67話 『炎』 VS 『水』 -地下水道での戦い-
昔、1でヤミまろが欲しくて毎日水道を徘徊していたな〜 良い思い出だよ......特上しもふりの恨みは絶対に忘れないけど......
兵隊に命じ、バイク型は無人となっている自動車を斬っていた。中々、捕まらない苛立ちではなくエネルギーを吸収するための行動。と言えば聞こえが良いが、三割くらいは八つ当たりでもあるが真相は、次々と車やバイクを真っ二つしている本人しか分からない。
バイク型の周りが赤く染まり始める。灼熱の大地へと瞬く間に変わった。自身も『炎』と化しているため景色と完全に同化のように見えた。自動車だった金属は尚も高温。周囲は熱気が吹き荒れているが自然と鎮火していく。
外に広がっていた火は内側へ移動する。掃除機に吸い寄せられるゴミのように。
バイク型はエネルギー供給により更に全身が灼ける。
道路を走るバイク型。今走っている道路を右に曲がればあの小娘を足止めしている地点に到着する。曲がった直ぐに下半身のバイクにブレーキをかける。一刻も早く小娘を捕まるとしたが、天はこちらの味方ではないと再確認した。
「なんだ、これは!?」
自分が見える範囲の限り、全て白い煙に覆われていた。白い煙の中には無数の人や車、トラックなどが動けずにいた。動きたくても思うように動けずにいるの方が正しい表現かもしれない。突然発生した異常気象と考えるべきか、もしくは……
とにかく、脛の位置まである白い煙は触らぬのが得策と判断したバイク型は建物の壁を走行。
下半身のバイクを加速させる。交差点に蔓延る煙。その煙に拿捕された人。停車している車やトラックだらけだった。
「まるで奇妙な現代アートみたいだな……」
壁走りで移動していると交差点を抜けた先におかしな空洞を見つけた。切断面を見ると明らかに人為的なのは明白。すっぱり切れるものなんて市民は持っていない。可能性は一つ。
「まさかッ!!」
◆
黄華:おい、青奈。何も地面に穴、開ける必要あったのか
青奈:最短距離……
黄華:これで僕らも人のこと。いや、ソドールのこと言えないな……
青奈:終わり良ければなんでも許されるのよ。
黄華:なんちゅう、暴論
青奈:そんなことよりもミドリ……灯ちゃんの容体はどう?
ミドリ:あ、えぇっと治癒には少し時間がかかりそう。何処か安全な場所を見つけないといけない……
黄華:安全な場所なんて、そうそうあるもんじゃないぜ
青奈は不思議なことに何故か開通した穴を降り、地下共同溝を歩いていた。本当なら海に進むのが一番なんだけど、敵が悉く邪魔するもんだから中々進行できずにいた。なので手っ取り早くエネルギー吸収するためにこの地下共同溝に赴いたのだ。この奥にある場所が目的もモノがある。
古びた階段を降り、扉を開けた青奈。
「地下水路に到着!!」
流れている水を見ながら青奈は将祇陽の護側のスロットにマガジンを装填した。
『ウォーター』!
【ウォーター】の能力を得た将祇陽の護の剣先を穏やかな流水目掛けて浸した。
「少し、貰うわよ」
誰に了承しているのか分からないが一応の礼儀を示した。早速、将祇陽の護の持ち手にあるトリガーを引く。
刀身は青く発光を始めた。
何故こんなことをやっているのか。一言で言えば先の戦いで【ウォーター】の『水』エネルギーが切れたため。
ウサギ型の時に【魔魂封醒】発動の条件で使用したがその時に貯めていた【ウォーター】のエネルギーが空になってしまったのだ。再充填の際に多少、『水』量があったがそれもバイク型で消費してしまい再び空になった。『炎』を打ち消す程の『水』エネルギーが必要。なので、ここ地下水路で地味な作業をしている。
静かなトンネルに轟音が鳴り響く。
「能天気な格好だな……」
冷たい声が聞こえた。
大きな一歩を踏み出す。助走を付け跳躍し、少しの滞空時間に【騎士服】から【巫女服】へ換装した青奈。
まだまだ必要な分は溜まっていない。今は逃げの一手。頃合いを見て吸収するしかない。
背後から迫ってくるバイク型。背中に熱が伝わる。
「……随分早く来たようね!?」
青奈は急いで振り返ると、業火に全身が燃えているバイク型が見えてきた。
地下水路には僅かなライトしかなかったので薄暗かったが全身『炎』となっているバイク型が侵入したことで若干、見通しが良くなっていた。
トンネル内の壁を側面や天井を駆けながらバイクで壁走りをしている。自身が『炎』と一体化しているから地下水路の地面中央にある水に触れない為の対応だと分かる。
拳銃を失ったことで『炎弾』の遠距離武器が来ないと鷹を括っていた。
だが———
「剣はモノを斬るものでしょうが!!」
背後のバイク型は持っている剣を私しの方へ振り回していた。近い付いてきたとしてもまだまだ距離がある。なのでバイク型がやっているのはエア殺陣。全身『炎』に包まれていて頭がおかしくなったのかと思える行動。しかし、この行動にはちゃんと意味があった。その意図が判明したのに刹那的時間だった。
あり得ないと思った事態に即座に対応する青奈。
身体を回転し背面飛行へ。進路はそのままにし、【ウォーター】が纏う将祇陽の護で一条の火を斬った。
「クソッ……!!」
水で火を消した。これにより地下水道となっているトンネルが白く煙に覆われた。辺りは水蒸気爆発が発生した。マスケット銃側には【スモーク】を装填してあるので銃口を舞い上がる煙へ向け引き金を引く。掃除機のように煙を全部回収していく。強力な吸引力で一瞬にして青奈の背中にある【スモーク】専用のバックパックコンバーターへ収納されていった。
天井を走行しているバイク型は逆さまで剣を振るう。
次々迫る巨大な『炎』。その全てが槍のような見た目で青奈に向けて放たれていた。
放たれた『炎』を巧みにかわす青奈とミドリ。
バイク型は目を細め、一向に当たらないことに苛立ち続々と伏兵を放出する。中には青奈たちを通り過ごす『炎』やトンネル内のどこかに当たる始末。
カミナリのような模様の剣も『炎』で燃えている。ただ燃えるだけなら良かったがどうやら剣を振れば擬似銃のように『炎』を放つことができる見たいね。
【速朱の流】と似た原理だけど偶然? それとも……
でも、あの攻撃には弱点があるみたいね。青奈はバイク型の見た目を観察した。バイク型の全身にある『炎』は無尽蔵ではない。その証拠に、何発か放つために『炎』を使用したことで全身の『炎』の量が地下水路に入る前よりも減っている感覚があった。
これは使えると踏んだ青奈は行動を起こす。
【巫女服】で低い位置に移動する。真ん中で溜まっている水に当たるスレスレの状態。
将祇陽の護の剣先を水面に触れさせた。
決して奇行にはしった訳ではない。将祇陽の護のトリガーを引く青奈。
剣先の背後には大文字のVの字のような波が出現した。水のような流体の表面に物体を入れると物体が押しのけた流体が波を生み出す。波源から外へ広がりこのような波形が水面に誕生した。引き波はすぐに消失するが代わりに得たモノがある。
【ウォーター】の唯一の弱点と呼べるモノがある。それは圧倒的水不足であること。定期的にまとまった水を吸収しないと【ウォーター】はまともに機能しない。バイク型が『炎』の能力を保有している。そこそこ頑丈な【巫女服】、堅牢な【騎士服】でも火に当たれば無事ではない。そのため火を打ち消すことができる【ウォーター】はなくてはならないもの。残量が少なくなったのでこうして水を吸収している。
少々汚いけど【ウォーター】マガジンには水面のウイルスなどを死滅化させ、装填者の衛生環境を整えることが可能。安心して吸収した水を使用できる。
マスクのディスプレイに【ウォーター】の残量が表示される。満タンの合図だった。
後はここからの脱出を図るだけ。背後に視線を向ける青奈。
予想外の出来事というものがある。突然、空からミサイルや人が降ってきたり地球外生物が地球に降り立ったりと奇想天外な現実がふと発生してしまう。しかしそんな未知のイベントは大抵の人は経験しない。もし経験するとすればそれは幸運なのかそれとも不運なのかは遭遇した人にしかわかわない。
先程まで自身の身体を気遣ってトンネルの壁を走行していたバイク型。水で火が消えるための行動。なので青奈が水面スレスレにいるから決して近づかない。接近するのは青奈が水面から離れた時だ、と。
確かにそれを決めたのはこちら側の考え……
敵側が絶対に近づかないと決めた訳でもこちらに宣言した訳でもない——ッ!
【騎士服】に切り替る。将祇陽の護を下から上へ振るう。
【ウォーター】でバイクの前輪の『炎』が消え掛かっているのにも関わらず青奈を押し潰そうと落下してくるバイク型。
左手に持っているマスケット銃でバイク型の上半身を撃つ姿勢を取る。
だが、バイク型が持っている燃える剣で弾かれた。瞬時に【スモーク】:⑤を発動する青奈。しかし中途半端な状態で【⑤:輪煙】を出したことでマスケットの銃口から燃える剣の間に煙の太線が出来上がっていた——鎖に繋がれたように。
マスケット銃をバイク型が弾いたことで青奈の手から離れた。同時に繋がれている炎剣も一緒に落ちる。
水面に何か落ちた音が聴こえた。小さな波紋が発生したがそれも遠い過去になった。
小さき波をかき消す大きな波が生まれたのだ。
バイクの落下運動に負けた青奈は水面の中へ。少しの溝でも川の浅瀬くらいの水量がある。海と違いそこまで水圧を感じることはなかったがそれでも背中からダイブさせられたことで痛みが尋常じゃなかった。
一度に大量の水飛沫を被ったのでお互い雨で濡れたような格好になっていた。これで『炎』が全消失してくれるなら御の字だったけど、『炎』は出し入れ可能らしい。でも少しでも『炎』の残量を削れたので良しとした。
バイク型は青奈を地面に見立て水面を走行している。
【騎士服】の防御力とミドリの治癒のお陰で傷一つ付いていない。バイクのタイヤで【騎士服】の装甲が剥がれてきてもミドリの力で修復可能になっている。それでも青奈の方はそのまま潜っている状態になっているので着ている装備品が全て水浸しでお釈迦になっている。気休めだがマスクのお陰で顔に水がかかる心配はない。
「想定するべきだったわ……」
「お前のようなふざけた奴に正攻法なんて無意味。こちらも多少のリスクを負うさっ!!」
「じゃあ……」
青奈は右手に持っている将祇陽の護を壁に向ける。
「これは予想していたかしら!!」
将祇陽の護の持ち手にあるトリガーを引く。
剣先から飛ばされた水槍。刀身が長くなった見た目になる。右手を水圧を物ともしない動作で逆手に持ち変える。水槍を壁から天井まで移動させた。形にしてイチョウの葉。
水槍が天井の半分まで通過した途端、トンネルが崩落した。いきなりの轟音でコンクリートで造られたトンネルが崩れていく。真上にいたバイク型は崩れ落ちてくるコンクリートが直撃した。
戻ろうと瓦礫の雨を掻い潜ろうと進んでいく。【巫女服】で瓦礫と瓦礫の間をすり抜ける青奈。崩落と同時に激しい風と煙がトンネルを覆う。風で押し出された青奈は吹き飛ばされた。
カタコンベ......
お前ら器物破損し過ぎだよ