期よ——さすがに、初日から遅刻はまずいわ」
「まぁ~~な。でもただでさえ、怪盗と高校の2重生活はしてるんだ。少しくらいいいんじゃないのか? さすがに、キツイだろ?」
姫はとある理由から高校生でありながら怪盗活動に勤しんでいる。昨日の夜も目的の物を手に入れたと報告を受けている。
「私はね——灯には良い人生を送ってもらいたいの。目的を果たしたら、多分、灯は——この世からいなくなると思うから」
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そこは、白い空間だった......
無機質で何もなく、窓は一切なく外の景色を最後に見たことも忘れかかっている。簡易的なベットの上で私は三角座りをして外を見ている。外といっても満開の青空や夜景が見える窓ガラスではない。私の目の前だけガラス張りになっていて私が入っている個室の中が丸見えになっている。
初めは31人全員入るくらいの大きな部屋にいたがいつかは忘れたが1人用の個室に押し込まれた。
ここにきて、もう何年経つのだろうか。
私達がクラスごとこの施設に連れてこさせられ実験対象として様々な実験に付き合わされた。こいつらが作った薬を投与され私以外のクラスメイトが化け物になっていった。虎や鳥、魚などの動物に変貌したり、身体中に植物が咲き誇る姿に変身している者がいた。
そして、31人いたクラスメイトもあと私だけになった。
孤独・心細い・取り残された気持ち・焦り・寂しさ、そんな何年も前に消えたさまざま感情が一気に溢れてきた。
「いやだ......いやだ......いやだ......ここから出して」
透明のガラスに向かって私は強く叩き、私は大声で泣き喚いた。
「いや、死にたくない......死にたくない」
そのまま私は、脱力し、そのまま壁を背にもたれかかるように座っていた。
もうこの実験棟には私達しかいない。
そこで、私の意識は途切れた。
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灯は悪夢を見た後のように、尋常じゃない汗が出ていて目が覚めた。
上半身を起こす。呼吸は荒く、動悸も早いことが分かった。
昨日——いや、今日の0時位に戦闘したのが間違えだったのかもしれない。
あんな時間まで戦闘した後だから、興奮しちゃって、余計なエネルギーを使ったから、うまく寝れなかったのかもしれない。
また、あの日々が夢にでてきた。こんなことがないように日頃から気を付けていたのに失敗したな。
でも、久しぶりに見たのか、自分の使命を思い出した。
”天織灯は絶対にみんなの命を回収する”
そう、決意し、灯はベットから起きて、制服に着替えるためにパジャマを脱ごうとする。
汗で服が体にくっついっちゃって気持ち悪いので着替えるのもあるが、今日から新学期。
高校2年生になることができた。一応、私の身元引受人になってくれた天織璃子。
私は璃子さんと呼んでいる。
彼女から「折角だし、普通の学校生活でも楽しみなさい」と言われた。
私にはそんなことよりソドール人形を回収することが最優先事項であるが、また私が壊れないようにしてくれているのだと思い、渋々、半年前から高校に通い始めた。
通い始めるまでの半年間、璃子さんや悪魔のクロ、協力者達にいろんなこと叩き込まれ、何とか編入試験もパス、その後の学園生活も自分的にはちゃんとやれていると思う。そして、なんとか進級できるようになった。
制服に着替えるために自分の部屋にある全身が見える鏡の前に立つ。自分でいうのも変だが私は自分の眼——赤く鮮やかな目が好きではない。いつも誰かが私のことを監視しているような感じがするからだ。
パジャマを脱ぎ始めた時、背後に人の気配があり、慌てて振り向くと、そこにメイド服を着て、いたずらっぽい顔をした女が腕組みしながら部屋の扉を背にもたれかっていた。
「惜しかったな。もう少しで、ピチピチな女子高生の裸が見れると思ったのに。残念!!」
「おやじくさいよ。クロ」
「おはよう、灯。てか、クロって名前何とかならない? もっと良い名前があると思うんだけどな〜」
「私が覚えやすい名前が良いの、それともダメだった?」
「いや、ただ安直だなって思ってね。過去の依頼者達は中々な名前を与えてくれたけどね」
クロは携帯端末を取り出し、慣れた手付きで操作していた。
「しっかし、便利な世の中になったわね。最後に人間界に来たのなんて、100年位前だもん。でも、いくら高速で情報が手に入っても、あいつらの情報がまるでないのはどうかと思うけどね」
彼女のいうあいつらとはクロを同じ悪魔のことだ。
クロ達悪魔は、一番に魔王がいて、その下に黒色・赤色・青色・黄色・緑色・灰色・橙色・茶色の幹部悪魔がいて、さらに下が続いていて、企業のピラミッド型組織のような構図になっているらしい。
黒色を関する悪魔であるクロは残りの幹部悪魔7体のまとめ役のような感じだったらしい。でも、ある日、その7体が姿を消した。クロは王の命令で彼らを連れ戻すために現世に舞い降りた。悪魔が住まう世界と私達が暮らしている現世では、時間の流れが違うらしく、悪魔界での1日は、こっちでは、10年経っているらしい。少なくとも、悪魔たちは現世で10数年いることになる。現世に来たものの7体の行方はわかずじまいだったが、悪魔の仕事の内の1つである悪魔を召喚し、願いを叶え、その報酬に対価を貰う悪魔召喚でクロはとあるお金持ちのおじいさんの所にジャンプしていた。
通常なら、この仕事は下級悪魔の仕事があったが、ごく稀に強い思いが籠った願いが上の悪魔に届くことがあるらしい。
孫が10年位、行方不明らしく最後の願いと称して半信半疑で召喚をしたらしい。
その依頼の中、私と出会い、あの研究に悪魔が関わっていることを知り、行動を共にすることになり、今に至る。
「まぁ、今に始まったことじゃないけどね......それより、大丈夫なの?? 凄く、うなされていたけど......」
一瞬、ビクッとしたけど、冷静に「大丈夫だよ」と答えた。
そう、答えた束の間、クロを勢い良く歩いてくる。こちらへ来て、私を抱きしめ始めた。
「ちょ、ちょっと、何するの??」
「あなたはもう1人じゃないのよ。安心しなさい」
そう言うと私を解放する。
「さっさと着替えて来なさい、朝ごはん出来てるからね」
クロは私の部屋から出て行った。
銀髪にメイド服神!!