26話 大海の中に価値はある
成分は採取できた。残る問題は……
暫くして『怪盗ヘブン』は目を覚ました。
「目が覚めましたか? 『怪盗ヘブン』さん……」
「ここは……どこ?」
「ここは……シロビネビルです」
『怪盗ヘブン』はなぜ自分がここで寝ていたのか分からずにいて周りの環境を見るために屋上を見渡す。その後、自分の状況を整理するために顎に手を置きながら考え込む。
「君は誰ですか……?」
「......新米ですが私も怪盗をやっています」
「……同業者ってわけね。ここで寝ていた理由は分からないけどお礼するわ! ありがとう!」
嘘をついている様子はない。どうやらソドールになる前の『怪盗ヘブン』になった。
ゲームは一応、私の勝ちの様だね。少々卑怯な手を使ったので勝った気がしないけど……
私は記憶を失う前の『怪盗ヘブン』が持っていた『金龍紋』の首を置いた。
「貴方のですよね……」
「『金龍紋』!?」
「今の貴方は3つの首を所持しています……とても大事なものなんですよね」
「えぇ。とても大事なものよ……」
「【胴体】はどこにあるか私にもわかりません……」
「心配しなくても大丈夫よ。【胴体】なら……海の中だから」
海ってあの大海原の海ですか……そんな所に残りの【胴体】があるなんて流石に分からないよ。
まぁ、海中の中なら余程のことがなければ回収されないだろう。
ただ……『怪盗ヘブン』の哀しい目を見てしまった。いくら海中の中にあっても『怪盗ヘブン』にとってはかけがえのない大切なもの。例え怪盗という悪の手段を選んでも成し遂げたい野望。
(私と同じか……)
「『怪盗ヘブン』さん……【胴体】がある場所……教えてください!」
「こんな形で空を飛べるとは思わなかった……」
現在、私と『怪盗ヘブン』は空の旅をしている。ミドリ操作の元、ゆっくり【胴体】があるとされる場所に向かう。今、私が『怪盗ヘブン』をお姫様抱っこする感じで移動している。
空中移動をしてから30分後。目的の地に到着する。
「この崖の下にあると思うわ……」
意外と高いことに驚いた。流石に腰を抜かす行為はしなかったがここから落ちたら助かる見込みは薄いかもしれない。
「崖の下の岩場を昔、見たけどどこにも無かった」
「残る可能性は……海の中というわけですね」
波は穏やかだがなにぶん夜なためこのまま海の中へダイブするなら視界が悪いので発見は朝以上に困難になる。
「ここまで運んで貰って悪いけど……【胴体】は諦めるわ。どういう経緯があって3つの『金龍紋』の首が私の所に来たのか謎だけど……3つとも海に投げれば誰も行方が分からないままになる……」
「怪盗なのに目の前のお宝を諦めるんですか?」
「えっ……!?」
「試したいことがあります……」
『ウォーター』!
『シャーク』!
将祇陽の護に【ウォーター】を纏わせたまま空中に移動する。
海とある程度の離れた距離でホバリングをして空中停止した。
「【魔魂封醒】起動」
将祇陽の護を大きく頭上に上げ、勢いよく両腕が振り下ろす。
「【魔魂封醒】:【速朱の流】!!」
ここで【ウォーター】の性能のおさらい。
専用武器に【ウォーター】を纏わせることで2つの能力を得る。【放出】と【吸収】。
【放出】は専用武器に纏っている【ウィーター】を斬撃の様に飛ばしたり水の塊を放つことができる。【吸収】は水を吸収する。僅かな水溜まりも海でも水がある所に量を選んで吸収可能。返却可能。
そう【吸収】の能力は”水”を起動者の任意の量を吸収できるのだ。
今回は武者型に使用した【魔魂封醒】:【速朱の流】を発動した。
【速朱の流】は将祇陽の護から放たれる剣圧を無数に生み出すもの。本来ならシンソ状態のソドールやミドリ以外の悪魔に使用する翠の陰包徳の3つある内の1つである必殺技。
今回で使用は2回目なのでなんとも言えないが前回とは系統が違うことが分かった。
以前に【速朱の流】を発動した時は鮮やかな緑色の閃光が剣身から放れたが今回は水色の閃光が放たれた。【ウォーター】は水。もしかしたら属性付与のマガジンで【魔魂封醒】を発動した時にはその属性に適した色の斬撃が放出されるかもしれない。
代表的な属性は火・水・風・雷かな……水以外の属性を持つソドールは今後現れるか分からないが出現したら少々、厄介な戦いになりそうだね。
振り下ろされた将祇陽の護から放たれた水属性の斬撃。
無数の斬撃が海面に接触したことで異常気象ですかって位の勢いで私の下にあった海が干からびていく。全部が全部干からびた訳ではなく、斬撃の線に沿って海の水分がなくなっていた。
水分がなくなった線状には周りの海は侵入できず水を寄せ付けない様になっている。
海という道なく場所に場所を作ってしまった私。
(すごい……あの有名な書物に記載されていた奇跡を起こしてしまった)
『怪盗ヘブン』を再び抱っこし下に降りた私達は海の中を酸素ボンベなどの道具がなくても歩くことができた。
目的の物を探すこと30分……
『怪盗ヘブン』の声に反応し向かうことにした。
「あった……」
『怪盗ヘブン』の真下には横たわる白骨死体。白骨死体が抱えていたのは海の汚れで色が変色していたが恐らくこれが……
「これで終わったよ……お兄ちゃん」
白骨死体を抱きしめる『怪盗ヘブン』。怪盗から溢れる涙が流れる。
【ウォーター】の【吸収】した海の水を返却していく。返却されたことでみるみる水かさが増え【速朱の流】発動前の元の海に戻った。
「良かったんですか……あの白骨死体は……」
「良いんです。兄がこれからも『金龍紋』の守ってくれる守護神としてあそこに置いときます。それに私もここに通うので大丈夫です」
「そうですか……」
「では、私はこれで失礼させてもらいます……同業者であるレッドクィーンさん」
「あの……非常に申し上げにくいんですけど……私に狙っているのは美術品とかないので……その……【怪盗】は名前だけ借りただけですので……」
楽しそうに微笑む怪盗ヘブン。
「【怪盗】ってね。お宝だけを狙う泥棒と義賊的や利他主義的な振る舞いをする泥棒もいるんです。貴方は私の何かを奪った。それについては何も言いません。普通ならそこで貴方は逃走手段一択です。でも貴方は逃げる行為を辞めて私の目的を全力で助けてくれた。私は救われた。もう会えないと思った兄に会えたんですから……感謝がつきません。ありがとうね! 『怪盗レッドクィーン』さん」
私はミラバを展開して宙に浮く。
「『怪盗レッドクィーン』ではありません……私は……いや、私達は『怪盗レッドクィーンズ』です!! ではお先に失礼します……先輩」
次の日———
「そうよ。その調子よ、灯!」
私は今クロの指導の元、私の身体から放出されているフェロモンを抑え込む訓練を行なっている。目を閉じて座禅している。これで効果あるのか正直分からない。クロの説明では身体の内側に栓をするイメージをして放出を抑え込むことができると。しかしこれがまた難しい。女性限定とはいえ、フェロモンが私の体外にダダ漏れしているだけも不思議な感覚なのにここにきてイメージトレーニングも行うのだ。
座禅して2時間。本人である私には現時点の自分の身体がどうなっているのか不明。でもクロの声で徐々に押さえ込んでいるのが分かる。
手を叩く音が聞こえた。
「はい! 終了! 灯から放出されていたフェロモンを抑え込むことに成功したわ」
目を開けて身体を確認したが特に変わった様子がない。本当に抑え込むことができたのか不安。
「不安って顔ね……じゃあ早速、外に行きますか。デートに行くわよ」
「えっ!? 今からデートするの……」
時計を見るともうすぐ午後5時になる時間。
「みんなとデートしておいて私とはしないのね……しかもあろう事かミドリともしたそうね。私を置いて……灯はどんどん他所で女の作っていく……所詮、私なんて現地づ……」
「分かったよっ!! ただ明日にしよう! 今日は疲れた。お風呂入って寝たいから……」
「しょうがないけどそれで我慢しますか……だが、今日の灯の身体を洗う権利を頂きます」
息を吸い込み大声で叫んだ。
「ぜっー…………たいー…………嫌っ!!!!!!!!!」
侵食率:25%→44%→26%
灯達が使えるソドール能力
No.12 ウォーター 紫マゼンタ色 【 】
No.16 フォックス 煉瓦茶色
No.35 スパイダー 赤紫色
No.47 シャーク 青水色 【 】
No.48 ボーン 茶橙色
No.50 ボム 黒橙色
No.52 ダイヤモンド 水白色
No.59 アイヴィー 緑黄緑色
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No.40 ??? ???色
『ウォーター』!
『シャーク』!
この2つを合わせた技に名前を付けるなら【Xセイザーtype:4-shark】
もしカジキなら【8】、クジラなら【12】かな〜
......小宇宙球にそう書かれてあるから




