46話 玉石混淆
正直、舐めていた。璃子さんの技術を凌ぐ機構武器が存在するなんて思っていなかったから。
璃子さんが製作したアイテムの数々は出現したソドールや悪魔などを退けてきた。使用者である私も自負している面がある。使用するのは多少のリスクは付くけど、それ以上の成果を出してくれた。
しかし、私の前に立ちはだかる濃本が所持しているバングルは誰が作ったか私はわからない。正体が判明すれば量産される前に資材や設計図などを諸々、破壊することも可能となる。
そもそもこの状況下では正体を詮索する時間がないし私の頭の処理が追いつかない。ただでさえ、敵さんの両拳からは圧倒的威圧が込められているので意識がそちらへ向いていて別のことを考えられない。
狂気の笑んでいる濃本が走り出し詰めようとする。
時が一刻進むにつれ、こもっている威圧が膨れ上がっている。あの状態になっては拳打を一撃でも喰らえば外部は当然のこと、身体の内部も無事じゃ済まない。
その証拠に私たちの専用武器で一番耐久力があるこうちゃんの【捕食者の影爪】。黒黄の籠手が一撃で原形も留めていない状態で地面に残っている。次第に砂へ変化するかもしれない……
残っている武器の【裁紅の短剣】と【賊藍御前】で応戦するしかない。
見た目は短剣と薙刀を両手に持っている二刀流スタイル。【太義の蛮輪】だからこそ出来る攻撃手段。更に碧色の薙刀は分離と再合体が可能。分離すれば二振りの双刃剣になる。実質今の私は三刀流使いになっていた。それは今はどうでもいいことか……
【濃藍の矛】は暗青色で片手剣と同等のサイズで三叉戟をモデルにしている。【鉄藍の刀】は濃紺色で短刀剣をイメージして製作されたもの。合体すれば暗い印象の二振りの武器が碧色に輝く薙刀へ変貌する。それが薙刀型の青奈ちゃん専用武器でもある【賊藍御前】。
【賊藍御前】を胸の位置くらいで構え、素早く片手突きで攻撃する。
濃本が回避行動を取ったことで胴体へ一直線命中は叶わなかった。
だが、横腹にかすめることには成功した。濃本を覆うSFスーツはどうやらそこまで防御力がないとみた。何か武装を隠し持っているかと警戒していたけど、それもない。
結論、両腕にはめているナックルだけが脅威ということになった。
ナックルの性質上、敵に接近しないと攻撃が当たらない。わざわざ分離して近接攻撃しなくてもリーチを生かして薙刀での中距離攻撃一択。
幅広く戦闘を有利にするが長物である【賊藍御前】は【太義の蛮輪】形態では扱いが難しい。【賊藍御前】の主ある青奈ちゃんは片手でも軽やかに扱えるけど私やこうちゃんは薙刀を片手で扱うのに苦労している。本来は両手で扱う物であり、決して二刀流武器として薙刀を使う者なんていない。
引いていた【賊藍御前】を再度、照準を合わせて狙い定める。
濃本もこちらが意図していることを感じたのか左右に移動しフェイントを絡める。
直撃を狙っても避けられてしまう……
胴体目がけては簡単に逃れられる。なら、と鋼鉄で後生大事に守られている顔へ突く。胴体部分のスーツを原理が同じなら濃本のヘルムもそこまで防御力がないと考えた。
濃本が前に出していた【濃藍の矛】の突き攻撃を弾く。若干、【濃藍の矛】にヒビが入っていた。
軽く当たっただけでもダメなのか……
まさか私が容赦無く自分の顔を突いてくるとは考えていなかったのか今度は余裕の回避ではなく辛うじての回避で私の突きを払う。薙刀はリーチが長いので中距離攻撃が選択できる。しかし、一度敵が内側へ侵入してくる。
打つ込む濃本に対して敢えて踏み込み跳躍する。そして、その場で身体を高速回転し濃本からの攻撃をかわした。付属として生まれた回転エネルギーで縦に蹴り落とす。
回転から解放された私の前には脳天をかかと落としされた濃本が身体を大きく揺らしていた。
私は今、【レッド】になって、廃工場を素早く移動していた。窓から外へ出て、逆に隙を見て外から内側に入っても頭にソナーでも内臓されているのかと思うくらいの勘の良さで発見し、私を追跡する。
思いの外、戻りが早い濃本に唖然とした私。怒りに身を任せ、私を執拗に追いかけてくる。
濃本は自身の腕に装着しているナックル型の武器で工場内になる物などを破壊していく。大きく無駄な動きをしながら。私が隠れる場所を減らしているであろう。
だが、濃本が遠くから見てもいることを知られる動きをしているのでこっちは遠距離でも狙うことができる。
武器の性能が未知数な状況なのでソドールとの戦闘と同じようなスタンスで行動する。具体的には右手に赤く染まっているナイフである【裁紅の短剣】。左手にはクイーンズブラスター。クイーンズブラスターは射撃の他に能力マガジン換装のために欠かせないもの。
数発撃って、濃本には火器類の武装はない。代わりに爆発的な拳による攻撃。その証拠に戦闘初期ではへこむだけだったドラム缶が戦闘開始1分で巨大な穴が出来上がるまで威力を増大させていた。
青奈:あの武器は時間経過で威力が上がるものと考えて良さそうね
なら今は狙撃をするしか方法がない。時間が経過すればこちらが不利なのは分かる。でもしない。それにはちゃんと理由がある。
青奈:例え、何十時間も武器の効果で威力を倍加させたとしても使用者の肉体の強度が倍加することはないわ。あくまで武器の威力だけが増えると考えた方が妥当。必ず使用者は不可に耐えることが出来なくなりやがて戦闘不能になる......
時間が経過する度に威力だけが増加していく......
濃本を守っている装甲は盛り上がっている様子はない。クイーンズブラスターから放たれる銃弾が装甲に直撃しても微かにヒビが入る。もし装甲も時間経過で性能が上がるなら銃弾の跡なんてつくわけがない。実は装甲は修復機能付きって線も予想したがどうやら当てが外れた。
修復とは真逆な方向で装甲は存在している。あの装甲は濃本を守るだけの補助のようなもの。
そして補助とは程遠い、雲泥の差を見せつけているのは濃本の腕に嵌っているナックル型の武装。
濃い赤色を迸っていながら禍々しく巨大な畏怖が込められている感覚を覚える。あれに1回でも当たれば、無事じゃ済まなくなり最悪絶命するかもしれない。
少し離れたところで濃本の次なる行動を予想する。
まだ盾としての役割がある物に隠れて濃本を見る。
濃本の姿は捉えている。初めの余裕そうな表情をしていた濃本からはかけ離れた顔を今している。
「……クソッ!! 調子に乗りやがって!!!!!」
悪態をついたり愚痴をこぼす濃本。後どれくらいで武装の強制終了が来るのか分からないがあの様子ならこのままの距離を保ちつつ物陰に隠れれば、ジリ貧になって濃本が所有しているソドールを入手できる。
少々、卑怯と思えるが命あってのもの。濃本の言動や行動理由に冷静になれず相手に勝負を挑んだが、頭の熱さがなくなれば簡単に物事を考えれる。
これ、相手にする必要があるのか……ということ。
濃本がソドール能力を有しているのは確認できた。手首にあるバングルがそれだ。
ソドールを生み出したのは別の人でもソドールを武器にする方法を確立させたのは璃子さん。璃子さんなら当然、あのようなバングルを開発していると思う。私が持っているマガジンを止めてね。
でも昔、私が2体目のソドールの成分を回収した時に提案したことがあった。
その時、璃子さんがチラッと言ってた。
......
.........
............
「バングル型?」
「そうです。マガジンには1つしか能力がないから。これを複合するアイテムを開発すれば戦闘時の換装に手間をかける必要がなくなると思うんですけど……」
「灯の言うこともごもっともね。当然、考えたことがあったわ——灯たちに出会う前にね。過去に試作品を作ってみたけど、途中で制作を中止して取り掛かってないわ。今は地下室の片隅にあるの」
「ど、どうしてですか?」
「単純に使える人がいないのよ。多分クロが使えると思うけど……」
「私は使えるの?」
「純粋な悪魔であり、特殊な存在であるクロなら。灯の身体にもクロの悪魔因子が宿っているけどまだまだ数%程度。耐えれなくなり死ぬわ」
過去の実験から2体同士の成分が合わさると蒸発してしまうのを確認して璃子さんはアイテムを作るのをやめたそうだ。腕や指にはめるタイプの物は性質上、どうしても一体化になってしまう。いくら2つの成分の間に仕切り版みたいな壁を設置しても漏れてしまい、混合する可能性がある。成分が融合すれば使用者が人間に場合、身体が侵食されこの世の者とは思えない姿へ形を変えてしまう。
2度と戻れなくなる。その可能性がある危険な行為を流石の璃子さんも中止した。
だから換装に時間がかかっても1つに集約されているマガジンを製造したと……
それを踏まえて濃本を見てみる。
璃子さんの言ってた成分同士の融合は今のところない。しかしいつ起きるか分からない状況。
「めんどくせっ!!!!」
手首のバングルを初期位置に戻る濃本。今度は青色の方を左に回す。
『MACH CHEETAH』!
分厚いナックル型の武器が消失。代わりに腕に鎖鎌が螺旋状に巻きつく。鎌の持ち手部分は腕にめり込んだようになっている。「く」の字型ではなく三日月型の形状。めり込んでいるので手に持っていない。
忽ち、青い装甲になる。青色の装甲は赤い装甲よりもスッキリした姿だった。スリムになったと形容すべきなのか。敏捷性を高めるために余計な装備が取り外された……そんな感じの見た目。
濃本の顔にはまたしても機械的なヘルメットが装着される。ヘルメットの左側には豹の刺青のような模様が彫られていた。
「この神星の鎌鼬からは逃れられないぜ!」
濃本はその場に上下へ跳ぶ。数回その行動を行ったすぐ後に足に力を溜めて走った。空気を震わせながら私が捉えきれないほどの速度を出す。
危険を察し【ダイヤモンド】を装填しようとしたが時すでに遅く体当たりされ、吹っ飛んだ。
壁に激突し倒れる。即座に次の行動をしたいが刹那的な動きだったため私の身体がまだ硬直状態。このまま濃本の追加の攻撃がくると思ったが来なかった。
どうやら、あちらもあの速度に身体が慣れていないのかどうかわからないが酔っぱらいの動きに似た挙動をしている。
青の場合は極端に装甲を外しているからあのような速度が実現できたと思う。しかし裏を返せば今の青色の装甲は防御力なんてないようなもの。一撃でも受ければ装甲が大破してしまうと予想が高まる。
クイーンズブラスターで撃つ姿勢が取れても照準が定まらない。これでは絶好のチャンスが不意になってしまう。折角弱点を見つけたんだ。狙わない手はないでしょう……
「ミドリ……」
『ストーム』!
【巫女服】に変わり、低空で青い低装甲へ飛び出す。
一気に距離を詰めるべき高速移動していく。巨大な風圧がのしかかる。これまで何度も空中での走行をやってきたので耐性はできたけど、やっぱり慣れない。
長く細い鎌が伸びている感覚に陥り、私の喉元へを狩ろうと迫ってくる。ミドリもそれを察知し即座に軌道を変えた。弧を描きながら鋭い鎌を回避しつつ背後に廻る。鮮緑の魔剣で背中部分の装甲を切りつけた。
【巫女服】には機械的な武装は武器を除いて何もない。なのでこう表現するのはおかしな話だけど、空中移動の源である羽衣のスピードを相殺して身体を捻り別軌道で離脱した。
その後も変態機動して濃本目がけて突撃からの剣舞を繰り出す。
将祇陽の護は【魔魂封醒】を起動しなくても問題ない強力な近接武器。
濃本の超業能魔は手の甲に色を向ければ簡単に赤と青を入れ替えれると思う。だが、入れ替えるためにはどうしても一回行動を変える必要がある。超高速化や超攻撃化も元を辿れば、バングル変更と時間経過をしないと意味がないのも確認済み。敵に自由にさせない手は1つ。その隙を与えないこと。
右手の将祇陽の護で無防備な敵を連続で切り裂く。左手に持っているクイーンズブラスター:マスケットタイプの銃口から放たれた弾丸が一直線に動かない敵へ向かう。
数えたことはないけどクイーンズブラスターの弾はマシンガンの如く発射し銃弾の雨を降らした。濃本は現在、神星の鎌鼬なる高速化を可能にする形態なので銃弾のカーテンを全回避することもできるが将祇陽の護で装甲を切り怯ませ、行動を起こすのを抑制しているので動けずにいる。蹌踉けた所を銃の連射を繰り返した。
将祇陽の護で切られたことで背中に遠くからでも可視化できるくらいの至る所に亀裂が入っている。銃弾も当たり無数の弾痕が残っていた。
マスクで表情が分からないが厭わしい顔をしているだろう。一撃を喰らわせても立ち直したかと思えば自分を超える速度で迫る。どんなに足掻いても敵の方が一歩常に上にいることに心底、腹が立つ。自分はこれをまだ扱えない焦燥感が次第、濃本を狂わせる。
「なんでお前の方が上なんだよ……」
私は剣先を伸ばし、冷やかな声を放つ。
「私を罠に嵌めてさぞかし上手くいったと思ったでしょうね。でもね、貴方とは背負っているものが違うのよ……身の程を知りなさい」
No.12 ウォーター 紫マゼンタ色 【 】
No.16 フォックス 煉瓦茶色
No.18 ??? ???色
No.35 スパイダー 赤紫色 【 】
No.40 スモーク ピンクマゼンタ色 【 】
No.46 ??? ???色
No.47 シャーク 青水色
No.48 ボーン 茶橙色
No.50 ボム 黒橙色 【 】
No.52 ダイヤモンド 水白色
No.59 アイヴィー 緑黄緑色
濃本竜胆
No.13 チーター 白青色
No.31 ゴリラ 橙黄色




