9話 闇世に輝く邪な龍像
その夜。とあるビルの屋上。
その者は屋上に立っており欠けた月を見ていた。顔を見られないように目元だけマスクをつける。昔は顔全体に被っていたが色々あってマスクは目の部分を隠すだけにしている。意外にも目元だけでも正体不明の者に見えるもんだからこれは便利と頷く者。
その者が耳に付けているイヤホンから声が聞こえる。
「そろそろ時間だよ。ヘブン」
ヘブンと名乗られた者は屋上の緑から音もなく落下する。普通の人なら屋上から落ちればパニックになるがヘブンなる者は何の躊躇いもなく、息をするように自然と下へ落下する。ただ落下するのではなくビルの壁を地面にして歩きながら目的の階まで歩いている。
屋上に命綱なども設置されていなく、己の力のみでビルを降りていく。
幸運にも風はほとんどなく空気圧を感じることなく目的の階——61階に窓ガラスに辿り着く。
ヘブンは外から内側の様子を眺める。
事前に調べた通り、目的の物は部屋の中央。白い台座に置かれていた。
「じゃあ、侵入するからきって……」
「了解! カウント3で。……3……2……1」
カウントが終わるとビルのセキュリティーが機能せずビル全体が無防備な状態に変わっていく。
この状態も長く続かない。もって1分。
(1分もあれば楽勝!)
ヘブンは躊躇わずにビルの窓を蹴破る。窓ガラスを蹴破ればセキュリティーが起動しなくても警部員が駆けつけるのがセオリー。しかしこのビルのは警備員はいない。正確には人の警備員がいない。このビルを守っている警備員は全てロボットが担当している。ロボットは完璧にプログラムを入力すれば勝手に指示に従う。しかしいくら高性能のロボットもデータの塊。外からハッキングされればロボットの主導権が移り、味方が敵に変わる瞬間になる。一応、ロボット達を管理しているが1人いるが彼は来ない。屋上に上がる前に管理人の部屋に侵入し催眠ガスで眠らせておいたからだ。
以上のことから物音を立てても問題ない。
中央に向かって赤外線センサーが幾重にも張り巡らされているが防犯装置が機能していないのでセンサーは作動してない。
中央にある白い大理石で出来ているであろう台座に首だけの龍の彫刻品が展示されていた。今は暗闇となっていて微かにしか見れないが黄金に輝く龍がそこにある。展示ケースにも強固なセキュリティーが備わっていたが今はそれも唯の無意味なものとなっている。
ケースを取り外し首だけの龍を持つ。台座には加圧板の役割をしていて展示品が持ち上げられると重量が代わり警報が鳴るとされているがこの装置も今は使用不可になっている。
(ネットだけで動かすからこうなるんだ……)
残り10秒。
「これも置いときますか」
ヘブンはうっすら笑みを浮かべながら闇に溶け込んだ——。
バーSIRIUSのカウンターでは男が2人。お互いが気心を知れた関係。
1人は夏に突入しても尚、コートを羽織っている探偵の坂本零冶。もう1方は新たなオカルト記事を出版社に送って仕事から解放された近藤一輝。こっちもコートをこよなく愛している——白いコートだけど。
そんな2人は酒も飲みながらいつもの下らない話を始める。
話し始めて程なく近藤は坂本に質問した。
「これは噂なんだけど……怪盗ヘブンが活動を再開したらしい」
坂本は酔ってはいたが『怪盗ヘブン』の名前は覚えていた。
「あの怪盗は数年前に死んだって噂があったが死んでなかったんだな」
近藤はグラスを回し氷を揺らす。
「しかもだ。その死んだと噂される原因の 『金龍紋』を再び集めているとか」
「胴体含め全部で4つある彫刻だっけ……」
「そう。胴体1つ。首が3つある黄金の龍。その1つが保管されているとされているブレッジビルに何者かが盗みに入り、見事に金龍紋の首がなくなった」
「それだけだと『怪盗ヘブン』の仕業と決めつけるには早くないか……金龍紋を狙っている輩は多いと聞くが……」
近藤はコートの懐から1枚の写真を出す。
「これは警察しか知らないもの。坂本も知っていると思うが『怪盗ヘブン』は犯行文が記されているカードを現場に置く怪盗」
「愉快犯って線もあるだろう」
「カードの存在はテレビでも報じられていたが文面は一才、明かされていない。文面を知っているのは警察の連中だけ」
「まさか!?」
坂本は写真を見ると白い台座に1枚のカードが斜めに置かれていた。
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金龍紋の首、確かに頂きました!!
我は弱き者を助け、正義を断罪する者
怪盗ヘブン
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「意外と短いんだな……」
「そこは気にしなくて良いよ。問題は『怪盗ヘブン』が活動を開始したこと」
「お前にとっては美味しい話かも知れないが俺には今の所、無関係だけど?」
近藤は坂本にダブルピースをする。別に唐突にじゃんけんを始めたわけではない。
「2点ある。1つは『怪盗ヘブン』は自分が中心にいないと気が収まらない性格の持ち主。以前、活動していた時は同業者を平気で警察とかに売ってライバルを減らす行動をやっていた。名のある有名な怪盗達はみんな『怪盗ヘブン』の餌食になった」
「話が見えないが?」
「僕らの間に共通の怪盗がいるじゃないか。しかも最近、鮮明な写真が一部で出回る事態になっていて更に有名になりつつある怪盗が……」
「でもな〜 2人は美術品を狙っていなくてあくまでソドールの……」
近藤は指を1つ折り、人差し指だけ天を向く。
「ここでもう1つのことが関係している。『怪盗ヘブン』はソドールのターゲットの可能性が高い」
「はぁ……マジかよ……」
坂本は今日一の長いため息をしてしまった。
バーカウンターにいる凛田景子は坂本を見て呆れた顔をしてしまう。
「口閉じてくれるかしら。息、臭いんだけど……」
(姫……君は変な奴に好かれる体質なのかね……)
この作品の女性陣は男どもに恨みでもあるのかな〜
『金龍紋』は決してキ●グ○ドラではありません......本当だよ......




