22話 灯VS【ウサギ】×【スモーク】
私は屋上からシロビネビルの下を見た。
シロビネビルの周りを警察が囲み、その外には野次馬がたくさん。送った甲斐があったようね。
「……20時50分かぁ」
兄は完璧主義で劇場型。自分が立てた作戦を緻密に練り一筆書きの要領で横道に逸れることなく盗みを実行していた。最後以外は……
私がわざわざテレビ局に予告状を送ったのは『怪盗レッドクィーン』に知られると同時に……もしかしたら兄はまだ生きていてこれを見ているかもって期待していたからだ。そんなことはありえないのは私が誰よりも分かっている。でも……
「さてと、盗み達成に花火でもあげますか」
予告状に書いてあった21時に合わせて屋上から花火を打ち上げ作戦成功を下にいる人たちに教えるため。私には兄のような大胆かつ独創的なことはできない。せめてもと思い自分ができることをした。花火の準備をするために右手に持っている『金龍紋』の首を懐にしまう。
蒔田とその手下や兄を殺した殺し屋は眠ってもらった。殺してはいない。殺しては私もアイツらと同類になってしまう。偶然、手に入れた力を少々発揮しただけ。
熱い蹴りをお見舞いされてのびている。更にアイツらの不正の数々も警察が見つけやすいように置いてきたし後は……
「......遅かったみたいね。怪盗ちゃん!」
私が振り向くと真っ赤な怪盗服を来た女の子が音もなく現れた。
「残念だけど、私の勝ちのようね」
「まだ【胴体】が見つかってませんから勝負はまだ決まっていません」
「知ってたんだ。私が【胴体】を持ってないこと」
「こっちにも優秀な人はいますから……調べはついてます」
「私がどこの誰か分かったかしら?」
「そっちはお手上げです。候補が多くて時間もない……」
「じゃあ、何しにきたのかしら?」
「貴方の土俵には上がりません。私の土俵で私のやり方で貴方に勝ちます!」
私に向かって自分のナイフのような武器を突き立ててくる怪盗レッドクィーン。
私は自分が手に入れた力を解放し上半身モリモリの白毛の生物に変態する。
「貴方の成分、頂きます!」
夜空を覆い尽くす巨大な花火が打ち上がった。人々は聴力を失ってしまうかもしれない大きな音が炸裂し歓喜していた。何発も一斉に放たれ光の玉が夜空を征服している。赤や緑などの色彩に囲まれ見上げている人達の顔もそれに合わせて色とりどりに変わっていっていた。
そんな煌びやかな空間で全く鮮やかな花火を見ない者達がいる。
一番花火に手を伸ばせば、手が届くかもしれない距離にいる2人。続々の放たれる花火とその儚い命が散った花火の残り火が降り注ぐ。残滓が蛇のように長い線で下に降りてくる。
地面に到着するまでの燃料は持っていない残滓達は中間地点にいる人間に不時着する準備をしていく。全員が全員、人間に到達できない。殆どは中間地点も存在していない何もない空間の宙で散ってしまう。
花火は屋上をコンサートステージのように変えてくれて残り火は空中に漂う紙吹雪や銀テープのよう。屋上が1つの演出会場に早変わりし興奮と熱狂の渦に包まれるいくが生憎、屋上にいる人物達は歌を歌う気分でもないし、そんなのにも興味がない。
私の興味は目の前のソドールの成分のみ。
花火の爆音でお互いの武器が触れてあっても轟音でかき消されていく。
お互いがお互いの武器を払いのけ距離を離す。双方の間に降り注ぐ残滓達。これが一時期終われば戦闘再開。相手よりも先手を取らんとばかりに臨戦態勢を取る。
先に動いたのはウサギ型。
腰に巻きついているベルトからショットシェルを数本取り出し、己の腕目掛けて投げた。
ショットシェルが弾け、ウサギ型の右腕に白い煙が纏わりつく。
螺旋状に巻きつき徐々に形を変化させていく。
肘部分が最も太く巻きつき指先に掛けて伸びていく。手首から指先に掛けて円錐形に変形。
「槍……いや、ランスですか」
「ご注意を!」
そう言ってウサギ型はその場で前に飛び上がり、空中で煙状のランスを構える。
私に向かって突き出されたランスを回避した。ランスはそのまま屋上に突き刺さり、刺された地面を中心に亀裂がはしった。
ランスを引き抜き、鋭く飛び出してくる。
「回避はさせないよ」
そう言ってウサギ型は左手で器用にベルトに嵌められているショットシェルを私の周りに投げた。
円状に広がり、煙の壁が出来上がる。
『ダイヤモンド』!
私の前にダイヤの柱を出現させた。
「それはもう見た!」
ウサギ型は自身の身体を回転させ、太くなっている足でダイヤの柱に向かって回り蹴りを炸裂した。
柱は蹴りを直撃されたことで粉々に粉砕された。
そのままの勢いで私はウサギ型の足での攻撃を受ける。
【裁紅の短剣】を蹴りをもらう直前に前へ出していたおかげで深く抉り込まれることはなかった。しかし、直撃はしなくても異様に太いウサギの足の攻撃が当たったことで吹っ飛ばされた。ここは屋上で踏んだるなりしないと場外に飛びだり下へ真っ逆さまになる。
私の身体は途中で止まる——宙に浮いた状態で。
ウサギ型が放った煙弾で生成された煙壁のおかげで屋上から排出されずに済んだ。
だが、煙という気体を侮っていた自分を反省している。背中から接触した瞬間は高級ベットを思わせる柔らかさだったが時間が経つにつれて身体に絡みつき脱出ができなくなった。
動けば動くほど絡みつく。まるで底なし沼に落ちた気分。
「捕獲完了ね。貴方を私のコレクションに迎えましょうか!!」




