15話 見た目はクラゲ、頭はカメラ
携帯端末をいじりながら、灯もとい、青奈は上の空だった。
(なんて、退屈なのかしら......)
最初は面白いと感じたが、それも1時間もすれば退屈の極みになっていく。
昼休み———
廊下を歩く度に生徒、教師含めなぜか両端に人が集まり中央が開けた状態になっている。
(歩きやすいけど、少し面倒ね......)
「天織さん......」
後ろから呼び止められたので振り向くと、多分、大多数の人が「イケメン」と認識するであろう男がいた。
「貴方は、どなたですか??」
「僕は、サッカー部2年の北岡翔です」
「それで?? その北岡さんが私しに何か御用かしら??」
「これは運命だ!! 付き合ってほしい!!」
「お断りします」
「そんな! 君に釣り合う男なんて僕しかいないじゃないか......」
「貴方には毛ほども興味ないから!!」
バッサリ伝え去っていった———
(これで100人ぐらいだっけ??)
(200人ぐらいじゃない)
(ご愁傷様......)
学生棟を北に進むと人があまりいない静かな広場に着く。
草花などの緑が生い茂っており、やわらかい風が吹き渡っている。
木々の新芽の緑も生き生きと眩しいばかりに輝いている。
鳥たちが美しい声で囀りなど鳴き声が響き合っていた。
少し坂のようになっている丘の上で寝そべっていた。
(あんなうるさい場所より、こういう静かな場所の方が落ち着くわね)
さっきの......名前が思い出せない。まぁ、モブAと名付けましょうか。あのモブAもそうだが私しが男を好きになるわけないじゃん。昔、3人で『男性抹殺計画』なるモノを考えてたっけ......
黄華:悪夢を思い出した......記憶から消したのに
灯:私もあれはどうかと思うけど......
青奈:何言ってるのよ。あんな下半身生物なんて消すに限るのわ!
灯:笑顔で言わないでよ、青奈ちゃん
黄華:相変わらず物騒な思考しているな......絶対に実行するなよ。いいな!
青奈:無理
黄華:灯、手伝え。このアホに教育してやる
青奈:子どもさんに私しみたいな麗しい大人の女性に何を教えてくれるのかしら?????
黄華:君が麗しい大人の女性? 鏡を見てから出直してこいよ!!
青奈:あ”ん”っ
キャットファイトが終わり再び、私しは頭上の青空を見ていた。
(守らないと灯ちゃんの幸せを......)
風で草花が靡いている動きではなく、明らかに何かがこちらに向かって歩いているのを感じる。
上半身を起こすと......
目の前に写真や映画をスクリーンに映すことができる映写機を頭部に持ち、首から下は布で覆われており、紐みたいな物が無数に出ておりそれに支えられているソドールが現れた。
「お前を始末する」
こちらを指差ししながら襲ってきた。
「一応、貴方が放課後と言っていたはずだけど?? まあ、良いわ!! 貴方の力頂くわ!!」
『ブルー』
灯ちゃんは赤だったが、私し専用の青のスライドキーをクイーンズブラスターASKに付けトリガーを引いた。
「変身!!」
右の腰から膝まで伸びているホルスターが装着され、そこには二刃の剣があった。
・【濃藍の矛】:双刃剣
先端が3つの刃が三角錐のような形で重なっており、刃1つ1つは藍染めを黒に近づくほどに染められた濃い暗い青色で統一されている。
・【鉄藍の刀】:双刃剣
刀のような長い刃を持ち、鉄色がかかった紺色で、わずかに緑みを帯びた暗い青色をした短刀剣。
【濃藍の矛】を構え、向かってくるソドールと対峙した。
布の下から1本の触手が伸びてきた。触手の先端から針が出ており、何となく危険を感じたので避けたが、私しのいた場所の近くに鳥がいて、針が刺さった。刺された鳥はその場から動く事なく固まっているように見えた。
(まさか、麻痺??)
こんな風に獲物を捕獲する生物がいたような......
こちらに考える機会を与えずに触手が襲いかかってきた。
1本目は【濃藍の矛】で弾き、2本目はクイーンズブラスターから出る銃弾で触手を怯ませ、3本目は服にあたったが掠った程度で済んだ。4本目、5本目は『アイヴィー』を装填し蔦で回避、
次々と触手がまるで大雨のように降ってきた。
「一体、何本あるのよ!!」
上に目がけて【ダイヤモンド】の銃弾を撃ち壁を作り大量触手攻撃から防ぐことができた。
一瞬見えた相手の奇妙な光景が脳裏に焼き付いた。
(アイツ、なんで写真を何枚も破っているのかしら??)
写真を破いたと同時に触手が増え、又こちらに襲いかかってきた。
触手が増えた?? まさか、あの写真に秘密が......
こいつ相手に長期戦は無理ね。あの写真が何枚あるか分からないけど、無尽蔵に増えていく麻痺付与の触手が襲ってきる以上、いつかは手数に圧倒される。注射器を刺して成分を回収すれば万事解決なんだけど、これは難しいかな。
おそらく、写真に写っているモノを疑似的に増やす能力なのかもしれない。
疑似的なモノに刺したところでちゃんと成分を採取できるのか分からない以上むやみのとる行動ではない。それに、この触手はクラゲの触手かもしれない。あの触手には麻痺、もしくは毒の類。クラゲの触手には通常、多くの刺胞が見られ、それで敵に攻撃したり捕食したりする。刺胞がある以上迂闊に近づけない。かといって、あの映写機のようなカメラのような機械的な頭に注射器が刺さるのか、考えものね。
「ねぇ〜 何で貴方はそんな格好で怪盗なんてやってるの??」
「———それを貴方に言う必要あるのかしら?」
「それに......」
右手の人差し指と中指を折り曲げながら、目の前の敵に笑顔で言い放った。
「貴方も記者の端くれでしょう———来なさい!! 小心者さん??」
「捕まえてやる」
本当は両手でやるもんだけど。意外と効果あったわね。冷静さを失った者はやりやすい。
無数で展開していた触手が一塊になって攻撃してきたが、ジャンプし、バランス良く触手の上に伝っていった。
途中で、ジャンプし、背後に移動し、【濃藍の矛】で攻撃し続けた。
連撃していると、触手で、【濃藍の矛】とクイーンズブラスターASKが手から溢れた。
「あぁ!?」
【濃藍の矛】が離れたところにいってしまい、取りに行くには距離が離れてしまっている。
「あらあら......どうしましょう??」
クラゲの触手に巻かれながら、宙に浮かされた......
コスチュームの上からなので、麻痺毒は辛うじて防げている。
「私の勝ちね! その仮面の下を公衆の面前に晒すわ!」
「化粧してないからやめて欲しいわ」
「気にするところそこ?」
「まぁ、いいわ......。なぜ、貴方が怪盗をやっているのか最後まで分からないけど、どうせ、力欲しさに好き勝手やっているだけの小物だったわけね!! 特集組む必要なかったわね」
「随分、好き勝手言ってくれるわね!! でも、いいの? 両手使えるけど??」
「手首しか動かないじゃない? それとも、右にある短剣でも使う気? 使っても貴方のそんな状態では何も意味ないけど......」
「さぁ〜 どうかな?」
残りのクラゲ触手が襲いかかってきた。
その瞬間、後ろから激痛が走った。
今、私の身体は頭がカメラ、首から下はクラゲである。クラゲの表面を身体に纏っている状態になっている。
切られたり、打撃を受けると当然、痛みが発生する。
こんなことを言っているが、今考えるべきはなぜ、後ろから攻撃を受けていること。
目の前の怪盗に伸ばしている触手を後ろに向かわせた。
「何で、貴方の剣があるの??」
「偶々ね!」
こいつの持っていた剣は私が触手を使って遠くに投げた筈なのになんで......。
今度は後頭部に直撃し強い頭痛を感じた。
「ねぇ、磁石って知ってるかしら??」
2つの極(磁極)を持ち、双極性の磁場を発生させる源となる物体。磁石同士を近づけると、異なる極は引き合い、逆に同じ極は反発しあう。
「早く、私しを離さないと貴方の頭が歪むわよ!!」
致し方ないがこのままでは激痛に耐えることができなくなる。仕方ないので怪盗を手放した。
後ろの剣が自分から離れ、怪盗の方に向かっていった。
「この2本の剣は2つで1つなの!!」
【賊藍御前】
互いの柄が合体し、私しの身長より少し長い薙刀のような武器が出来上がっていた。
槍のようなに長い柄に片方は刃が展開し、三叉の矛のようになり、反対側は刀で静型の薙刀武器になった。
【賊藍御前】を回しながら、触手をソルベのように切ったり薙ぎ払いをした。
【濃藍の矛】の刃先を下に向けて左手は下から持ち、右手は【鉄藍の刀】を上に持ち触手がきたら一歩下がって【濃藍の矛】で触手をかわしながら前に進み触手の先端を【鉄藍の刀】で切り込む。手漕ぎ舟のパドルのように振ったり、掌で回しながら徐々に距離をつめていた。
周りには私しと目の前のソドールしかいない1対1の決闘的なシチュエーションならば、人や障害物がないので傷つける心配もなく、気軽に突く、振るなどの攻撃動作が出来たり、相手の攻撃を防ぐ等が使える。
(こんな隠し玉を持っていたなんて......。)
触手の写真を使いたいが、隙がない。
目の前の怪盗は何故か、【賊藍御前】を私目がけて投げてきた。
辛うじて残った触手で【賊藍御前】を払ったが怪盗がいなくなり私の胴体に銃弾が当たる。
物を投げられると、人は瞬時に払いたくなる。
それを利用し、【賊藍御前】を投げ、一気に距離を詰め、ここまで誘導し落ちているクイーンズブラスターASKを拾いながら、カウンター気味にソドールを撃った。
致命傷を受けると同時に疑似触手が消え、本物の4本の触手だけになった。
怯んでいるところをすかさず、成分を抜き人間体に戻した。
「私しの勝ちね!! 橋間すずさん」
「やっぱり、正体わかっていたのね」
灯の代わりにこっちに来て、すぐに新聞部の情報を集めた。
新聞部所属の3人がソドールなのも、今回の一件も協力者のおかげで情報が手に入った。
負けっぱなしは嫌いだし、私しの灯に牙を向くやつは誰であろうと消し去る。
「何で、私が負けたの?? 写真を破けば疑似でも手数が増えて敵を倒せるし、クラゲの触手を使えば敵を麻痺毒に追いやって無力化できる。強いじゃん」
まるで、子どものようにムキになっていたが、橋間の言うことも一応、わかる。
「貴方の能力は確かに強力だった。それは認めるわ」
「だったら......」
「でもね、ただ強いだけじゃ勝てないわ。戦いの中で自分のリズム、ノリで戦う方が勝つわ。相手を如何に本気にさせずにこちらが全力で戦えるかを考えるのも戦いなのよ。それに、貴方能力をうまく使っているつもりだったでしょうけど。精度がイマイチだったわ。もっと触手を的確に相手の急所に打てば良かったのに、それが無かったわ」
橋間に手を差し出した。
「勝負ならいつでも受け付けるわ!!」
苦笑しながら、立った。
「次は勝つわよ 怪盗さん!いや、灯さん!」
「青奈よ 天織灯の別人格」
目を丸くし、唖然としている橋間だった。
「そんなこと言っても良いの??」
「別に貴方なら良いかなって思えたのーー根拠はないんだけどね!! もうすぐで昼休みが終わるわ。行きましょう!!」
放課後———
私したちの写真は部室に保管されており、完全消去するために橋間さんと一緒に新聞部に向かった。
午後の光が多少薄れていき、あたりの景色が夕暮れの気配が混じり始めていた。
窓から見える夕暮れが綺麗だった。
(夕暮れの景色も中々、良いわね......)
「着いたわ。ここが新聞部よ!!」
中に入ると1人の男子生徒がいた。
「根岸君」
「橋間さん、どうかしたんですか??」
「事情が変わったわ 怪盗記事は現時点を持って無しにします」
「断ります!! 今朝、見ましたよね!! 自分達の記事であんなに人が集まり学園中に広まった。こんな面白い記事手放せない......もっともっと面白い記事を書く。そのためにはあの怪盗を捕まえないと......」
根岸と名乗る男子生徒が懐からソドール人形を出した。
目の前に現れたのは以前、灯ちゃんと悪魔が戦ったガイコツ型のソドールがいた。
「ガッカリダヨ。ボス」
「根岸君......」
「アンタガツヨイトオモッタカラシタガッテイタガカイトウニマケルナンテ。モォ、オマエハイラナイ。ヒトジチニナッテモラウ」
ガイコツの手に捕まり橋間さんが連れて行かれた......。
「はぁ......最悪ね、これは」
静寂した部屋に溜息が1つ。
15話現在、ソドール能力回収済
No.33 ホッパー 青ピンク色
No.35 スパイダー 赤紫色
No.47 シャーク 青水色
No.52 ダイヤモンド 水白色
No.53 ミラー ピンク赤色
No.59 アイヴィー 緑黄緑色
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No.25 ??? ??色




