5話 駆けろ! ”リス” クを背負って
私は自分の持っている銃を構えて進むことにした。
このゲームはランダムに銃が配られる。今回私の愛機となるのはAK-47ライフル。
このゲームで出てくる銃の銃弾に限りはない。代わりにプレイヤーのスタミナゲージが減る。スタミナゲージが100がMAXで1発撃つごとに減る。そしてここからが大事。実は銃の種類は大中小と銃の大きさで分類される。小が小型拳銃など。中が私が持っているライフルが分類される。大はロケットランチャーのようなものが属している。銃のサイズによって消費されるスタミナゲージが異なる。小では1発撃つごとに1減る。100発一度に連射が可能。中サイズは5減る。大は10減る様に出来ている。
威力は当然、大サイズが絶大でアバターが戦闘不能になるのに1発で十分とのこと。
その分、移動速度が遅い。重さも体感できるように作られている。実際に人間がゴリゴリのマッチョなら問題なく大サイズを持ちながら戦場を駆け巡ることが可能だが、筋力がない人が大サイズを持たられると地面に置いてスナイパーの様に遠距離攻撃専門になる。
私は味方の動きを真似て障害物を駆使して中に入る。
障害物に銃弾が当たる音が前から聞こえた。
銃弾の雨が私達を襲った。
私の隣いた人が敵からの銃弾が肩を掠った。
通常なら、銃弾が当たりば全身に痛みが生じるが仮想の肉体なので痛覚が発生しないように設定されているのか隣の人は痛みを感じることなく進んでいった。
でも、痛みがなくてもあの人の体力ゲージは少し減ったに違いない。
私は障害物を盾にして敵に標準を合わせて撃つ。ライフルの銃口から放たれた銃弾は敵の1人の頭に当たり1発で絶命した。
(あれ? このサイズなら何回か敵に当てないと戦闘不能にならないのに。なんでだろう?)
ヘッドショットの場合はどんなサイズの銃でもプレイヤーのアバターがポリゴン状になり絶命すると私がわかるのはもう少し後だった。
隣にいた人が私の攻撃に驚き賛辞を送ってくれた。
「やるな、嬢ちゃん!!」
「ありがとうございます。まぐれですけど……」
特に意識することなく普通に撃った。
普段からソドールに対してクイーンズブラスターASKを撃ち続けていたから自然と敵の急所を狙う癖ができていたと実感する。
(始まる前のあのスムーズな動きなら……)
私はあることを実行するために果敢に前に出ていく。
「おいっ! 嬢ちゃん」
敵の銃弾のカーテンが鳴り止まない状態で私が前に出たんだ。そりゃあ、驚くのも無理はない。
しかし、私には視えていた。
変則的な銃弾が放たれたが全て回避する。1発目はライフルを盾に、2発目は横へ摺り足しながら回避。3発目は後ろへ跳び回りながら回避した。着地にした瞬間に前へ全力で走り出す。
(あれを利用して……)
私の前にあったピラミッド状になっている切ってすぐの木々が横向きにある。3段構造になっている木々に対して私はジャンプした。頂上の木に足を置き、勢いよく上に思い切り跳躍する。
空中で自分の身体を捻りながらライフル銃を構え、撃つ。
空中でくるりと回転しながら2階の侵入した私。着地と同時に2階の端にいた2人のプレイヤーは倒れる。ポリゴン状にアバターが消滅し、その場に残ったものは彼らが持っていた銃だけ。
1つは私と同じような中サイズの銃。もう1つは小型拳銃。
「おっ! 持てる」
なるほど、敵味方が持っていた銃を己の持ち物としてできるのか。時間が過ぎれば当然、両者の陣営から脱落した人たちが持っている銃がそこら辺に落ちている。落ちている銃を拾い、更なる強化・攻撃の手数を増やし敵の旗を奪うのか……
右から気配を感じる。
反射的に真上に跳び、剥がれる寸前の天井の板に足を置く。私はそのまま逆さま状態で2階の奥へ進むことにした。
ソドールに対して普通にやっている行動なので私はなんら不思議に思わなかったが、先程私を撃とうとしたプレイヤーが驚いていた。
「マジかよ……」
彼はその言葉を最後に視界が暗転した。
私は拾った小型拳銃を後ろ向きで撃ち右から私を狙ったプレイヤーの頭を撃ち抜く。
(多分、命中......)
疲れたので天井走りを止め2階中央で着地する私。
「見つけた!」
当然というべきかセオリーなのか。建物が陣地の場合、必ずっといいほど1階か2階の奥に重要そうな物が置かれている。今回は青チームの旗がこれに該当する。
1歩進むと、前後ろ左右から残りのプレイヤー7人が銃を構えながら厳戒態勢で出てきた。
その中の1人が私の話しかける。
「アンタ……何者だ」
「……このゲームが初の唯の初心者です」
私の言葉に驚愕する周りのプレイヤー。
「ビギナーだと……」
「ありえね……」
「初心者にこんなことするのはゲーマーとして失格だと思うが悪く思うなよ」
私を取り囲んだ状態からの一斉発射。確かにこれを初心者にやるもんなら大人気ない、ゲーマーとしての品性を疑われると感じてしまう。
まぁ、私がやったことが鑑みれば当然の選択。得体の知れない初心者である私を先に倒し、残りの敵チームを倒す。青チームはそう考えていると思う。
「ゲームであっても負けたくないので最後まで争います!」
私に対して撃たれる予定の銃弾を彼らが撃つであろうタイミングを計って引き金を引いた瞬間にその場にしゃがむ。しゃがんだ状態で円を描くように拾った拳銃で地面を撃った。
銃弾を打ち付けられたコンクリートの床が次第に亀裂が生じ、エレベーターが降下するように下へ私を巻き込んで落ちていく。壊れている廃工場なら所々、脆いと推測していたが予想通り。
円状態のコンクリート床はそのまま1階へ落ちていく。私はというとコンクリートの床を蹴り、斜めに跳ぶ。身体を回転させ1階の天井になっている2階のコンクリートの床に向かって数発撃ち耐久力を減らしてから足で蹴破り、2階へ舞い戻った。拳銃を落とし空いた手で上に設置されていた細い線で屋根に吊るされている裸電球を握り、時計回りに回りながら銃を乱射した。
2階は灰色の煙に覆われる。
煙が止む頃には7人いた青チームの人たちは残り1人になっていた。
残った人——私に話かけた人だった。彼はその場に跪つく形となっている。彼の身体を見ると私が撃った銃弾が肩、腹部などに当たっていた。後何発か当たれば彼もゲームオーバーになる。
「本当に何者だ……アンタ」
私は彼の眉間に銃口を突きつけ引き金を引いた。
「唯の初心者です」
倒れポリゴン状になり彼が持っていた銃だけがその場に残った。
敵が居なくなったが念の為、私は青チームの旗を取る。
取ったと同時にゲーム終了のファンファーレが鳴り響いた。
結果は赤チームの大勝利で幕を閉じる。
実はこのゲームもそうだが、実際にプレイする参加プレイヤーと参加プレイヤーを見る観客プレイヤーの2種類がいる。私は観客がいるとは知らずにソドールとの戦闘でやっている戦い方をしてしまった。私の人間ではあり得ないであろう挙動を見させられた観客プレイヤーは目が白黒になって暫く、思考停止して棒立ちしていたそうだ。
そこからこの対戦の様子がネット上に飛び交う。録画機能は実装されていたいため、観客プレイヤーが見た通りで書き込みをした所、「ネタですか?」「そんなの人間じゃね〜」などの言葉を送られるが実際見た人達は「嘘じゃなくて本当のことなんだ」と言い続けても戯言だと言われた。
私は知らず知らずに『スクワード・シューティングの悪魔』と名付けられた。
ゲーム終了した私はゴーグルを外した。
「あぁ!! 楽しかった!!」
こんな楽しいモノがあるならもっと早くやるべきだったよ。
すずちゃんに他のおすすめゲームでも聞こうかな……
私は振り向いて皆を見ると。
「えっ!?」
リビングは夕食で見た綺麗な状態ではなく、周りの物が倒れていたり窓付近に会ったデカい観葉植物の土が撒き散らされている状態だった。
そして……
3人も周りの家具と同じく倒れている。
私は慌てて3人に近寄り安否確認をした。良かった……無事だ。
この時の私は忘れていた。
先程プレイしていたゲームはあくまで視界だけが仮想空間に送られる。残りの身体はそのままだ。映像に合わせて自分が動けば身体も動く。ジャンプすれば、肉体もジャンプするなどの行動が起こる。
私が対戦中やった行動は全てこのリビングにある私の身体も同じ行動をする。
灯:どうしよう……2人とも
青奈:……
黄華:……
私は青奈ちゃんとこうちゃんを見ると3人と同じように倒れていた。
私達は外にいる人格の映像を内側から見ることができる。なので、私がやった行動全て青奈ちゃんとこうちゃんにも反映される。
2人は未体験だったためVR酔いを起こしてしまった。VR映像を見ると乗り物酔いのような症状に陥るケースがあるらしい。私はなんとも無かったけど2人はそのVR酔いをモロに受けた。VR酔いが起きる原因は、映像と感覚のずれ。乗り物酔いと同じように、VR映像でも目で見る視覚情報と平衡感覚がずれることによって、脳が混乱して気分を悪くなる。
例えば電車で座っている時に窓を見ると外の景色がどんどん移り変わる。その状態では脳は移動しているという感覚になりますが、身体は座席に座っているだけと錯覚を起こす。VRの場合も同じ理由で、身体の動きと映像がずれが生じてVR酔いが起こしてしまう。
2人は電車は大丈夫だけど、私と同じでVRゲームは初めてということで耐性がなく酔ってしまい倒れたとされる。
「と、取り敢えず……片付けよう」
私は周りの物を片付けようと行動を起こすとリビングに設置されている天井照明が落ちてきた。
顔を上に上げていた私は照明に激突し、そのまま倒れた。
(そういえば、ゲーム内で天井歩いたっけ……)
私の視界はそこで途切れる。
全てを思い出した私は再度、みんなに土下座し始める。おでこを床に擦るように押し付けた。
「大変、申し訳ございませんでしたぁぁぁあああああああ!!!!」
「これからは灯にVRゲームをやらせないようにしないとね」
「そうだよね……灯ちゃんは現実で化け物相手に戦っているだから敵に当たらないようにあんな動きするのは普通か」
「テレビ画面では躍動感満載だったけど、灯ちゃん自体がリビングを駆け回るもんだから恐怖しかなかった……」
3人は私に当たらないようにリビングを逃げ回っていたが運悪く私の身体の餌食になる。
目覚めた3人は私を2階に追いやった。また暴走するのではと怯えながら慎重に2階に運んだそうだ。
私の携帯端末を使い、クロと璃子さんに連絡を取った。
外に出たく無かった璃子さんも私の行動で綾ちゃんのリビングが壊滅状態を不憫に思い、スペアの認識阻害のサングラスを付けてクロを一緒に来てくれた。
2人のお陰で完全にリビングは修復された。璃子さんはお詫びに綾ちゃんに小切手を渡したらしい。
これが私の頭に激痛が、内と外で私を恐怖していたのにも説明がつく。
皆様、ゲームをやる時には体育館位の広さを確保しながら遊びましょう!!
リス怖えぇ!?!?




