72話 洋館事変 Ⅱ たった一つの想いが原動力となる
どうも、炊飯ジャーでたこ焼きを作ろうとして二回も失敗している麻莉です。
「どうして……三人がここに?」
「良かった、すずちゃん。本当に……良かった」
綾はずっと泣いていた。
綾が泣き止むのに十分くらい掛かった。
「えっ!? 私、二日も寝ていたの?」
どうやら私は自分がバイク型のソドールに操られていた日から二日経過していたことに驚きを隠しきれずにいた。
「本当に良かったよ。このまま起きなんじゃないかって……」
「えっと……心配かけてごめんね」
グー…………グー…………
「——ッ!?」
途端になり始めた音。その音の正体と誰が鳴らしたのかの原因究明に10秒も掛からなかった。
すずは自分のお腹に手を置く。恥ずかしくて頬が赤くなるのが自分でも分かった。
「流石に点滴だけじゃお腹も空くわよね」
私を検査してくれた女性は食べ物が置かれているトレイを持ってきてくれた。
「急いで食べないでね。胃がビックリするから」
食べ終わり、幸福感に満ちた顔ですずはみんなに質問した。
「そういえば……灯は?」
すずの問いに答えれる人は誰一人としていなかった。
「分からない……」
第一声は萌香さん。
状況が上手く理解が出来ず、萌香さんの言葉を復唱してしまう。
「『分からない』ってどういうことですか? それに……」
安定した思考で自分の姿。みんなの姿を見る。なんでみんなが包帯に巻かれているのか。自分の服が焦げ跡だらけなのか。そして、研究室で一緒だった灯がいない。
すずは隣にいる月音の肩に手を置き、揺らす。
「あ、灯はどこなの……それに璃子さんは? クロもミドリもいないじゃん……みんなはどこなの」
次第に声が荒くなる。呼吸も粗くなる。
すずの震える手の上から手が置かれた。
「そこまでよ。深呼吸して……そして横になりなさい」
優しかった。すずは言われた通りにベットに横になる。
「友達が心配になる気持ちは分かる。でもね、貴方はさっき覚醒したばかり。まだ安静してて」
「……ごめんなさい。えっと……」
「私は立花市子。よろしくね、橋間すずさん」
「私の名前……?」
「私が教えたのよ……」
聞き覚えのある声が部屋に入ってきた。点滴スタンドに体を預け、酷く憔悴しきっているクロがそこにいた。
「一応、病院だしね。聞くのは普通ですよ」
立花さんはクロと知り合い? 妙に気心が知れていた感じが見れた。
「それより、濡羽。動けるくらいには回復していても貴方はベットから出ないこと。みんなより重症なんだから」
クロさんは7割くらいが包帯に支配されていた。私たちとは比にならないくらいの傷を負ったことが分かる。
「……」
「どうしたの? 濡羽?」
「えっ!? え……そうね。安静にしてるわ。すず……」
「はい!?」
「灯から渡されたモノを私に渡してくれるかしら?」
『渡されたモノ』?
私は自分の隈なく触った。
焦げた制服の左右の両ポケットに膨らみがあるのを感じた。
手を入れ、恐る恐るポケットにあるモノを取り出す。
右側のポケットには赤・青・黄の横長い金属性のモノ。
左側のポケットには薬液らしき液体が入っているアンプル? 注射器のシリンダーみたいな形状の物体。
「これですか……?」
クロさんに全てを渡した。
「すず、守ってくれてありがとう」
「いえ、えっと……それは?」
「この三種類の灯・青奈・黄華が怪盗服へ変身するために必要なクイーンズブラスターASKのスライドキー。で、こっちのアンプル形状はすずを操ったソドールの成分」
「どうして、そんな大事なものが私のポケットに……」
「あの時……灯が咄嗟に近くにいたすずに託したんだと思う。私たちが反撃するための可能性を少しでも残すために……」
「そうなんですね……灯」
「こんなことに巻き込んでしまってごめんなさい。大丈夫?」
「はい、一応……私よりクロさんの方が」
「……私は大丈夫。じゃあ、ベットに戻るわね」
クロさんが居るだけで心が軽くなった。でも、灯もミドリもいなかった。
私は部屋から見える夜空を見ていた。
(灯……貴方は今どこにいるの)
私は自分が数日寝ているベットに戻っていた。
ゆっくりと一歩ずつ歩み続ける。こんなにまともに歩けない経験をしたのは初。
だが、足がいうことを効かずその場に倒れる。
息も荒かった。立花市子に絶対安静を言い渡されていたが灯の大事な友人がようやく目を覚ました。いてもたってもいられず体を無理に起こしたのが原因。
廊下の側面にある壁にもたれかかる。私はポケットからワイヤレスイヤホンを改造した特注のイヤホンを耳にかける。
「待っててね。今、助けに行くから......」
◇
七上賢人は対策室にいる二人の先輩に話始めた。
「先輩。妙な電話が」
七上が不思議がって緋山に話すから聞き返してしまった。
「妙な電話?」
コーヒーを飲んでいた緑川颯は気怠そうな声で二人の会話に混ざる。
「どうせ、イタズラとかの類いだろ」
「それも思ったんですが……」
「賢人、内容は?」
「二日前の放火に関わっているかもしれない人が山奥の洋館に入っていくのを見たというものです」
「二日前?」
「ほら、あの謎の放火があった事件だよ。燐兎」
二日前に謎の放火事件が発生した。直ぐに消防による消火活動が行われた。火は数時間後に完全に鎮火された。火災の調査が行われたがどうも火元になり得るものがないと結果が出てしまった。更に不可解なことがある。燃えていた雑居ビルには人がいた形跡が何もなく、初めから無人だったことが分かった。ビルの中にも物が一切置かれていなく、文字通り空っぽのビル。更に周りは更地でビルがポツンと一軒立っているだけだった。何故誰も、物がない建物が燃えるのか。担当の捜査第一課が今も頭を抱えていると風の噂で聞いた。
「で、何故にここに電話が来たんだ?」
颯の疑問も最もだった。
対策班はあくまでソドール対策本部。放火をしたと思しき人物の情報なら担当課に繋がれるはず。なのに真っ先にこの対策班に来たのが気がかり。
緋山燐兎は席を外し、対策班の部屋を退席する。
緋山はそのまま屋上に到着した。
「どうした? オキコ」
屋上には緋山と契約した悪魔が待っていた。
「おっ!! 来たな、燐兎」
「オキコ……お前がここにいると後々、面倒いことになる」
「それは悪い」
「まぁ、いい。それでわざわざ俺を呼び出した要件はなんだ?」
対策室で三人で会話している最中にオキコからメッセージが届いた。内容は『一人で屋上に来てくれ』の一文のみだった。
「いや〜、要件があるのはアタイじゃなくて……」
横に避けるオキコ。オキコが先程までいた場所に居たのは17世紀位のレトロ風のコートタイプのペストドクターに、膝までの長さがあるレザーのニーハイブーツを履いている女性。
俺はコイツを知っている。小柄の女怪盗の相棒。俺も何度か会っている。そして、どういう理由があるか分からないがオキコが縮こまっていた。
「久しぶりね、緋山燐兎。また戦う決意をしてくれて良かったわ」
「『また』?」
「この姿ではわかりませんか。それもそうね。貴方の装備を返却した時は赤服で男性でしたから」
「——ッ!? まさか、お前はあの時の……」
あれは六月の中旬頃。俺のソドール用の装備を返してきた長身の男がいた。
俺と対峙している怪盗の師匠と名乗り、弟子が迷惑したお詫びの警察病院の屋上に侵入してきた赤服の男。あの時のちゃんとした答えはまだ出ていない。それでもここ一ヶ月ほどは自分なりの答えで行動している。
「まさか、性別まで変えれるなんてな」
「少々、特殊な技を持っていますので」
「それで、俺に何のようだ?」
「いや、ね。そろそろ私が送った情報が貴方たちに届く頃合いだと思いましてね」
「まさか、放火犯の情報は……アンタが」
「そのまさか、です!!」
「分からないな。放火犯の情報なら別の課だ。そっちに送ってくれ」
「いえ、『課』は間違いないです」
「言っている意味が分からん」
俺の前にいる女性は懐から二枚の写真を取り出す。トランプのカード投げのように俺の足元に写真を投げた。
「二日前の放火犯の正体は彼らですから」
俺は二枚の写真を拾う。中身を確認した俺はオキコを呼んだ。
「どうやら、俺たちが行かないと行けないようだ」
「どういう意味だ?」
オキコに見せた写真。一枚は赤の悪魔でもあるルージュ。もう一枚は黄の悪魔でもあり、オキコと契約時に提示された『倒したい奴』でもあったカサンドラ。その中身を知ったオキコは決意を決めた表情に変わる。
「良いね!! 早速、行くか。燐兎!!」
「しかし何でこれを……あれ?」
対面していた女性が忽然と姿を消した。
◆
私————天織灯は精神世界で目を覚ました。
辺りを見渡すと、うつ伏せで倒れている青奈ちゃんとこうちゃんを発見した。
私の足が早まる。
「青奈ちゃん!? こうちゃん!?」
青奈ちゃんを抱きかかえた。そこにいたのは傷だらけになっている青奈ちゃんだった。服はボロボロ、身体は裂傷で覆われていた。こうちゃんの方も青奈ちゃんと同じように切り傷や打撲痕があった。
私の頭は理解が追いつかなかった。
「何で……こんな」
辛うじて息があったことがせめてもの救い。
私は涙を拭き、怒りを露わにした。
「誰よ。私の大切な人たちをこんな目に合わせた奴は……」
私は急ぎ足で現実へ戻ろうとした。
青奈は声を出したかった。自分が愛している子を止めるために。
でも出せなかった。自分の喉が潰れていたからだ。
声を出すのも激痛で一言出すだけで身体が痺れるような痛みだった。
それでも何とか声を出さないといけない。
「ま、待って……あ、か、り……ちゃん。い、か、ない……で」
手を伸ばして灯を呼びかける青奈。いつもの声量とは真逆で、低音でガラガラ声。灯の耳には青奈の言葉が入っていなかった。灯は主人格になれる椅子に座り始めた。青奈は這いつくばいながら急いだ。
限界まで手の伸ばしたが届かず、青奈の意識はそこで途切れた。
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