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レッド・クイーンズ ~天織灯のあくまな怪盗生活~  作者: 麻莉
3章 7月 冱蝕の氷龍止めるわ、剣と拳
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14話 2本目の首を頂戴します

3人は近くにある美術館に入ることにした。

 予め予定はしてなかったが期間限定開催と書かれていたためなのか私しを筆頭に中に入ることにした。目的の物は違くても怪盗たるもの美しい美術品を見て心眼を鍛えるのも悪くないわね。



 ここは繰越くりこし美術館。3階相当の大きさがある建物。

 横長の美術館。正面は波打ったガラス張りの壁一面。木材の色が少し渋めの色に彩られている。そんな木材が重なり合い屋根が形成されている外装。

 建設されたのは昭和頃らしいが現代の雰囲気にもマッチしていて古臭さを感じない綺麗な美術館となっている。

 内装は床は木材で作られているがそれ以外はコンクリート一面の芸術的な建築構想がなされており美術品そっちのけで内装を見ているお客さんがそこかしこにいた。


(あの人達が見入ってしまうのも頷けるわね……)

 目を惹くほどの建築物は人も魅了してしまう芸術品。普段と違う建築を鑑賞することでその場所だけ異空間にで入っているのかと感じてしまい美術品だけを見るより何倍もの楽しみが生まれる。

 2階のある区画は逆三角形というべきか円錐状と表現すべきか定かじゃないがそのような形のカフェがある。安全策として鉄格子のような作りの柵が備え付けられているため落ちる事はないが下を覗くものなら高所恐怖症ではない人でも怖気付いてしまうかもしれない。


 美術館には【常設展】と【企画展】の2種類の展示が行われている。

【常設展】は期間を設けず行われている展示。期間がない展示なのでいつきても同じ美術品を見れるのがメリット。展示されている品は美術館のコレクションを中心に置かれている。美術館にあるものを全部投入してしまうとごちゃごちゃした館内になってしまい来店されたお客さんが困惑してしまう。なので、ちゃんと美術館の雰囲気に合うようにコレクションのみが配置されている。

【常設展】とは違く【企画展】の展示物はテーマ毎に期間限定で開催される展示のこと。

 主に1人のアーティストの作品だけを展示したり、時代やジャンル、地域などのテーマ毎に決められた美術品で構成されている。


【企画展】の方は期間限定ってことで様々な美術品が数多く展示されている。一風変わった作品から世界で評価されている作品など多岐に渡る。こういった作品をひと目見ようと多くのお客さんが来店される。作品を閲覧した人は他の人にも共有しようとSNSなどの情報ツールを用いる。その情報を見た人が興味深々で来店の流れが期間限定中は永遠のループで起こり話題にもなる。




 今回、行われているのはその【企画展】

 テーマは”人の技術では到底制作ができない品”


「『人の技術では到底制作ができない品』って何?」

 私しは思わず心の中で思っていた言葉を洩らしてしまった。


「簡単には制作できない美術品とか?」


「あるいは作者の頭の中で想像された怪物とかかな……」


 展示物はどれも奇抜と表現してもいいのか困惑する位の力作がずらりと並んでいた。

 絵画やお店のロゴを作りました、大きな野菜? 果物? 正体は謎だがそこそこの威圧感でお客さんを待ち構えていた。


「なんか綾のお姉さんが通っている大学で似たような作品を見た感じがするよ」

 月音ゆみの言う通り、昨日見た大学の外に飾られていた彫刻科や美術科の作品に類似した作品があった。

 少々、奇抜な品々だけど中々興味深い美術品で私しの心は高鳴りを見せていた。


「どの作品も素敵ね〜!!」


 私し達は奥に歩き進めるとガラスケースで守られている美術品スペースにたどり着く。

「ここは先ほどとは違って小物が大きいね」


 小さいからと侮ってはいけない。このスペースに置かれている展示品も力作の数々。

 偶々、見つけたけど私しは運が良いわね。

 私し達は一旦、別行動し各々展示品を見て回る。私しは再び絵画が展示されているスペースに戻る。

 そんな中、私しはとある作品を見てしまう。なんでか分からないがその作品に吸い寄せられるような感覚を味わう。


 そこそこ大きい縦長の額縁に女性の絵が描かれていた。左目しか見えていない横向きの顔。銀色で長い髪に少し薄い赤色のワンピースを着ている女性の絵だった。



 タイトルは”永遠の愛”      作者はSewai



「青奈ちゃん、綺麗だね——これ」

 月音ゆみもこの絵につられて2人で鑑賞することにした。


「ねぇ! 青奈……ちゃん!? どうしたの?」




「えっ?」


 私しは自分でも気が付かない自然と涙が流れていた。さっきから視界が悪いと思ったらなんで涙が出たのかしら……




 月音ゆみが自分のハンカチを私しに渡した。

「……ありがとう。あまりのも感動しちゃって」




「気に入ってくれて何よりだよ。お嬢さん方」


 月音ゆみが先に振り返り、私しは遅れて振り向くとスーツを着こなしているビジネスマン風の男性が立っている。渋めのおじさんで明るい髪色、柔らかい声をしていた。


 月音ゆみは恐る恐るその男性に質問する。

「もしかして……この絵の作者さんですか?」


「えぇ! そうです。Sewaiと申します。私の作品を見てくれてありがとうございます」



「あまり美術には疎いんですがこの絵はなんか引き寄せられるものがあって……すみません、こんな感想しか言えなくて」


「気にしなくて大丈夫ですよ。誰か1人でもこの絵で感動してくれるならそれだけで満足です。ところでそちらの方は大丈夫ですか?」



「大丈夫です。あまりにも感動しちゃって涙が溢れてきまして。お見苦しいものをお見せてしまい申し訳ございません」


「貴方にはこの絵がよっぽど気に入ってくれたようですね。嬉しいですよ」




「ちょっと失礼します……」

 私しはお辞儀して、その場を離れる。


「私も心配なので付き添います。とても素晴らしい絵をありがとうございます」

 私しを追って月音ゆみもその場を離れた。





 2人に手を振り終えたSewaiは自分の絵を見ている。

「”永遠の愛”……か。いつか……」


 Sewaiもまた一雫の涙を流していた。









 私しは近くの休憩スペースの椅子に座る。


 黄華:大丈夫か?


 灯:青奈ちゃん……大丈夫?


 青奈:心配かけちゃってごめんなさいね。少しびっくりしちゃって……


 黄華:一旦、代われ


 青奈:そうさせてもらうわ。なんだか凄く疲れたわ



「青奈ちゃん……大丈夫?」


「なんでもないよ。月音ゆみ!」


 髪はそのままのポニーテールにしているが声質が変わったいた。目もくすんだ赤みがある黄色に変わっている。

「黄華ちゃん……青奈ちゃんは平気?」


「あぁ!! アイツは平気だよ。しかし、そんな感動する作品なのか?」


「うん!! 黄華ちゃんも一度、見てみるといいよ」


「芸術はからっきしなんだけどな……」






 近くの階段から勢いよく駆けてくる一団がいた。

 その中の1人が拡声器を持って2階のフロアにいるお客さんに呼びかけていた。

 よく見れば警察官の制服を着ている。

「皆さん、今すぐこの建物から離れてください。繰り返します……」



 何事かと困惑するお客さん。不満を漏らしている人も多くいたが警察官の誘導の下、お客さんは美術館の外に出ることになった。今日は平日だが【企画展】ってことでかなりの人が美術館の中にいて、全員が退出するのに1時間近く掛かってしまった。


 僕と月音ゆみは近くの避難していた。程なくして小物コーナーにいた萌香もかが僕らを発見し近づく。


「一体、何事なんだか……」


「私、あのガラスケースの展示物があったスペースにいたんだけど……なんかその中の品を盗む人がもうすぐで現れるらしいよ」


「物を盗むって……それじゃあ、まるで……」


 僕が言いかけた瞬間、2階部分のガラス張りが破られた。破片は下へ一直線に落ちてきて全部地面に激突してしまい更に細かくなっていった。


 破けた所から誰かが現れる。そいつは下へ落ちることなくガラス張りの窓を地面に見立て立っていた。タコの吸盤みたいな吸着力が靴に仕込んでいるのかって位に人間ではあり得ない芸当を見せていた。そいつは上に向かって軽やかに歩いていく。屋上に差し掛かり塀の部分に立ち下にいる警察官に高らかに宣言していた。



「確かに『金龍紋』(きんりゅうもん)の頭部、頂きました!」

 そいつは右手に持っている金色の美術品を懐に仕舞う。

 下にカメラマンがいたのを確認してカメラ目線で言い放つ。


「これを見ている『怪盗レッドクィーン』へ。先日、君に向けて熱いラブコールを送ったはずだがどうやら見込み違いだったらしい。眼中になかったよ。では、さらば」


 マントを靡かせ、屋上の奥の方——下にいる人が目視できない所まで行ってしまった。



 月音ゆみ萌香もかは後ろにいる人を見る。

「あまり……挑発には乗らたくないけど、面白い! 相手になってあげるよ。美術品には興味ないが君の持っている成分は僕が頂くよ! 『怪盗何某』さん!」


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