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レッド・クイーンズ ~天織灯のあくまな怪盗生活~  作者: 麻莉
3章 7月 冱蝕の氷龍止めるわ、剣と拳
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10話 リモート・コントロールで先制布告

 最近、すっかりこの状況にも慣れた。本当は慣れちゃいけないけどね。

 私を取り囲むようにみんなが寝ている。綾ちゃんが「みんなと寝たい!」の提案でリビングを整理して私達5人で一緒に寝ることになった。


(意外と寂しがり屋さんなのかな、綾ちゃんは)


 分からなくもない。私も経験があるから——寂しさがどういうものか。学校から帰るといつもの光景、クロと璃子さん、そして青奈ちゃんやこうちゃんが居てもどこか寂しさをふと感じてしまう瞬間がある。初めはこんな感情どうすれば良いか分からなかった。


 クロに相談した時は、「どんな人でも起こりうる感情なのよ。だからって気にしなくても良いとはきっぱり言わないわ。そうだな……私の経験になるけど、家に帰ってからも家に楽しい事があると意識を変えていたかな。完全には寂しさを打ち消すことはできないけど、多少は心にゆとりを持てると思うよ」

 真剣に言ったと矢先に私に抱きつくあの癖は何とかならないものか……当時は苦労した。

 抱きついた瞬間に青奈ちゃんが主人格になってクロと言い争いになるし、こうちゃんの場合は実践室に行ってクロと戦闘し始めるなどが日夜繰り広げられていた。



 ただ、これは他人の視点から見たらどう思うのかな。

 右側にすずちゃん。左側に綾ちゃん。足元に月音(ゆみ)ちゃん。頭にはミドリが寝ている。普通かどうか分からないが全員で寝るとなると横一列に寝るもんだと思う。しかし、今は私を逃さないとばかりに取り囲まれている。トーストの上にいる目玉焼きの気分……

 別にこれから食べられる運命はないよ。本当だよ。


 私の頭が浮く。そのまま後頭部に柔らかい感触が当たる。視線を上へ移すとミドリだった。

「おはよう。灯!」


「おはよう、ミドリ。どうして膝枕したの?」


「あら、あたしの膝枕気に入らなかった?」



「そうな事ないよ。急にやられたもんだからびっくりしただけだよ」


 ミドリは私の髪を撫でた。

「灯の髪、サラサラしていて羨ましいわ」


「そうかな? ミドリの髪も綺麗だよ。私、大好きだもん!!」

 女性にとって髪は特別な存在。男性の場合は気にしてる人はとことん気にしてる。外に出るために髪をセットする人、特別な相手に会うためにファッションと合わせて髪を変えたりなど。

 だけど、女性は男性よりもかなり神経質になっている。いくら歳を重ねても髪に対するケアやヘアスタイルに並々なる関心を持って努力している。



 ミドリは自分の髪の毛先を触っていく。少しミドリの頬が赤くなっていた気がするが気のせいだと思う。

「そんなに手入れしてないよ。何もしなくてもこうなるから」


「羨ましいよ。私なんて朝起きるとすぐ髪の手入れから始まるから……」


 ミドリが自分の髪を触るのを止め、私の両頬を手で抑える。いつもの笑顔に見えたがあまり元気がないように見える。


「ねぇ、灯……」


「どうしたの、ミドリ?」


「あたしはこんなに幸せでええのかな……」



「良いんじゃない!」


「そないな軽く言わいでよ。あたいはただ不安なの。灯は言うてくれたじゃん。『過去はもう帰れへんけど未来は手に入ります』って。灯と数日過ごして、みんなと楽しい時間を過ごして明るい未来を得てこんなに楽しいことはないわって。でも、あたしの心は不安で一杯やった。ほんまにこのまんま灯達と一緒に居てもええのか、つい考えちゃんだ……」


 私は起き上がりミドリを対面する。そして……

 ミドリの唇を奪った。

 咄嗟のことでミドリは目を見開いてしまい眠気が吹っ飛んでいた。


「——ッ!」


 私は柔らかいミドリの唇を離し、笑顔でミドリを見る。

「私が選んだから、ミドリはどんと胸を張りなさい!! それに私はこうも言ったよ」




「私と過ごした時間が一番にして見せるとね!!」




「はぁ〜 灯は不思議な子だね……」



 こんな私達を遠い目で見てる影が3つ。

「灯って自分のことは自己評価極端に低い癖に、何故他人のことになるとあんなに強気なのかな……」


「「分かる!!」」


 朝食の時間。

 黄華は朝ご飯の支度をしている。4人はテーブルでそのままじっと座っていた。

 ミドリの場合は和菓子は作れるけどその他の料理はかっらきりでなんでも火を入れれば何とかなると考えている。3人も多少、料理はできる。


 灯の場合は絶句する位の料理を作ってしまう。食材が悲しむ気がする感じ……


 黄華:なぁ〜 僕がいるなら家に帰っても良かったんじゃ……


 灯:……そういえば!?


 青奈:忘れていたわ。貴方の唯一の取り柄


 黄華:どういう意味だぁ。このやろう!!


 青奈:きゃあ! 怖い〜 暴徒がいる〜 ヤられる〜


 黄華:灯……コイツをはっ倒しても僕は正義だと思うんだけど


 私達の脳内はいつも通り。



 黄華が作ったのは和食。何品か作った後、みんな驚く。

 どの品も味付けが絶品でみんな、箸を止まることがなかった。


 灯:本当にこうちゃん……料理上手だね!


 青奈:本当ね〜 和洋中、たいがいのものを作れるのは凄いよね


 黄華:へぇ!! もっと褒めてよ、2人とも


 青奈:まぁ、私しもできるけどね


 黄華:この前、カップ麺をダメにしたやつがよく言うよ


 青奈:あれは間違えただけよ


 黄華:『間違えただけ』だぁぁ。どうやったらカップに直接冷水ぶっかけたり、ガスバーナーで温めようとするんだ? 素直に僕が作れば良かったのに。お前がムキになるもんだから、得体の知れない物を食べなくちゃいけなくなったじゃん


 青奈:あ、あれは……何事も挑戦が大事なのよ


 黄華:『挑戦』ってことを言えば何とかなると思ってないか……


 灯:こうちゃん!! もう1回、料理を教えて!


 黄華:青奈。これが『挑戦』だ。勉強になったな〜


 青奈:ムキぃぃ 黄華に勉強されるなんて屈辱……


 黄華:で、灯。料理だけど……人は向き不向きがあるんだ。またいつかやろうな


 灯:私も以前よりかはできると思うんだ!!


 黄華:悪いことは言わない……諦めよう


 灯:ひ、酷いよぉ


 黄華:料理なら青奈の方がまだ良いから…… さぁ、卵焼き食べようかな


 青奈:(逃げたわね……)






「そやけども、黄華の料理美味しいよ!」


「ありがとう。朝イチの魚市場にでも行きたいかな。いきの良い魚を買ってみたいしね」


 ミドリはご満悦の様子。3人はというと……

 機嫌が悪いのどうか分からないが下を向きながら黙って食べている。


「大丈夫か? 3人とも。和食苦手だった?」


「美味しいもの食べると人は黙るって本当だったみたい......」


「私はどうすれば……」


「綾ちゃん……頑張ろうね」







 食事を終えてテレビをつける。

「あぁ! 灯の怪盗モードだ」


 灯はその言葉でその場に四つんばえになった。

 テレビの内容は灯の怪盗服姿が鮮明に出ていて、巷では灯のファンが増えているとかの内容。


「お願いだから……チャンネル変えて……」


「はいはい。て、あれ?」


 すずちゃんが別のチャンネルを変えようとした瞬間、テレビ画面が乱れる。

 ブロックノイズと呼ばれる現象で画面が突然乱れたり止まったりが発生していた。

 画面に四角いモザイクが発生したり音声が途切れている。


「綾ちゃん……壊れたみたい」


「おかしいな? お父さんが新しいものを買ったばかりなのに……」


「こういうのは大体、接触不良が原因って線が多いから」





 男性キャスターが1文字言う。

「わ……」




 映画のどこかの場面の俳優が1文字言う。

「た……」




 主人公の女優がドラマで会話している中の1文字を言う。

「し……」




 教育テレビの歌のお兄さんが1文字を言う。

「は……」






 突如、テレビ画面が正常に戻ったと思いければ、コマ送りのように人が登場するシーンが出て、1つの単語を発したら次の画面に変わりまた1つの単語を発する。その繰り返しで文章が完成しつつあった。




「気味が悪いんだけど……」




 そして最後の単語が終わるとテレビ画面から目元だけマスクを被っている人が出てきた。

 背景は真っ暗でマスクを被っている人の頭上にスポットライトが当たっている画面。

 そいつは画面に向かって指差した。


「怪盗レッドクィーンだか知らないがこの世に怪盗は1人だけで十分」


 そこで映像が切れ、元のニュース番組に戻った。


「灯……」


「灯ちゃん……」


「大丈夫、灯ちゃん......」





 不敵に笑う私。

「面白いじゃない!」





「......なぁ、灯。その姿勢で言うてもカッコ良くないわよ」

 うるさい、ミドリ。こういう時は雰囲気ってものを感じなさい。

 後でお仕置きね!


「私は世界をまたにかける怪盗ヘブン。私がいない間に妙な怪盗が有名になっているみたいだね。私が果たせずにいた『金龍紋』の回収とちんちくりな女怪盗を倒させて貰う」


↑の文が一コマ一コマ毎に場面が変わりながらテレビに映る。

朝で良かったよ。真夜中位にこれをやるもんならトラウマになりかねん......



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