60話 明無心掴手 XXIV 深淵を打ち破らんと輝く一点の燈火
ミドリ:【速朱の流】が終了したわ
両方の武装からマガジンが強制的に外された。マガジンを見ると2色に配色されていた外側、内側にあるソドールの能力も全て透明になっていた。
これもミドリが教えてくれたこと。必殺技——もとい切り札と呼ぶべき魔魂封醒発動には膨大なエネルギーが必要になる。ここでのエネルギー源はマガジンに内包されているソドールのエネルギー。すっからかんのマガジンは当然だが、能力を使うことが出来ない。戦闘後、璃子さんに渡し、充填すれば再度使用できる。なのでマガジンを個々で使う分、魔魂封醒使用分と使い分けをしないといけなくなる。
ミドリ:今なら武者型の中に入れるわ。助けよう!
私は地上へカンバックし宙に固定されている武者型を見入る。背中を下に仰向け状態になっていて胴体の真ん中にドス黒い空間が開いていた。
魔魂封醒【速朱の流】の能力で剣圧がこの状態のソドールに一定数直撃するとターゲットの精神世界への侵入が可能になる。
ミドリ:あの空間に手を差し出して。
私は両足を黒い空間に入っていない鎧部分に足を広げながら着地した。手を黒い空間に挿入し引っ張られていく。
ミドリの精神世界とは対照的に黒い景色が辺り一面に広がっていた。
少し歩くと私の前に巨大な球体があり、その中に顔を伏せて三角座りしている人がいた。
「萌香さん……私はここから萌香さんを救いに来ました」
「……」
無言だった。それでも私は話を続ける。
「逃げるんですか?」
この場では適していない言葉を萌香さんに投げかけた。
萌香さんは私から発せられた言葉に驚いたのか顔を上げ、私を見ていた。
「『逃げる』ですって」
驚いた顔から徐々に眉間に皺がより怒りを前面に押し出し球体の膜を拳で殴る萌香さん。
「貴方に何が分かるのよ」
「分かりません——何も」
「何も知らない貴方がしゃしゃりでないでよ。もう、私をほっといてよ。月音には適当に言えば良いわ。私はどっかに逃げたって」
「自分で言ってください」
萌香さんが身体を震わせながら膜を叩きつけていく。
「じゃあ、どうするのよっ!!!!」
「簡単よ。前を見ろ!! 安齋萌香!!!」
「———ッ!」
「いつまでも後ろばっかり見ていたら何も変わらない。今の自分が嫌なら1歩進んだ自分になりなさい。簡単に諦めることは私が許さない」
肩で息をした私。ここまで言うのは自分でもどうかと後になって後悔したが今の萌香さんにはこれくらい言わないと進めないと感じたから言葉を発した。これで萌香さんに恨まれても仕方がない。その時は……
萌香さんを見ると地面にしゃがりこんでいた。私も萌香さんと同じ目線の位置にするために座り込む。
「貴方が初めてよ……ここまで私に行ったの」
「ご、ごめんなさい。急に変なこと言ってしまって」
「謝らないで。天織さんの言う通りよ。私は逃げていた。過去の傷にしがみついて全てが憎かった。会う人全員が敵に見えたわ。……変われるのかな私は」
「変われますよ。何度でも。萌香さんの願いは何だったんですか? ソドールの人形に何を叶えてもらうつもりだったんですか?」
「私の願いは……見て欲しかった。さっきまでと正反対なことを言ってて自分でもおかしいけど。それでも私は誰でもいい——私という一個人を見て欲しかった。月音以外の誰かに私はここにいますと見て欲しかったんです。今更、復讐したって私の足では剣道を続けれませんからせめて、誰かに見られたかった」
「私が見ます。モカさんを決して離しません。約束します。月音ちゃんだけじゃなく多くの人が嫉妬するくらいにもかさんを見ます。だから、私と一緒に輝かしい未来を……歩みませんか? 私が萌香さんを特別な人にしてみます」
「ズルいよ。そんな言葉を言われたら変わるしかないじゃん。急には全部変えれるのは難しいけど、まずは天織さんの言う通り1歩から始めるよ」
私と萌香さんを隔てている黒い膜に亀裂が出始め鏡のように割れていく。
私は手を萌香さんに差し出した。
「お宝を貰いに来ました。一緒に来て頂けますか?」
萌香は灯の手を取る。
「……はい! よろしくお願いします」
使用者である萌香さんが抜けたソドールの武者型は地面へ落ちていく。
ターゲットの精神世界で黒い膜に覆われている人間だけを取り出したことで、ソドールは抜け殻見たくなっており、自律して私に攻撃をすることのなかった。
魔魂封醒【速朱の流】の浄化機能でターゲットを救っても成分はまだ採取できていない。このまま放置すれば巨大な鎧武者の剥製が地面に誕生してしまう。
流石に萌香さんに注射器を挿しても血液が採取されるだけ。なら、抜け殻の武者型から抜くしかないが抜けるのか不安だ。
ミドリ:もう一度、【速朱の流】を起動すれば成分は回収できるわ
ミドリ曰く、【速朱の流】で人間が入っていない状態のソドールに一撃を浴びせると成分が回収されると。【速朱の流】の発動条件が有機物と無機物を装填すること。上空で【シャーク】と【ボム】を使用したため、残っている無機物は【ダイヤモンド】だけ。
これを外れば、今度こそ万策尽きてしまう。
「萌香さん。私にしがみついてて」
萌香さんはその言葉を聞き、私の背中に背負われる状態になる。
『フォックス』!
『ダイヤモンド』!
将祇陽の護を両手で持ち頭上に大きく振りかぶりながら後ろへ引き、急降下する。
剣圧の連続攻撃は武者型の身体に無数の矢が刺さるが如くだった。
将祇陽の護が武者型の左肩から斜めに切り刻み。身体を回転し今度は武者型の身体の中心に向けてまっすぐ突き込んだ。武者型の身体を貫いた。
今まで蓄積されたダメージに耐えれなくなり武者型の身体は爆散した。
ミドリの操作で安全に着地した私と背中にいた萌香さん。
空中で爆散した武者型のソドールの肉片が地面に飛び散る。すぐさま、飛び散った肉片が私の所に集まる。ものの数秒で1つに集約し、いつもの注射器の形になり地面に落ちた。
私は注射器を拾い上げる。前回、回収した武者型の成分とは違うのが分かる。前は成分を抜いたけど雨が止むことがなかった。しかし今回は遂に……
手を傘にして空からの光を防御した。
「良く晴れたね!!」
雨雲がなくなり始め、太陽の光が降り注ぎ水溜まりが鏡のように景色を反射していた。
出口のなかった雨の中、誓いあった風が堕ちた心を救い、自由の空を手にする。
魔魂封醒使用後はマガジンが空っぽになってしまう。再充填には璃子に預けても数日かかり、その間は残りのマガジンだけしか使えない。
普段使いするか魔魂封醒用として使うかを決めておかないと後が苦しくなる。
今度の戦闘、全てこれ出せば良いんじゃないと思うが、あくまで普段の成分採取手段ができないタイプのソドールに有効で、普段のソドールにそのまま魔魂封醒を打ち込むと爆散し、2度と成分が回収できなくなる。
敵の悪魔には有効かも......
1回の戦闘に対して普段使用で消費されるエネルギーは100%中10%。
魔魂封醒の場合は100%中100%全て使用される。
※【 】は空っぽを表している。
現在、灯達が使えるソドール能力。
No.16 フォックス 煉瓦茶色 ⇨【 】
No.35 スパイダー 赤紫色
No.47 シャーク 青水色 ⇨【 】
No.48 ボーン 茶橙色
No.50 ボム 黒橙色 ⇨【 】
No.52 ダイヤモンド 水白色 ⇨【 】
No.59 アイヴィー 緑黄緑色
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No.12 ??? ???色




