59話 明無心掴手 XXIII 自由の空へ
行くぜぇぇえぇえぇえええええ!!!!
必殺技だあああぁあああああああああああ!!!!!
私達は外へ戻っていく。
目を開けるとボロボロで無残な姿をしていた私の身体はすっかり元通りになり傷の痛みがなかった。
「手始めに完治させたわ。これで再戦可能ね」
「ありがとう。てか、箱が喋るって中々、奇妙だね」
クイーンズブラスターには鮮やかな緑色の箱である翠の陰包徳が挿されている。小型のスピーカーなどは付いていないのにさっきまで精神世界で話していたミドリの声が響いていた。どういう仕組みかな。まぁ、良いか!! それよりもまずは武者型を止める。
ミドリの言う通り、右腕は折られ腫れていたが元に戻り、足の傷も初めからなかったですよと身体が私に言っているみたいに思えた。身体はしゃべらないのにおかしな感覚だね。
クロが私の所まで滑り込みやってきた。
「その様子はミドリを手懐けたようね」
「......先輩。あたしはペットじゃおまへん」
「灯に籠絡された人はみんな灯のペットなの。ミドリ、覚えておきなさい」
「私……そんな猟奇的な事してないけど。クロは後でお仕置きね」
「ほらね」
私達の元に歩み寄る武者型。
「さっきの変わり果てた姿が一瞬で……どんな手品を見せたのかな」
「新しい友達のおかげだよ。これでやっと貴方の深く奥にある心を晴らせます」
「何度やっても、結果は変わらない……」
「どうかな? 試してみますか、武者型さん」
「良いわ。今度こそは貴方の息の根を止めてあげる」
私はクイーンズブラスターのトリガーを引く。
「行くよ! ミドリ」
引き金を引くと翠の陰包徳は展開し、銃身が細長い形状をしている銃になった。服も新しいモノになっていた。白を基調とした長袖の騎士服とゴスロリが融合したワンピースドレス。スカートは黒色で私の膝部分までしかない。胴体部分にはボタンが付いており全て銀色。鮮緑色のネクタイが付いていた。
銃は若緑——明るく浅い黄緑色をしており、白色の装飾がされているマスケット銃を左手。右手にはロングソードの翠の陰包徳専用武器:将祇陽の護を持つ。
私の周りだけ雨雲で邪魔されていた空からの眩しい光が差し込み、太陽の光で服が照らされ煌びやかを見せた。私は武者型に対して将祇陽の護を突き出す。
「貴方の力、頂きます!」
すぐさま元の雨の世界に逆戻りになり、上空に漂う雲が武者型の意のまま操られ私に向かう。
銃を連射し、そこから放たれた銃弾を雲に当てる。
雲はいくつもの種類が存在する。空にベールがかかったように見えたり、輪郭がはっきりとしていて見た人達は綿菓子などを想像させてしまう雲がある。今ここを覆っている雲も灰色がかかって厚い雲。さっきのは多分例外だが、太陽の光が絶対に差し込むことがない遮断された世界になっており日中でも暗い景色が漂う。黒色の雲もあるらしい。
この雲達だが、当然、気体で構成されており人間が掴むことは難しい。銃弾で貫通しても雲本体には影響がなくダメージもゼロだろう。もし、雲自体に頭脳があり痛覚を身体全体に送れる電気信号があれば話は違うが、そんな話が聞いたことがない。恐らくだが。
兎に角、気体を攻撃しても時間を奪うだけ。しかし、私はある検証をしたいがために敢えて撃った。
雲の後に武者型が刀を構えながら私に迫る。
両者の真ん中にある武者型が私に差し向けた雲の刺客から緑色の行動が読めない動きをして生えてきた。
(正直賭けだけど.......実験成功!)
雲から出てきた蔦が武者型を襲う。
雲の中にある水分を利用し【アイヴィー】を起動。一瞬の足止めをしてくれた。
右足を溜め、超高速で跳んだ。右下から左上に将祇陽の護を振り武者型の脇腹を斬る構えをする。襲い掛かるロングソードを自身の刀で受け流し、カウンターを仕掛けようする武者型。刀先が灯に向けられたが擦りもしなかった。身体は実体を無くし煙の如く消えた。
灯は自分が高速で走っているのがようやく理解し驚いた。今までは身体ではっきり自分が走っているなと頭で理解していたが、今の数秒の出来事は思考が追いつくのに時間がかかった。
ミドリ:今は貴方の体内に入っている悪魔因子は一気に40%になったわ
先程は翠の陰包徳の箱からミドリの声が流れていたが、私の脳内に直接、ミドリの声が流れてきた。
ミドリ:でも、安心して。無駄な力を抑え効率よく活性化させているから。
そう言っていたミドリ。私の目を覆っているマスクのディスプレイに23%+αと表示されていた。23%は現在の身体に侵食されている数値。+αが翠の陰包徳を使った結果、活性化する悪魔因子だと思う。
青奈:一気に窮屈になった感じがするわ。
黄華:おしくらまんじゅう状態になっている気分。
ミドリ:もっとスリムになれば良いんじゃない
2人:はぁ
青奈:新入りにはここのルールを教えないとね
黄華:灯のペット=僕らのペットでもあるか。楽しそうだ
残りの2人が喋るのは慣れている。ここに更に1人追加の合計3人が頭の中で会話し外で絶賛戦闘中の私は内側からもダメージを負っている衝動に駆られている。
隙をほんの少しあっても攻撃のチャンスを逃すことはせず、重そうな鎧を斬りかかる私。これまでの戦闘では幾重にも攻撃を当ててきたが鎧に傷がつくことがなかった。だが、この将祇陽の護は最も簡単に傷をつけることが出来た。
(涙が出そうだよ……)
青奈:泣きたくなるのは分かるわ。こうも簡単にダメージを与えられるなんて
黄華:今確認したんだけど、僕らの武器。どれも使用不能になってない!?
灯:壊しました……
ミドリ:この武器のスペックは上がっている。けど、奴にダメージを与えれたのはあの武者型の身体を覆う使用者の心のおかげ。
灯:どういうこと?
ミドリ:私に浄化能力がこの剣に直接流せれることを確認したわ。どういう原理か私の頭では解明できないけど、浄化を纏った剣で攻撃しているから少しずつ心の膜が剥がれていっている。
今まではその心の膜なるものが私達の攻撃を遮っていた。しかし、ミドリの浄化能力を纏った将祇陽の護で斬ってきたから膜が剥がれ攻撃が通りやすくなった。これによって武者型への攻撃が可能になる。
緑白色の将祇陽の護が風にのって唸る。
徐々に鎧に亀裂が生じる。武者型もただやられない。自身の能力をフル活用し灯の周りを瞬間移動する。滴る雨から雨へ。右、左、上、斜めなどあらゆる方向から攻めてくる武者型。地面に水溜りがあれば下から引き摺り下ろすように襲い掛かるがその場で跳び、身体を反転しながら将祇陽の護に狐を描かせ、武者型の刀とぶつかりあい甲高いけたたましい轟音がこの地を刺激した。刀の感触がなくなるや一瞬の内に背後を取られる。
武者型の渾身の一撃が放たれる。しかし、この攻撃も不発になり斬撃は地面へ突入し割れた。
着地した武者型は辺りを見渡したが灯はどこにもいなかった。
(どこだ……まさか)
上を見上げるとそこには先程までの騎士服ではない別の衣装を着て宙をふらふら浮遊していた。急に羽が生えたわけではない。現に灯が瞬時に切り替えた新たな衣装に羽を付けると中々奇抜なファッションになる。黒が半数を占めていた騎士服が今度は白が半数占める巫女服に早変わりし両肩には羽衣伝説で語られる天女の衣。それと酷似している緑色の羽衣が飛行の手助けをしていた。
「一瞬で服が変わった?」
どうやら、灯の方も突然のことだったらしく疑問が出る。
ミドリ:騎士服の名はセファト。その巫女服がミラバだって書いてある。
ミドリの説明ではこの巫女服になっている時だけ飛行も可能になると。飛行はマニュアルかオートで操作できる。私が操作できるし翠の陰包徳にいるミドリに任せることも可能だと教えてくれた。今回はミドリ主導の元、飛行をやってくれる。私は攻撃に専念することにした。
武者型はよっぽど私に背後が気に入っているのかまた後ろにいた。
「飛んでいるから何だ」
軽やかに私は回避し、遥か上へ飛んでいく。灰色に染まっている雨雲に侵入していき悲しみのない自由な空へ。
雲を抜け、雲一つない青空が私の瞳に焼き付いた。
「久しぶりに満天の青空を見たよ」
ミドリ:灯、ここから一気に行くわよ
ミドリの指示の下、私達初の必殺技がお披露目させる。
私は上を見上げるが一向に怪盗が降りてこない。
少々、厄介な変化を遂げ私を追い詰めてきたが飛行して早数分。
「逃げて……流石にないか」
ある種の信頼を怪盗に抱いている私は迎え撃つ準備をする。
(……来たか!)
雲から出てきた一筋の線。飛行能力と超高速の合わせ技で急降下していくと思われる。私は雨を階段で駆け登るかのように上空へ移動する。
(奴のあの高速移動を注力しているなら武器が上手く使えないはず)
奴が武器を出す前に刈り取ると意気込んでいたがその気持ちが一瞬の内に消え去る。
雨の中に侵入してきた細い線がどんどん近づていく。武者型はこれを刺すなり斬るなりする予定だった。しかしその細い線が近づくにつれて大きく刃状に形状を変える。瞬時に場所を移動し紙一重で回避を成功した。
だが、その回避も無駄になっていく。
初めに落ちてきた細い線の後に次々、何本の線が降りてきた。その線が全て武者型を両断する威力が一つ一つに感じられ恐怖し始める。
強い閃光を放ち、落下していく斬撃の雨。武者型に激突していく斬撃もあれば通り越して地面にいく斬撃と降り注ぐ強力な攻撃が武者型に迫る。刀で防ごうとしても追撃が続き防ぐことも憚れるようになる。
「魔魂封醒」
青い空を背景に私は下に向けて将祇陽の護を振り下ろしていた。振り下ろされた将祇陽の護の剣身から剣圧が生まれ細い線となって下にいる武者型へ届ける。
将祇陽の護に組み込まれた機能——所謂、必殺技が現在、発動している。
将祇陽の護の能力——魔魂封醒は将祇陽の護とクイーンズブラスターにソドールのマガジンを同時に装填することで起動される。将祇陽の護という武器には幾つもの能力がある。
1つは私が行っている技。順番こそないが片方に有機物のマガジン、もう一方に無機物のマガジンを装填すると、将祇陽の護を振ることで無数の剣圧を飛ばして攻撃をするもの。この剣圧の数は簡単に言えば無限。敵が倒れるまで無尽蔵に放たれる回避不可能の攻撃。実は璃子さんが当初、付けていた機能はここまで。ミドリが私に教えてくれた追加機能は剣圧に浄化機能が付与されるものだった。将祇陽の護で直接的接近戦で浄化。魔魂封醒発動で超遠距離からの強威力の斬撃と浄化攻撃。
「貴方の心をこじ開けます!!」
クイーンズブラスターに【シャーク】。将祇陽の護に【ボム】を装填し同時にトリガーが引かれる。将祇陽の護の剣身から迸る鮮やかな緑色の閃光。
「届けぇぇぇぇええぇぇぇえ!! 【魔魂封醒】:【速朱の流】!!!」
侵食率:23%⇨40%⇨23%+α
1回、急激に悪魔因子が活性化しミドリが内側で調整することで+αと言う形にする。そこから無駄なエネルギーを将祇陽の護の力へ譲渡させる。戦闘終了後の残った因子数値が灯の体内に蓄積される。
ほとんどは燃えカス程度しか残らない。終わっても1〜2%しか上昇しない。
翠の陰包徳の使用時間も気にしなくて良くなる。無制限に変わった。
魔魂封醒:速朱の流
ソドールマガジンをクイーンズブラスターと将祇陽の護に1本ずつ装填することで使用可能になる必殺技。
起動方法はマガジンに内包されている能力が有機物と無機物であること。
速朱の流は元々は無限に等しい剣圧が降り注ぎ敵を蹂躙する予定。クロが璃子に頼んだことで侵界状態のソドールを浄化作用に改良した。一定数、速朱の流の剣圧に当たった敵はソドールとターゲットを切り離れる。
魔魂封醒には残り2種類存在する。
・有機物×有機物⇨?朱の?
・無機物×無機物⇨?朱の?
灯達が使えるソドール能力
No.16 フォックス 煉瓦茶色
No.35 スパイダー 赤紫色
No.47 シャーク 青水色
No.48 ボーン 茶橙色
No.50 ボム 黒橙色
No.52 ダイヤモンド 水白色
No.59 アイヴィー 緑黄緑色




